一方その頃
時はバルパ達が戦闘を行う少し前、バルパがテントを出ていった少し後にまで戻る。
戦いに赴く彼の背中を見送ったミーナ達は、少し間を置いてから事前の打ち合わせの通りに行動を取ることにした。
「よし、それじゃあ行こうか」
「避難した方が良いというのは多分事実ですしね」
彼女達は逃げてもしもの時に備えるという選択肢をハナから捨てていた。そこにはミーナやルルは一蓮托生と考えているためであり、レイは天使族が場に留まることを選択したから、そしてヴォーネなどはどちらにしても死ぬならどうでもいいと投げやりになっているため等それぞれに別個の理由があったが、結果として彼女達は行動を勝負が終わる瞬間までは共にすることを決めていたのである。
彼女達は事前の取り決めで決められていた通りに、あらかじめ場所を指定されていた集会場に向かうことにした。避難場所としては一番耐久度が高いらしい場所だからという理由らしかったために、特に断ることもなかった。
「でも見た目は普通の家と大差ないようにしか見えないけどなぁ」
「私も中に入ったことがあるわけではないので詳しくは知りませんが、多分大差ないと思いますよ」
「集会所って名前がついているのに行ったことないのか?」
「あくまで非常時の集会所、ということですので」
「ふーん」
「ちょっとミーナ、急いでよ。戦いが始まったらどうなるかわかんないんだから‼」
ミーナの足取りはかなり戦々恐々としているヴォーネと比べると非常に緩やかだ。
「勝つって言ってくれたもん。だからそんなに急がなくても大丈夫だよ」
「そ、そんなこと言ってもさぁ、もしもってやつが」
「はーいみなさーん、急いでくださーい‼」
集会所の入り口にいたのはレイの母親であるミリアだ。彼女の先導に従い皆はその少し大きなテントの中に入っていた。
中に入って明らかに外から見たときとの大きさの差があることに気付く。
彼女達は一瞬でこれは普段自分達が使っている幌と同等の、つまり空間拡張機能のある魔法の品であることを理解した。
案内されるがままくねる廊下を進んでいくミーナ達。
「ここです」
「……こ、これは……」
彼女達は案内された部屋のその内部構造を見て、思わず言葉を失った。
全体に張り巡らされているタイルのような物体、一つ一つ枠組みがなされているその内側には、彼女達にとって見慣れたゴブリンの姿がある。
「バルパが……いっぱい?」
「これは……ウチのと、似てる……」
思わずこぼすミーナとウィリス、その驚きように満足したのか、ミリアが小さくうふふと笑った。
ルルは辺りを見渡し、数多くの人間がこの部屋に集まっていることを冷静に観察していた。数は自分達を除いて十五、それぞれがかなりの手練れだと思われる。
「こ、これは……」
「……なんという……」
彼らはミーナ達が入ってきたことにも気付かず、 一人と一匹が繰り広げている激戦に釘付けになっていた。
彼らの戦っている修練場は天使族達が防衛訓練や模擬戦を行う際に使われる場所であるため、戦闘の様子を観察するための設備が整えられているというミリアの説明を聞くミーナ達の視線もまた他の天使達と同様、映し出されている映像に固定されている。
幾つもの視点から修練場一帯を映し出しているその光景、その速度から、激しさから、映し出される場所が一瞬にして変わってしまい、何か動きがある度に別の角度の映像を探さなければならなくなってしまう。
既にバルパの勝利を疑っていないルルは、戦っているバルパを見てとろんとした目をしているミーナとは違い冷静に彼らが見つめている魔法の品を観察していた。
(……王都にある映像水晶でも、こんなに綺麗に写るものは一つもない。そんなものがこんなに沢山……それがウィリス達の故郷にもある?)
上等、などという生易しいものではない。こんなの、古代遺跡からでも滅多に掘り出されないような逸品中の逸品だ。そんなものをほとんど部外者でしかない自分達に見せるなど、普通のことではない。
(あるいはこの程度のもの、別になくしても構わない……ということ?)
ルルの脳内に幾つもの疑問が浮かんでは消えていく。
魔物の領域に来てから彼女が見てきた異常の中でも、これは大きな部類に入る。
彼女の思考を中断したのは、呆然自失とした状態の大人達に話しかけるミリアの声だった。




