表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
334/388

心知らずに

 バルパは初めて酒を飲んでからというもの、幾度も酒を飲むことになった。別に彼が酒乱になったりアルコール中毒に陥ったりしたわけではなく、ドワーフ達は酒宴の最中でもなければ明確な約束というものをしたがらなかったためである。 

 彼は幾度も酒を飲むにつれある程度そのつきあい方を覚えた。空腹よりは満腹な方がいいといった当たり前な知識から、魔力で身体強化をしておくと酔いが回りにくくなるといった比較的一般的でない事柄まで実に色々なことを学んだが、特に後者の事実を知ってから彼の飲酒聞き込みはよりスムーズに行えるようになった。それにより様々なことがわかるようになった。

 サラから教えてやって来たこの集落に住む彼らの氏族はドーギュ族というらしいこと。彼らにも製鉄や武器製作の技術はあるが、ここの規模の小ささと職人の育成具合から考えるとここに留まるのではなくヴォーネの故郷、ミミャムルモの職人達に教わった方が効率が良さそうであるということ。 

 彼らが好物やコークスを持っていくのは約半月後であり、それまでは毎日お酒を飲んで暮らすのだと思っていること。

 彼らはやはりエルフは嫌いだが、同胞の結婚を祝いに来たのだから仕方なく認めざるをえないのだと考えていること。

 基本的にドワーフ同士の横の繋がりしかない彼らにとって、人間であるバルパ達の姿は非常に奇異の目に映り、興味の対象であるということ。

 それらの情報を集めるまでに数日の時間がかかり、その度にバルパは酒でぶっ倒れた。

 やはり自分は酒に強くはない、その事実を何度も噛み締めながら彼は二日酔いをアルコールで流すというとても非生産的な所業を行い続け、それから各々の動きを決めていった。

 まず基本的にウィリスは幌の中、もしくはバルパ達夫婦にあてがわれた家の中で待機をすることが決まった。彼女は最初の頃にあった他種族への蔑みのような物は消えていたため比較的フラットに周囲を眺め、自分の置かれた立場を察した結果それを快く受け入れた。

 その心境の変化を快く思ったバルパが彼女の肩をポンと叩くと思いきり頬を叩かれ、彼はウィリスは自分と別れてから上手くやっていけるだろうかと少しだけ不安になった。

 ウィリス以外の者達は、残った十日ほどの時間をめいめいの好きなように過ごすように通達した。

 彼は自らが行き急いでいることを自覚している、そして彼は今まで、それを周囲の人間にも強制させてきた。

 過酷な世界で生きるためには力が、最低でも自衛が出来る程度の力が必要だ。その思いは今も変わらない。

 ただバルパは道中虫使い達の所へ寄りピリリと会った時、以前よりも明らかに魔力を増やしている彼女を見てこんな風に思ったのだ。

 もしかしたら自分は彼女達を強くしてしまったことで、彼女達を死地へと追い込んでしまっているのではないか……と。

 死なないために強くしていたはずなのに、その強さのせいで矢面に立たされてしまうというある種の矛盾。そのことが彼の頭を悩ませた。

 ピリリに関しては人間達がかなり間近に迫り命の危険度が高かったからという理由があるために、それほど気に病んではいない。天真爛漫な彼女に重荷を背負わせることに思うことがないではなかったが、それでも必要な措置だったと彼は言い切ることが出来る。

 だがウィリス、ヴォーネ、そしてエルルについてはどうだろうか。

 彼女達はバルパと共に歩もうと言ってくれるミーナやルルとは違う。彼らはあくまでも人間の悪意に晒されただけの、善良な一般人なのである。

 彼女達に力をつけてやることが果たして最善なのか、そのことに関して彼は思いを巡らせ、そして答えを出せないでいた。

 だからこそ判断を保留し、彼はこの十日間を久しぶりの、というか実際ほとんど初めてに近い長期休養に当てさせることにしたのだ。

 自分には纏武の多重起動に纏を含めての三重以上の起動、それに聖属性纏武といった達成すべき目標がまだまだたくさんある。十日間くらい彼女達に時間を割かなくなったとしても、まだまだやるべきことが残っていると断言できるくらいには。

 バルパは彼女達に休養を言い渡し、そして朝昼夜に一緒にご飯を食べる以外では一切干渉することを止めた。

 それに対し、誰も何も言うことはなかった。それをバルパは自分の行動の無言の肯定と受け取り、彼は彼なりの修行を山の裏手で行い続けた。

 バルパは彼なりに納得し、彼女達を普通の範疇に収まったままでいさせることを視野に入れ始めようかと本気で悩むようになった。


 大抵の場合、他人の善意というものはおせっかいや徒労に終わることが多い。そして大して気配りもできないバルパに、彼女達の実際の真意が汲み取れた訳もない。

 彼が聖属性纏武の習得に熱を上げていた間、彼女達もまた黙って休息を取っていたはずもない。

 なぜなら彼女達は既に、バルパと共に歩むことを決めていたのだから。

 そのことについて詳しく説明をするのなら、彼女達が話し合いを行った自由行動初日の行動から、振り返らねばならないだろう……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ