二人で頑張りましょう
暗い室内、場所はウィリスの事情を鑑みて幌の中。彼女達は面を突き合わせてヒソヒソ声で会議を開いていた。
バルパには魔力感知があるために実際問題音量の大小に大した意味はないのだが、なぜか声が小さくなってしまうのである。
「はい、それじゃあ皆さん何します? ……と、レイあたりなら手を打ちそうよね」
「……黙祷でも捧げとけば?」
「レイは死んでないですよミーナ……天使だからちょっと冗談になりにくい感じですね」
「……とてもつらい」
「……エルル、一日バルパに会えないだけでそんな顔になってたら十日後には魂抜けちゃってるぞ」
「とてもつらい……会いたい……」
「語彙力……」
以前よりも少し口数は増えたが相変わらず要点以外をバッサリとカットした口調のエルルは、明らかに気落ちして暗い顔をしていた。効果音で例えるならどよーん、顔のはしはしに縦線が入ってそうな落ち込み具合である。
訓練についていこうとしたのを断られたのが堪えているらしかった。ピリリよりも若い年端もいかない状態だと、やんわりとしたものであっても拒絶というのは嫌でたまらないものなのである。
(……どうしてバルパさんの周りには依存癖のある娘達ばかりが集まるんでしょうか……私もあんまり人のこと言えませんけど)
自分で自覚できているだけまだマシであるルルは前世で業を背負っていたのだろうかと邪推し、周囲の皆の全体的に暗澹とした様子を見つめる。
地面にうじうじと円を書いていそうなミーナ、ぷりぷりと頬を膨らませたかと思えばどうしてよ……とぶつぶつ怪しい呟きをし始めるウィリス。普段と変わらないのは自分とヴォーネ程度のものである。
十日間離ればなれというだけでこれとは、明らかに以前と比べて状態が悪化しているとしか思えない。バルパが以前海よりも深い溝に行っていた時よりも期間は短いはずなのに、調子は以前と比べるまでもなく悪そうである。
『好きにすればいい、俺についてくる以外の方法でな』
彼の言葉に愕然とした面々は、することもなくうだうだと時間を過ごしていた。話し合いというよりかはただ時間を潰すことを目的とした時間潰しの行動をしている彼女達。
彼女達をもっと上手く操縦するのなら、やり方というものがあるだろうに。ルルは死屍累々たる有り様である彼女達を見て苦笑する。
適当に慰撫なりプレゼントなりを餌にして別のことに精を出させてやった方が気も紛れるだろうに、彼は相変わらずそういう方面に頭が回らない。
ルルはここにいる他の者達とは違い、どちらかというとバルパへ対する思いはフラットだった。最初は違かったようにも思えるが、今彼女が抱いているものは恋慕というよりかは思慕といった方が良い。
ある程度冷静なまま、透徹とした態度のままでいられる彼女には、バルパがしようとしていることも、彼の考えていることも、ある程度は理解できていた。
実際それがかなりの部分で的を射てしまっているあたりルルもおよそまともではないのだが、彼女はそれには気付かない。
「どうすればいいと思います?」
「放置……してたら、ご飯食べるのとかも忘れてそうですよね」
ルルと同様かなり冷静に周囲を俯瞰できているヴォーネ、自然話し合いは二人をメインにして行われるようになっていく。
「精神的支柱……なんでしょうかね、皆にとって。確かに頼りになるとは思いますけど」
「どうだろう、そんな単純なものでもないような気もするけど」
彼に命の危険を助けてもらった経験が、ここにいる皆は一度はある。
だからこそ彼女達は今度こそ、自分が助ける側に回りたいとそう強く思っているのだ。
だが自分よりも速く走れる人間と競争をしていて、追い付けるはずがない。結果を見ればミーナが一部分で肉薄出来るようになったくらいで、まだまだ役に立てると言えるほどのものなわけでもない。
そんな中での彼の一言が、皆にとっては戦力外通告のように聞こえてしまったのだろう。
それゆえのこの気落ちなのだ。
直接バルパが考えていること、つまり彼女達に普通の女の子のままでいてもよいという選択肢を与えようとしていることをそのまま伝えれば、あまり良いことにはならないように思える。
これは私が希釈して言い含めて、適当に気持ちの方向を決めてやるしかないか……そう後ろ向きな決意をしたルルの顔は決して明るくはない。
「手伝ってね、一人だと無理なことでも二人ならできるから」
「はぁ……? まぁ、構いませんけど」
ルルの苦労は、まだまだ続きそうだった。




