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命の灯

 バルパ達が一塊になって歩いていると、すぐにドワーフとそれに連れ添って歩いていたヴォーネの足が止まる。

 辺りを見渡すと見えるのは傾斜のある荒れた土と、岩肌の露出している丘陵ばかりである。だが中でも一ヶ所、中心と思われるバルパ達の視線の先には、幾つかの家々が並び立っていた。

 ある家は崖といって差し支えないほど傾斜の急な場所にあり、またある家は屋根の上にまで火山灰が溜まっている。岩に面している家も、普通なら屋根がたわみ壊れるほどの白い火山灰を載せている家も、どれもこれも石で出来ているようだった。中には金属らしき光沢が見えているものもあり、バルパの魔力感知で反応がある魔力を含有した資材を使っている家もあった。

 全体的に灰色の、色をどこかへ置き忘れていってしまった世界。バルパは彼らの家を眺めてそんな感想を持った。

 歩いていると、途中から鎚と鉄のぶつかる音が聞こえるようになる。耳がキーンとなってせいか、ウィリスが長い耳をぺたんと器用に折り畳んで耳を塞いでいた。

 ドワーフの姿がチラチラと見えていたが、一見すると少しとがった耳と気持ち小さい身長を除けば、普通の人間となんら変わらぬようには見えなかった。彼らが全員、世界中の酒を飲み尽くすほどの飲んべえであるとはどうにも信じられない。

 自分達の居住区へやって来た同胞以外の者達を物珍しいのか、彼らは扉を少し開けてはバルパ達の方を向き、視線があってはびっくりして扉の奥に引っ込むというよくわからない行動を繰り返していた。

 ミーナが面白がってがおーと手を広げると、向こうにいたヴォーネがすたすたとこちらにやって来て彼女の頭を叩く。


「遊ばないでください‼」

「別に遊んでなんかないよ、ちょっと面白がってるだけ」

「ミーナ、そんな子供っぽいことするのは止めておきなさい」

「うん、もうやらないよ。怖がらせてもつまらないしね」


 ヴォーネと一緒にいたドワーフ達に連れられ、奥まった場所にある櫓のような物へと向かうバルパ達。

 四隅に配置された火の灯された柱に幾つもの板が貼り付けられており、三段になりその一つ一つに人間の背丈ほどの間隔が空いている。

 そしてその三段のスペースには、びっしりと何やら樽のようなものが敷き詰められていた。

 嗅覚を強化していたバルパは、敏感な鼻でその正体を看破し、露骨に顔をしかめる。

 準備の時間などというものはほとんどなかったにもかかわらずこれだけの酒が置いてあるというのは、いったいどういう訳なのだろうか。常に酒を飲むための準備は整えている、ということなのかもしれない。

 彼らを歓待する準備、というものは非常にわかりやすかった。

 どしどしと運び込まれてくる樽、明らかに濃い味付けであるとわかる肉料理の数々。そしてツンと鼻に突き刺すようなアルコールの香り。

 バルパ達は彼らに言われた通りに、大きな櫓の真正面で胡座をかいて準備が行われていく様子をジッと見つめていた。


「バルパさん、お酒だけは絶対に飲んでくださいね」

「なぁ、帰っていいか? さっきから普通に仲良さげに話してたし、もう俺はいらないだろう」

「だ、ダメですよっ‼ いきなり帰られて嘘が露見したら私はもうこの場所にいることも、連れてってもらうことも出来なくなります‼」

「その口ぶりからすると、帰れそうなのか?」

「はい、そこまで遠くはないらしいです。私達はかなり時間に大雑把なので、実際のところはどうなのかわかりませんが」


 彼女の旅路をより良き物にするためならば、致し方なかろう。バルパは覚悟を決めて目の前に並べられている樽が割られるのをジッと凝視していた。

 儀礼用の物と思われるごてごてとした装飾の鎚で樽の上底が割られる。そしてあたりに広がる酒の臭いが一気に濃密なものになった。

 何も言われていないからバルパ達は座ったままだったのだが、先ほど案内してくれたドワーフも、そして見たこともないドワーフ達は一緒になって樽から好き勝手に酒を注いでいた。

 自分達を置いて勝手に酒盛をしている彼らを見て、隣にいるヴォーネに聞く。


「あれが普通なのか?」

「普通……ではないですが、さっきも言った通り私達は時間の感覚がゆっくりで、それに酒の席ではどんなことでも無礼講という風習がありますから」

「なるほど、ではとりあえず俺達も勝手に始めるとしよう」


 バルパは視線の先にある四本の柱を見た。あそこに灯っているのが彼らの命の灯なのだろうか、かなり離れているように見えるドワーフ達も特に体調が悪いようには見えない。

 ヴォーネが以前死にかけていたのが嘘のような彼らのその元気っぷりを少し不思議に思いながら、バルパは用意された燻製肉のいぶりをつまみ始めた。

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