光の柱
(まずは先手必勝、ミーナを潰す)
バルパは緑砲女王をミーナと自分を結ぶ直線軌道に起きながら纏脚を発動させる、脚部に雷を纏わせながら背後を取りに行こうと大回りで迂回するルートを取った。
以前ダンと戦ったときの彼女のあの一撃こそが恐らく一度の被弾で自分を戦闘不能にする唯一の攻撃である。そう考えているが故にまず狙うのはミーナ。
「と、すれば当然こうなるわけだ」
バルパが空を蹴り立体機動を行いながら背後を取ろうとする動きに合わせて、ルル、ウィリス、ヴォーネの三人が背後を向き彼と対面することになった。彼女達が前を固めているせいでミーナとエルル、ピリリの姿は見えないが、魔力感知は三つの魔力反応を確かに知覚しているために特に支障はない。恐らく中で一番まともに中距離戦の出来るピリリが出てこないのは少し意外ではあったが、実際問題気にするほどのことではない。
こちら側の狙い、ミーナの一点狙いが読まれているということは既に織り込み済みである。既に魔法、念動術、刻印術の発動準備を整えている彼女達の様子を見ても、バルパには慌てた様子はない。
自分と彼女達では肉体と運動能力に隔絶した差がある。手心を加えでもしない限り、普段通りの実力を発揮すれば文句なく倒せる相手なのだから、それほど気負う必要もない。
バルパには魔物の持つ高い耐久性と人間とは比べ物にならないほどの魔力回復の速度もある。時間経過は基本的に彼の優位に働く。
バルパとしては無理に急ぐ理由もない。が、座してミーナの魔法の餌食になるつもりも毛頭ない。
彼がするべきはルルの援護を持ち通常の魔撃程度なら跳ね返すウィリスとヴォーネを、ミーナの射線を塞ぐような形で相手取ることである。あの魔法は直線にしか打てないという情報を事前にしっているために、対処自体は十分に可能だ。ずるいと言われればそれまでの話ではあるが、彼の手持ちの能力もほとんど全て割れているために条件としてはイーブンといったところだろう。
バルパが地面を踏みしめる、かかとに力を入れれば一瞬のうちに身体がブレ、次の瞬間にはミーナを守るように立っているウィリスの腹に拳を当て、そのまま振り抜く。
ゴギンとかなり硬質な音が鳴り、彼女が口から血を吹きながら吹き飛んでいった。すまん、後で治すと心の中で謝るバルパは、ウィリスの瞳から些かの戦意の衰えもないのを見て再び移動を開始した。
とりあえず制空権を確保しようと空へ駆けると、それを読んでいたかのようにバルパの進路方向に土が現出する。
ウィリスの念動術だろうと予想できたのは、その物量が他の誰にも出来ないほどに大量だったからだ。バルパの視界を覆い尽くし、太陽の光を完全に遮ってしまうほどに絶え間なくしきつめられた土が、バルパに降り注ぐ。そう遠くない位置にいる彼女達もまた同様に土を食らうはずだが、だとすればなんのためにと考え、そして理解する。
恐らくはエルルの魔法無力化により彼女達に降り注いだ土を除去、対策に喘いでいるバルパに向けてミーナの一撃を放つという算段だったのだろう。
ウィリスは最初から自分がやられることも織り込み済みで準備を整えていたに違いない。
バカらしくなるほど大量の土の雨をどうするべきか考えるバルパ、全力を出して効果圏内から出ることも可能だろうが、そんなことをすれば自分から距離を開けることになる。近距離であるということが一番のアドバンテージである現状、その利点を手放すことはしたくない。
(それならばそのまま降下し、直接ミーナを叩く)
バルパは落下する土と同方向に、つまりは垂直に移動をし始めた。
するとバルパの動きを見越していたかのようにヴォーネ特製の土のドームが彼女達全員を覆うように出来ている。魔力感知を発動し全員がそこに隠れていることを確認してから、バルパは土の玉へと突進していった。
土の落下よりも当然バルパの移動の方が早い。
一瞬の後に土球へ到着し、そのまま蹴破って中へ入る。
だがそこに広がっていた光景は、バルパが想定していたものとは大きく異なっていた。
「…………どういう、ことだ?」
中にあるのは人の形をした、透明な物体だった。魔力の波長もかなり当人達に似ているように作り込まれているが、恐らくはルルの障壁を人型に成型したものだろうと思われる。
自分が基本的に魔力感知で策敵を行っていることを知った上で、バレないような対策を練ってきたのだ。
彼女達の魔力は感じ取れない、気配遮断の手段はわからないが、今のところバルパは空へ戻り状況確認をしなければ敵の居場所を察知出来ない状態にある。そして残念なことに、現状空は土に覆われておりまともに移動できるような状態ではない。
恐らく今ここにいること事態が相手の狙い、とすれば自分は袋の鼠になっているはずだ。
とりあえずここからの離脱を……と考えていたバルパに、パリンと何かが弾けるような音が聞こえる。そして次に、ガクッと力が抜ける感覚が彼を襲った。
纏っていた魔力が消え、背中に重さがのし掛かってくる。その一瞬のうちに、バルパが装着していた緑砲女王へと重さが移った。
「エルル……」
「……そう」
魔力感知を誤魔化すための偽物の人型障壁の中にエルルを混ぜ、油断をさせたところでバルパの纏を解除させる。そして機動力を削ぎ、空へも逃げられなくなった状態で土の中にバルパと、あらゆる魔法を無力化するエルルが二人きり。
彼女が緑砲女王にしがみついているために、更に速度が落ちる。バルパは振り払うよりも先に相手の次の手を考えることにした。最悪エルルを盾にすれば攻撃は防げるからだ。
エルルをここに置くとすれば、次に来るのは……
「……ミーナの一撃、のはずだ」
方向はどこだ。上か、下か、右か左か。
バルパは魔力感知をフルに使い、魔力の余波から攻撃の方向を察知しようと努める。
「……上かっ‼」
バルパがそう叫ぶのと同時、エルルと彼を土球ごと焼き尽くす、光の柱が顕現した。




