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万物流転

 光が徐々に消え、コォォォという甲高い音が徐々に風に流されて小さくなっていく。


「……」


 静寂が辺りに広がる、そしてゴホゴホと咳き込むような音。


「……危ないところだったな」


 完全に跡形もなく消えてしまっている土球の横から出てきたのは、聖剣を手に握り、左手にエルルをブラブラとさせているバルパであった。

 全身に傷はなく白銀の魔力が漂っているその様子は、彼が剣の力を十全に使用していることを示していた。

 そのまま盾にしがみついているエルルの首筋にチョップをみまい、彼女を気絶させるバルパ。

 魔力感知を使い攻撃の出所を探りながら、上を見上げる。

 最初、知覚範囲には人間の魔力反応がないという結果が出た。だがそんなはずはないと使用する魔力を増やしていくと、今度はしっかりと頭上に幾つかの魔力を捉えることが出来た。

 見上げても相変わらず目で見ることは出来ないが、反応が確認できれば問題はない。

 答え合わせはあとにして、とりあえずは勝負の続きをするとしよう。

 バルパは無限収納に緑砲女王をしまってから纏武を発動し、空を駆けた。

 ミーナ達が白旗を上げるのに時間がかからなかったのは、言うまでもないことである。







「くっそ~、上手くいったと思ったんだけどな~」

「負けちゃった……」


 彼女達を負かしてからとりあえず一度休憩を取ることにした。

 彼女達の武器なのだから先ほどの種明かしはしなくとも良いと思ったが、どうやら彼女達は話すつもりなようだったので大人しく耳を傾けることにする。


「私達の秘密兵器はこれだったの」


 ピリリが横に待機させているのは、彼女達五人全員を乗せても大丈夫なほどの大きさのある巨大な昆虫だった。

 甲殻に包まれているのだが、なんというかよく見ようとするとピントがずれるような感覚がある。なんでも認識阻害のような効果を持っており、ある程度ならば生物の知覚をごまかせるらしい。

 最初から魔力感知を全力で使わなかったのは失敗だったな、とバルパは自分の慢心を少しだけ恥じた。

 彼女達は、バルパの考えや弱点ををしっかりと読み、そこを突いて挑んできたことになる。 

 まずバルパが魔力感知を使いどれだけの生体を感知出来るのかを想定し、その包囲を潜り抜けられる虫を使う。そして自分達が隠れているとバレないように、各々の魔力と混ぜ合わせたルルの障壁で即席のデコイを作る。

 バルパが攻撃に対応しながらやって来たところで障壁の中に隠れていたエルルが姿を現し、バルパの機動力と緑砲女王を封じる。

 そこにミーナの最大出力の一撃を、エルルごと焼き尽くす勢いで放つ。魔法が効かない体質のエルルが傷つくはずもないから、この時点でバルパにかなりの痛手を与えることが出来る。

 あとはまだまともに戦闘能力の残っているルル、ピリリ、ヴォーネの三人で最後の仕上げをするというつもりだったと彼女達は話していた。

 そんなミーナ達の対自分用の作戦の概要を聞き、バルパは少し不思議な気分になった。  

 まるで自分が守らなくてはいけないと思っていたものがしっかりと育っているのを知ったときのような、育てていた植物を放っておいたら自分の想定よりもはるかに大きく健やかに育っていた時のような喜びと微妙な気持ちの混ざった複雑な気持ち。

 ただ守られるだけではないのだ、彼女達は座して庇護を期待するだけの雛ではない。

 空の飛び方を学び、青く澄み渡った大空を翼はためかせ飛んでいく成鳥なのだ。

 その成長の一助になることが、自分に出来たのだろうか。

 彼女達が選んだ道は間違いなく自分が敷いた、あるいは自分が踏み均してきた道だ。

 自分を追うように歩いてきているその足音が、思っていたよりも近くから聞こえてきたことが、バルパには少しだけ嬉しかった。

 ピリリの成長は著しく、使える虫の数も種類も、そして魔力量もかなり大きく増えている。

 彼女達が話を終え、バルパの方をジッと見つめた。


「……皆、よく頑張ったな。今回は聖剣を使わされた時点で、俺の負けだ」


 胸が詰まるような感覚に陥っていたバルパには、そう言うのがせいいっぱいだった。

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