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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第四章 天使の羽を踏まないで
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また会う日まで

 バルパの目の前には、その痕をしっかりと現世に残す、英雄達の姿があった。

 あるものは男、そしてあるものは女、中には十六代目勇者のような半陰陽の両性具有の者もいたが、彼らには共通点がある。それは皆が、人間であるということだ。

 その中にゴブリンである自分がいるということに、彼は酷く奇妙な感覚を味わった。

 指を開いて、すぐに閉じる。どうやら体は思い通りに動く。五感も正常に機能していて、ただ見ていることを強いられるわけではなさそうだった。


「次は一体、何が始まるんだ?」

「始まるも何も、これで終わりさ。ここは君を讃えるための……そうだね、凱旋パーティーみたいなものかな」

「そうか」


 一様にこちらを向く者達がバルパを見る視線には、複雑な意味が込められているように思える。

 三代目である蛮族の勇者ドゥードゥルはバルパを憎々しげに睨んでいる、六代目不均一の勇者ttは彼に優しげに微笑んでいる。

 一応拍手はしているが敵意を剥き出しにしている者、彼を本心から讃えていると思われる者、興味がないのか適当に手を叩くだけでそっぽを向いている者と反応は三つに別れていた。だが誰も、スウィフトを除いては言葉を発することはない。


「残留思念みたいなものだからね、彼らそのものってわけじゃないんだ。ただ残っているほんの僅かな残斯が、魂の欠片としてこうして集められているだけだから」

「お前だけ妙に饒舌なのは、どういう理屈だ?」

「それは簡単さ。僕は今君の中で、生きているからね」


 それを聞いてバルパは慌てて後ろに跳びずさる。それを見てスウィフトがおかしそうに笑った。


「大丈夫だよ、体を乗っ取るだとか、洗脳するだとか、そういうものではないから」

「俺の身体の中にお前がいるのか?」

「ううん、まぁ……近からず遠からずって感じかな。バルパ、君は自分が急に魔力感知を使えるようになったことを不思議に思ったことはないかい?」


 間髪入れずにあると答える。それは彼が彼になってから、幾度となく自問してきた質問の一つである。

 魔力が増えるということはあったとしても、魔力感知という能力が増えるなどということは往々にして聞いたことがない。もし殺した人間の力を使えるようになるならば、今のヴァンスは全世界のあらゆる能力を使える文字通りの化け物になっていることだろう。

 そう口にするとまたスウィフトがはにかんだ。それは彼の死に際に浮かべていた苦しそうな悲しそうなそれとは似ても似つかない。あるいはこちらが彼の本性なのかもしれない。バルパはそんな風に感じた。


「それが実のところ、その推測の通りなんだよね。僕みたいな尋常でない強さを持った生き物を倒した時、その力の一部が譲渡されるっていうのは、実はままあることなんだ」


 その時に自分の力の一部がバルパの身体を作り替えた。そしてその変化部分には、スウィフトの魂の欠片のようなものが残っている。

 もう二度と意識が戻ることもないだろうと考え、彼は暇潰しにバルパの冒険をずっと見つめていたらしい。


「では俺が死ねば、俺を殺した人間が魔力感知を使うことが出来るということ?」

「まぁ多分、そうなるだろうね」

「というか、普通にまた会ったな」

「うん、そうだね。僕もあっち側になるだろうと思ってたんだけど……思ってたよりも残ってたみたいだ」

 

 スウィフトが背を向けて勇者の一人、五代目の女勇者の頬に触れようとした。すると一瞬にして透明な障壁が出現し、彼の手は弾かれてしまう。


「この試練は、勇者を暴力に酔わせるためのものなんだ」

「そんなことをして、なんになる?」

「……さぁ? 神様って奴が、生き物を間引きたいからじゃないかな?」

  

 僕の時は魔物にニナが殺される場面だった、そう口にする彼の顔はどこか悲しげだ。


「思いの方向がどうであろうと、気持ちが強い限り聖剣は答えてくれる。僕はとりあえずありったけの魔物を殺戮したけど、それでも一応聖句は使えるようになったからね」


 上下左右に何もなく、暗い空間と彼らの身体から出ている小さな輝きだけが


「試練を出す意地悪な奴等も、力だけよこせだなんて言われるとは思わなかっただろうね。何にしても良かった良かった、これで倒せるね。あの子を」

「……お前はあいつを知っているのか?」

「うん、彼は人造人間ホムンクルス。あらゆる生物を混ぜこんで作られた、憐れな人形だよ」

「あれはやはり、人ではないのだな」

「厳密に言うと人だけじゃないって言った方が良いかな? 彼は人でもあるし、ドラゴンでもあるし、君のようなゴブリンでもある。全部の魔物を纏めて人型に成型したと言った方が近いだろうね」

 

 話をしているうち、消えていた彼の左手の熱さが再燃し始める。何も言っていないのに、スウィフトは何かを悟ったようにバルパに向き直った。


「ほらほら、君はここに来るのはまだまだ早いよ。呼んでる子達がいるんだ、帰らなくちゃ」

「……そうだな」


 バルパが帰ろうと念じると、すぐさま彼の視界がぼやけ始める。左手に確かな温かさを感じながら、目の前が白く濁っていく。


「なんだか……また会いそうな気がする」

「うん、僕もそんな感じがするよ。それじゃあね、健闘を祈ってる」

「ああ、次は勝つ。必ずな」


 よく見ていろスウィフト。お前から全てを受け継いだ物として、恥ずかしくない結果を見せてやる。

 そう気炎を吐こうとした口は、既に開かなかった。そしてバルパは再び意識を失った。

 視界は暗転ではなく白くなった。新たな場所へではなく元来た場所へ、彼は帰っていく。

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