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最悪の敵

 虫使い達の集落を去ってから、バルパ達は得た情報からドワーフ達の集落へと向かうことになった。

 別れる際にピリリはついていきたがったが、バルパはそれを断腸の思いで断ることに成功した。

 彼女の話では未だ人間の影は、あの一件での黒ずくめ達を除きないらしい。だが人間達の手は、一度既に伸びている。二度あることが三度ないと、どうして言い切ることが出来るだろうか。もし襲撃があったとき、彼女達の家族が、知り合いが、同族が危うくなる。

 その危険を見逃してもいいのなら好きにするといい、彼にはそういうズルい言い方をすることしか出来なかった。

 だが話を聞いている限り、ピリリが合流することは実はそれほど遠いことではないということもわかった。

 彼女は既に虫使い達の世俗への融和の旗頭としてかなりの活躍を見せている。虫使いの半分ほどは既に掌握し、後は残る頑なに抵抗する少数部族達に痛い目を見せ、内側を規律をしっかりと締め直してから日和見主義の人間達の首を縦に振らせればとりあえず虫使い達の行動を一にすることは可能になるようである。

 勿論、それで終わりではないだろう。虫使い達が同じ目的の元に進めるようになったのなら、次は彼らがしっかりと安住できる場所を探さなくてはならない。

 彼らがしっかりとした暮らしを行うためには自分達の所属する国家を決めねばならず、自らの立ち位置というやつを明確にしなければならない。

 三つある国家のなかで一体どこを選ぶのか、そして一度排斥された歴史を持つ彼らがどのようにして生活出来るだけの地位を確立するのか。

 バルパはピリリの話を聞き、虫達が生成する糸で出来た服、そして虫達の吐き出す素材で作られた住宅についての考えが頭に浮かんだ。

 絹という素材は虫から吐き出して作らせるらしいということはバルパも知っていた、つまり彼らには虫から出てくる素材であろうとも構わないということである。もちろん高品質であることは条件なのかもしれないが、少なくともバルパはここの虫達が出す素材は、リンプフェルトの街並みで見たような、或いは魔物の暮らす街に並んでいたような綿布とは十分に戦えると考えていた。

 それにあの住む場所を変える度に作り直すあの簡易住居は、十分な魅力である。

 簡単に組み立てることが出来、不必要になれば簡単に溶解させることが出来るあの特殊な素材は、建築以外にも役立つように思える。

 簡易住居の提供あたりが、虫使いと街の両方にとって利をもたらせる点だろうとバルパは推測し、一応提案しておいた。

 街の外郭に沿って簡素住宅を並べるなり、あるいはスラム街の者達に開拓の報酬として出す住宅として築造してやるなり、その使い道はあまり政治方面に明るくないバルパにも十分に理解できた。

 建築技師達の仕事を奪いかねないほどに彼らは活躍するだろう、彼らの生活の安寧と僅かばかりの金銭と引き換えという条件で。

 ピリリが合流することになるのはそのような取引を、彼女の武力を用いた硬軟織り混ぜた交渉の末に結んでからのことになるだろう。

 あるいはそれよりも前に定期的に帰るというような条件付きで自由を与えられるという可能性も考えられる。 

 彼女が少し離れて、現実を見て、色々な魅力的な人間を見たあとで、それでも自分を名前で呼び親しんでくれている。それだけのことがバルパの気持ちを、どうしようもないくらいに高揚させた。

 バルパバルパと言いながらニコニコ笑って近付いてくるピリリは、以前よりも少しだけ色っぽくなって、以前よりもずっと女の子らしくなった。だがそれはやはりどれほどの変貌を見せていても、ピリリのままだ。

 相変わらず旺盛な食欲はとどまるところを知らず、それどころか以前よりも遥かに食事の量が増えていた。

 バルパが適当に出したワイバーンを夜が明けるまでに丸々一匹平らげたのは、彼をかなり驚かせた。

 

(楽しかった……たまにはああいうのも、悪くない)


 行く場所行く場所で結構なバカ騒ぎをしているからたまにという形容は不適切なのだが、その分出来事の一つ一つが濃密であるためにたまにという言葉を使いたくなるのだ。

 手を振りながら別れたくないと泣きついてくるピリリを餌付けしながら別れの場面を思い出してから、次に行く場所へと思いを馳せる。


(ドワーフの集落のある山の麓へは、まあ数週間もあればいけるだろう)

 

 サラの情報では彼らはそれほど排他的ではないらしい、それはバルパにとっては実に好都合だった。隷属の首輪がなくなり誤解される可能性も減ったために、一見すると問題はないようである。

 だが実はバルパにはドワーフの集落に行きたくないと強く思うだけの、とある理由があった。

 装備の修復改造をしてもらうこと、そしてヴォーネを返すこと。重要な理由は複数ある。対し行きたくないという原因は一つ。それもひどくバルパの個人的な趣向に関する部分だ。だからこそ彼は自分の嫌だという気持ちを押して、集落へ向かっているのだから。

 彼が躊躇っている、その理由とは……


(ドワーフ達は……酒宴を開かねば話を聞く耳すら持たない、種族。俺もとうとう……酒を飲まなければならない時が来てしまったか)


 飲めば飲むほど戦闘力の落ちる恐怖の液体、それが酒である。

 ああ、飲みたくない飲みたくない。

 バルパは襲い来るアルコールの恐怖に少しだけ足を鈍らせながら、先へ先へと進んでいった。

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