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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第四章 天使の羽を踏まないで
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見えぬもの

 進行の速度はそれほど速くはなく、さりとて遅くもなかった。敵の影を確認する度に戦いを続けていてもある程度のスピードを維持できているということは、自分達が普通の者よりも強くなれたことの証左であることに違いない。

 そんな風に思っていたバルパは、戦っているウィリス、レイ、ヴォーネ、エルルの様子をルルとミーナと共に見て、少しだけ悲しい気分になった。

 それはいずれ来るであろう別れへの名残惜しさによるものではない。それはきっと、自分が彼女達と肩を並べて戦うことはないと感じてしまったがゆえのことであった。

 自らの歩みを止める気がない以上、戦闘に関しては彼女達に追い付かれることはないだろう。自分は奴隷達の持ち主であり、エルルの保護者だ。だがやはり戦闘に身を置くことに慣れている彼にとり、共に郭を並べられぬということは寂しい。

 これは会話が足りていないだとか、相互理解が及んでいないだとか、そう言った問題ではない。強者故の孤独は、やはり定期的に彼の胸をざわつかせる。

 強さを求めるバルパは、だからこそ自分よりも強いもの、或いは競い合い高め合えるような存在に飢えている。

 ルルとミーナは必死に自分に食らいつこうとしてくれている。それはとても有り難いことだと、心の底から思う。彼女達の思考の過程は置いておくとしても、結果として二人は自分が求めているものに手を届かせようと必死になってくれている。

 今はまだ肩を並べるとまでは行かないが、彼女たちがしっかりと装備を整え万全を期したのなら十分な援護が期待できるというほどには、バルパは彼女たちの能力を認めていた。

 ここ最近、ヴァンスは自分よりも強い者と戦えていないのが少しばかり不満だった。それは強者故の傲りで、強くなったが故の弊害で、弱かった頃の自分からは考えられないようなことだ。

 どうせならサラと本気で手合わせをするべきだったかもしれない、そんな考えが頭をよぎったのも一度や二度ではない。

 少なくとも現状出てくるような魔物相手に行う戦闘は、ただの弱いもの苛めである。時間を考えればそんな余裕はないとわかっていても、未だ自分の命を賭けて戦える迷宮に籠りたいという気持ちは日増しに強くなる。

 その目処が立ったことは喜ばしいことだ。そして彼女達を故郷に帰せるのもまた、素直に喜ぶべきことである。

 そうしたらルルやミーナと一緒に迷宮に籠れる。彼女達の好きにさせるという態度こそ崩していないものの、彼は既に二人が自分と行動を共にするだろうという確信を抱いていた。それならば二人と共に、死地へ赴くのも悪くない。最近はそんな風に思うことも増えた。

 死にたくない、強くなりたい、そのために戦う。自分から死ぬ可能性のある相手と戦いたいと考えるのは道理が通らない。因果が逆転してしまっている。

 だが元々自分は魔物だ、人も魔物も殺してきたゴブリンでしかない。

 魔に魅せられた自分には、どこか心の奥底に戦闘への渇望がある。

 ウィリス達がオーク達と戦っているのを見ながら、気付けば右手首につけた腕輪に触れていた。

 そういえば自分は未だ、ウィリス達に真実を告げていない。

 そろそろ頃合いだろうとバルパは魔物を発火させているウィリスの整った横顔を見る。

 別れが近づき別離が明確になるからこそ、言っておかねばいけないこともある。

 もう一度、腕輪に触れる。

 そうだな、思い立ったのなら早い方が良いだろう。

 もう既にウィリス達と自分は、信頼関係を築いてどうのこうのという段階を通り越している。拒絶される可能性も十分に考えられたが、仮りにそうなったとしても自分をはね除けたりすることはないだろうというだけの打算もあった。

 エルルについてはよくわからないが、彼女に関して言うならばむしろ嫌われた方が都合が良い。そうすればとりあえず特殊な体質で魔法を使えるという希少性はあるわけだから、スースにでも良い場所を紹介してもらえれば良いだろう。

 よくよく考えればここ最近、というか人間の住む場所へと上がってきてからというもの、自分はヴァンス夫妻に頼りすぎている気がする。

 早く恩返しがしたいものだ、と自分に出来ることを探し、そんなものは今はまだないということをすぐさま理解する。

 自分に出来ることは彼が時折冗談混じりに話す、俺を超えてみろという言葉を現実にしてやることだ。

 強くなり、周囲に自分によくしてくれる者が増えてなお孤独を感じるバルパではあったが、自分など歯牙にもかけぬほどの強さを持つヴァンスの内心など推量も出来ない。

 一体彼は何を見て、どんな風に感じるのだろうか。

 あの笑みの裏では、一体何を考えているのだろう。何も考えてないような気もしたが、もしかしたら普段のあの態度も処世術の一つなのかもしれない。

 もし出来ることならいつか、スウィフトの死体を見て彼が出したような強い感情を、この自分が引き出してみたい。

 そして彼を地に伏し、参ったと言わせてみたい。そんな欲望が鎌首をもたげる。

 遠くを見ながら思索に耽っていたバルパは、魔力感知により戦闘が終息したことを理解する。

 これではいけない。遠くの壁を見るより、まずは近くの花だ。

 バルパは夕食時にどうやって切り出すのが適切だろうかと考えながら、彼女達へ狩り場を移すように切り出した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分は奴隷達の持ち主であり、エルルの保護者だ。だがやはり戦闘に身を置くことに慣れている彼にとり、共に郭を並べられぬということは寂しい。 →轡(くつわ)を並べられぬ
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