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ディグ

「随分と殺風景な場所なんだな」


 バルパは集落の近くでいざこざが起きても大丈夫なように、ヴォーネだけを幌から出させ、二人で並んで歩いていた。

 もし何事か事件が起こっても、最悪バルパが全力で逃走すればミーナ達が傷を負うことなく逃げられるだろうという考えから為された措置である。同族であるヴォーネならば一人で取り残されることになっても無下には扱われないだろうという考えからの行動である。


「まぁ、エルフじゃそうはいかないけどね」


 とはヴォーネと軽く挨拶を交わしていたウィリスの言葉だ。

 基本的に生き物というのは排他的な存在だ。人間は人間以外の全てを嫌い、そして魔物や亜人達にもまたそれぞれ好き嫌い、種族間での仲の良い悪いというものが存在する。

 エルフというのは排他的の極まった種族であるというのは、彼女の集落が近くに来た生物を皆殺しにしていたという言葉からもわかる。ある種偏執的なまでの潔癖である彼らは一度エルフの共同社会を出たエルフすらも、異端として退けるきらいがある。その分ウィリスは帰ってからが大変そうではあるが……まぁそちらについては後から考えればいい。

 ドワーフもまた、亜人の中では排他的で有名な種族である。だが彼らはエルフとは違い、同族・同胞というものに対しての思いというやつがかなり強い。

 同盟を組んだりもするし、一人のドワーフが誘拐されたというだけで集落全員が討ち死にするまで戦ったなどという本当か嘘か判断に困るような噂まで流れるほどだ。

 バルパ個人的には、ヴォーネが消えたことでドワーフ達全員がどこかにカチコミをかけている可能性は十分にあると考えていた。

 ただドワーフ達が生存に必要である命の灯がかなりのレアアイテムである以上、心配はそこまでしてはいない。

 実際はなんとかなるだろうと考え、もしもの時のためにヴォーネを受け入れられるような場所を探す。バルパに出来ることといったら、それくらいなものであった。

 もはや彼女はバルパの物ではないし、そもそも彼は最初からヴォーネを自分の持ち物として認識などしてはいなかったが、それでも同じ時間を過ごしてきた旅の仲間であることは変わらない。


「それはそうですね、ドワーフは皆、自分の衣食住なんかどうでもいいと思っていますから。バルパさんはドワーフの三大欲求ってなんだか知ってますか?」

「……いや、知らん」


 思考を戻し隣に見えるのっぺりとした顔を横目に、火山灰というらしい火山の一部だったものを見つめる。

 バルパは雪を見たこともないから、雪みたいなものですという皆の説明もよくわかりはしなかった。だから彼は普通とは逆に、雪とかこんな風に降り積もるものなのかという納得をした。


「酒・鉄・女です。信じられないと思いますけど、ドワーフって冗談抜きで一週間程度ならご飯抜いて酒だけで暮らせるんですよ」

「なるほど、まぁそういう種族もいてもおかしくはないな」


 バルパは以前街で見た四足歩行型の植動一体のドゥードゥル種という種族のことを思い返していた。背中に緑の植物を植えている彼らは、植物の行う作用のおかげで食事をせずとも日光を浴びるだけで生きていると聞いたときは、それは驚いたものだった。 

 あんな風に何も無くても生きていける奴等もいるのだから、酒で生きれるような種族がいても全くもっておかしくはない。


「赤ん坊にも酒をあげるんです、母乳代わりに」

「……そこまで行くと、流石に狂っているな。もし赤子が戦うとなった時、親が責任を取れんだろうに」

「……いや、赤ちゃんが戦うことになんてなりませんから普通」

 

 俺は生まれた時から食うか食われるかの毎日だったが……とも思ったが、よくよく考えれば自分はダンジョン産の魔物であり、普通の存在ではなかった。

 通常ダンジョンはおろか自分が生まれた階層からも出ようとしないダンジョンの魔物と比べると、自分はかなりの異端である。だから彼はそのことに関しては口をつぐんでおくことにした。


「火山灰、これが火山の一部だというのはどうにも信じられんな」

「火山の一部、というのも違うと思いますけど。なんていうんでしょ、火山を井戸としたらそこから引き上げられる井戸水、みたいな感じだと思います」

「なるほど、わからん」

「ですよね、私もよくわかってませんし」


 二人はゆっくりと歩きながら、先へと進んだ。

 バルパの魔力感知の反応は、遠くに幾つかの反応を捉えている。


 ようやく彼らの視界にこちらを伺う者達の姿が見え始めたのは、彼らが歩き始めてから数分してからのことだった。

 バルパは敵意がないと示すために取り敢えず武器を全て無限収納にしまい、鎧だけの状態になった。

 とりあえず話をするべきだろうか。そう考えていると向こうにいた三つのドワーフ達がのっしのっしと駆け寄ってくる。

 体格はがっしりとしているが、寸胴体型というほどではない。ゴリゴリの筋肉ダルマの男達が近付いてきたために、そんなはずがあるわけもないのに何故か気温が2℃くらい上がったような気になってくる。


「そこの同胞はらからよ、氏と祖神、炉の炎を告げろ」

「ルール・レリュリラがミミャムルモのヴォーネット、祖の最たる神アンギデンの名の元に、鈍色のジルコニアを炉に灯す」

「然らば迎えよう、彼奴きゃつは何だ?」


 何やら自分のわからない応酬が繰り広げられていたために首を捻りながら相手を伺っていたバルパは、急に右腕に圧を感じた。

 すわ知覚不能な魔法が飛んできたかとも思ったが、よくみるとそれはヴォーネのぷにぷにとした二の腕だった。


「キブツを共にした、私のディグ、バルパである」

「よろしいディグバルパ、我らはお主を同胞として認めよう」


 言葉の意味は、ほとんどわからなかった。だが首に着けた翻訳の首飾りである潮騒が、ディグという言葉の意味だけはいやにはっきりと訳してくれた。


「……おいヴォーネ、聞いてないぞ」

「言ってないですからね、言ってたら私嫉妬の炎で焼かれてましたから」


 そういってニヤリと笑う彼女は、その表情筋の全てを使ってバルパにしてやったりと告げている。

 その顔を見てバルパはガクッと頭を下げ、うなだれたまま幌を下ろした。

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