付き合いの比較的長い二人
ルルとヴォーネがしなければならなかったことは、実はそれほど多くはない。要は彼女達のしたいことができるようにそっと背中を押してあげるくらいのものなのだから、やること自体は少ないのである。
十日間という期間は、何もしないには長く、何かを為すには短すぎる時間である。
そのため動議付けというのは、強い意味を持っていた。
二日目の夜、ルルは個人的にミーナと話をしていた。
彼女達はウィリス達とは少し離れた小屋の中で、二人で囁き声で話し合う。
喧嘩をしたり泣かしたり泣かされたり、辛く当たったり仲直りをしたり。
二人は他の者達よりも深い仲で結ばれていた。下手をすれば殺し合いの喧嘩をしかねないほど険悪だった時期があると言われても、今の二人を見た人はそんな話を一笑に付すことだろう。
最初は雑談、もう幾度もしたような世間話から始まり、そして話題はすぐに核心に迫る。
ミーナの中で蟠りとなっているのは、ダンとの遭遇戦。ヴァンスに助けられなんとか彼女達が命を繋ぎ止めたあの戦いだった。
ミーナは自分がダメだったから、彼が傷ついたと頑なだった。それは事実であっても、物事の全ての側面を言い表せてはいない。ルルはその一側面を、たとえそれが偶然と幸運の産物なのだとして嬉々として話題に出した。
「でもミーナがいなくちゃ、バルパさんは死んでた。あなたが彼を、助けたんだよ」
「それは……そうだよ。助けたのはヴァンスだから私が役に立ってない、なんて言わない。だけど、なんていうか、その……違うんだ」
「違う?」
「私が目指してたのは、死にかけのバルパをなんとかするための時間稼ぎじゃなくて、一緒に肩を並べて戦闘についていける……そんな強さだったんだ。だからこないだのあれは、違うんだ」
望みが高い、そう言ってしまうのは簡単だ。
だが横で誰よりもミーナの努力を見てきたルルには、その言葉が生半な覚悟から発されたものではないことを知っていた。
だから彼女がするのは、バルパについていくことを諦めされることではなくて、どうすればより背中に近づけるかということへのアドバイスという形になる。
「でも魔法使いである以上、あの戦いの中で肩を並べ合うのは実質的に不可能じゃない? 相手に狙われてもなんとか出来るぐらいの直接的な戦闘能力がなくちゃ、最初に潰されるかバルパさんへの餌として使われて終わっちゃうよ?」
「それは……確かにそう。今の一撃の発動時間を短くして必中レベルに上げるのは勿論だけど、餌として邪魔したり標的になって迷惑をかけたりしなくていい方法がもっとあればいいんだけど」
「近接戦闘はどうなの? 魔力はあるんだから、良いところまでいけるんじゃない?」
「無理無理、結構頑張ってみたけど一定以上の強さの相手にはこっちの力を利用されて終わっちゃう。知覚不能なレベルにまで磨き上げない限りは、いくら速くてもテレフォンパンチにしかならないから。そっちにかけるより魔法に充てた方がよっぽど有意義だよ」
「一応私が発動時間まで護れる障壁を張って、ミーナが必中の一撃を当てるっていうのを常態化できたら戦闘能力としては上等だと思うんだけどね」
ルルは既に自衛や牽制用の最低限の攻撃能力を獲得したあとは、聖魔法の修行しか行わぬようになっていた。適材適所、自分が攻撃力を1上げる間にミーナが5上げられるなら、攻撃は彼女に任せればいい。そんな他人をしっかりと頼りにすることができるくらいには、彼女は大人だった。
「それにやっぱり人間だと魔力の通りも悪いし、強引に魔力をひり出すと内側から身体が爆発四散しそうになるんだよね。攻撃力はなくても逃走のための脚力強化は、バルパに少し劣るくらいにはしたいんだけど」
「そうだね、機動力はやっぱり大事だもんね。そのへんは装備とかでなんとかするしかないかも」
「今なら少しは空も飛べるけど、そんなことしてもいい的になるだけだからする意味もないし……うーん、一応身体強化を足に集中させればある程度は速くなるんだけどさぁ。あれって基本的に元の能力に乗算する形だから厳しいんだよね。私……運動神経よくないし、胸もあんまりおっきくないし、それに性格もあんまり良くないし…………」
一瞬テンションが元に戻ったかと思うとまたどんよりとし始めるミーナ。
「ま……まぁ頑張るしかないよ。まだ九日もあるんだから、折角だし挑戦とかしてみたらどう?」
「そうだね……また水開けられたくはないし」
瞳の光が戻り始めていた彼女を見てとりあえず大丈夫そうだなと一心地つくルル。
彼女がミーナと話をしている場所から少し離れたところでは、ウィリス達もまた彼女達なりの話し合いを行っていた。




