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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
断章 本当に欲しかったもの
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名残惜しい、そう思えることが……

 その日もまた、いつもとやることは変わらない。ダンが魔物を空から探しては半殺しにし、ヌル達に仕留めさせる。もう彼女達は血を見ることに何も言わなくなった。断末魔を上げる魔物達に粛々とトドメを刺す様子にはまだ若干の躊躇いが残っている。流石に動きに全く支障がなくなるほどに彼女達の心を変えることは出来なかったようだった。

 だがダンは、彼なりに一週間全力を尽くしてみた結果、それでいいと考えていた。殺戮に抵抗を覚えていては、いざというときに致命的なミスを招く可能性はある。だが心を完全に殺し、自分の命令を聞かせるだけの人形を作る必要などない。そんなことをしてしまっては、自分を操り全能感に浸っていたアイツらとおんなじだ。

 だから戦うために必要な最低限だけを、与えてあげられればそれでいい。きっとそこから先、更に戦う道を選ぶのか、それともいざというときのために備えることを選ぶのか、それは彼女達次第なのだから。

 

(それに……皆案外たくましいしね)


 ダンは最初の頃、人を殺した後は肉を食べる際に抵抗が大きかった。自分が食べているものが人の肉なのではないかなどという妄想にとりつかれかけていたこともある。 

 だが彼女達は人型の魔物を殺して吐いたとしても、肉中心の食事に関しては何も問題を感じないようだった。ダンが街へ下りて買ってきたパンや野菜を食べていたのは最初の二日間程度で、あとは皆が皆肉を求めていたのは彼にとっては面白い発見だった。彼の目利きが本当にダメダメで野菜が全部しなびていたり、パンに黴が生えていたりしたこともその一因だっただろうが、やはり食べさせる肉の食材の質がかなり高かったというのが大きかったのかもしれない。食い意地もここまで来れば立派な物だ。奴隷生活は辛かったかもしれないが、それによって食事の大切さや食材への感謝を得られたのなら、全てが無駄だったというわけではないのかもしれない。ダンは彼女達の食事風景を見ながら、少しでも救いがあったことを内心喜ばしく思っていた。

 魔物を殺させ続けたことで、彼女達の身体能力は劇的とまではいえなくともある程度は成長を見せている。

 目に見えて筋肉量が増えたりはしていないが、運動量が増えてもへばらなくなった。

 彼は差し出された半死半生の魔物達を相手にし続けても息の上がっていない彼女達を見て、自分がやったことに意味があったのだという安息を得た。


 またしても肉料理のみな食事を終えると、彼女達の魔法を見てやる時間がやって来る。

 だが実際の所、ダンに出来ることは既にそれほど多くはなくなっている。

 彼にはバルパのように魔力感知をして魔力の流れを読み取ったり出来るような能力はない。故に指導は基本的には理論的な物に限られている。

 そして基礎的な理論は同じでも、魔法への向き合い方というものは基本的には人それぞれだ。あるものは魔法とは詠唱により世界を従える行為と言うし、またあるものは魔法とは世界にお願いをするための方法であると説明したりもする。

 ダンが彼女達に必要だと思ったのは、高威力が出やすく時間のかかる詠唱式ではなく、発動までのラグが少なく済む無詠唱だった。だから彼女達に無詠唱のやり方を教えたが、それ以降は基本的に何か口出しをしたりすることもなく、ただ彼女達の取り組みを眺めていただけだった。

 魔法の練習一つとって見ても、やはり個性というものがある。

 ヌルはなんでもそつなくこなすし、イツネとハツネはなんでも二人で足並みを揃えようとする。同じ魔法を一人でも二人でも使えるようにするのはダンからするとひどく非効率にしか思えなかったが、合体魔法などというものを見せられては特に咎める気にもなれなかった。もし機会があれば、僕も誰かと一緒に魔法を使ってみたい。そんな風に思える位には、彼女達の魔法には何かが乗っていた。

 ティルはやはり男の子だからか、一撃の威力の高さを求める所がある。見た目を重視するよりはマシだろうと好きなようにやらせてはいるのだが、その威力至上主義なところが今後何らかの足枷になるかもしれないと考えると少しだけ不安になりもした。

リューンは逆に威力よりも足止めに重きを置くところがある。そのくせ彼女は中で一番幼いせいか、時折妙に残酷に威力を調節したりする一面もある。子供というのは残虐だよな、と年齢的には恐らくリューンよりも幼い彼は他人事のように考えたりもしていた。

 魔法に打ち込んでいる彼女達の面持ちは、真剣そのものだ。何かに打ち込んでいる人間を見るというのは、やはり嫌いではない。

 身体強化の魔法の練習という名目でずっと組手をしているアミを地面に転がしながら、ダンはチラチラとその様子を見ていた。

 チィチィと小鳥が嘶く森の中を、爽やかな風が吹き抜けていく。

 このまま時が止まってしまえばいいのに、ダンは最後の日になって初めて、今自分が執着を覚えていることに気付く。

 そして日は一番高い場所から徐々に降り始めてくる。

 てんてこ舞いで過ごしていた時よりも、時間が過ぎるのが早い。

 ダンは自分の弟子とも言える彼女達がしっかりと魔法を使っている様子を見て嬉しく思い、その成長を素直に喜んだ。そして少しだけ、寂しく思った。

 彼は下唇を少しだけ噛んでから、大きく二度手を叩いた。すると彼女達もすぐに魔法の使用をやめ、休憩をとり始める。

 最後の実戦訓練を始めるため、ダンは獲物を探そうと大空へ飛んでいった。

 そんな彼の様子を額に汗掻く六人がじっと見つめていた。そしてダンが居なくなるのと同時、彼女達は集まって何やら会話をし始めた。

 ダンが候補を絞り戻ってきた時もまだ、彼女達は団子のように一ヶ所に固まったままだった。

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