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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第四章 天使の羽を踏まないで
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等価交換

「知ってるって言ったら、どうするつもり?」

「どうもこうもない、教えて欲しいと頼んでみるだけだ」

「……うーん、そうよねぇ」


 頬をペシペシと叩くサラ、頬に残る彼の青髭がジョリジョリと音を立てるのを聞いてエルルがひゃっと声をあげた。


「何が知りたいの?」

「ルル、頼んだ」

「はい」


 バルパの言葉に反応して即座に遮音の風魔法を使うルル、その手際を見て側で話を聞いていたムムムがほうと息を吐いた。


「見事なもんだな」

「それほどでもありません」

「こいつを外してくれ」

「ムムムは口は堅いわよ」

「いや、いい。俺はちょっと離れとく」


 彼が酒場の入り口付近へ遠ざかる。先ほどの騒動のせいで店の中に人影はバルパ達を除けばゼロなので、彼の歩行の足音がしっかりと聞こえてくる。


「俺たちが探しているのは天使族の居場所、エルフの隠れ里、ドワーフのいる火山の三つだ。これらについて情報を持っていたりはしないか? 無論報酬は出す。願いも可能な限りは叶えよう」


 少なくともサラは、魔物の領域に入ってからバルパが魔力感知で測ってきた誰よりも豊富な魔力量を持っている。そしてその体から発される闘気は、隠そうとして隠せるものではない。少なくともこの場にいる人間では、バルパ以外ではまともに相手にならないだろう。

 或いは自分ですら、引き分けに持ち込むことがやっとかもしれないというのが彼の正直な見立てだった。在野にこういう奴がいるから、世界というものは油断できない。

 バルパは警戒を解いてはいるが、もしもの時は即座に戦闘に入れるよう心構えだけはしている。彼の態度を見て、サラが小さく笑った。


「何も取って食いはしないわよ。二人でガチンコでやったらこんな場末の酒場なんかすぐ壊れちゃうもの」

「そうか。で、どうだろうか?」

「知って、どうするか。その答え次第じゃないかしら? ちなみに言っておくと、私はその三つに関しては全て心当たりはあるわよ」

「……随分素直に教えてくれるんだな、そこも一つの情報として切り売り出来る部分だろうに」

「ちっちゃな女の子を肩車してる男に悪い奴なんていないわよ。それに故郷に帰りたいって気持ちは、私にもわかるからね……」


 どうやら何か口にせずとも、彼はこちら側の事情を察知しているようだと知り驚くバルパ。ちっちゃなと言われて自分の首を圧迫しているエルルの行動も、今は気にならなかった。

 基本的に運の悪い自分ではあるが、どうやら今回ばかりは凄まじい当たりを引き当てたらしい。

 わざわざ危険を冒してまで接触した甲斐があったものだと少しばかり嬉しい気分になってくる。今までの空振りを帳消しに出来るだけの大金星である。

 仮に、というかほぼ間違いなく彼の知っている場所とウィリス達の故郷は違うだろうが、手がかりなり伝手の一つなりの何かしらはあるだろう。

 バルパはようやく端緒を掴みかけた喜びを三人と共有しようと後ろを振り向いたが、彼女達はそれほど嬉しそうではなかった。

 その理由はよくわからなかったが、目的が果たせるのだから彼女達としても流石に嬉しくは思っているだろう。

 再び首を回し顔を元の位置に戻す。


「有り難い話をありがとう。俺に出来ることならなんでもしよう」

「別に構やしないわよ、困ったときはお互い様って奴よ」

「金か情報か物か、何か欲しいものはあるだろうか」


 魔物の領域でも基本的に交渉をする際に必要なのは金か力か物だ。だが力比べをしないと彼が明言している以上、恐らく金であろうということは予測がついた。だがそれをオブラートに包み、彼は敢えてこういう聞き方をした。

 社会に馴染み色々なことを経験したことで、彼は配慮がしっかりとこなせるようになり始めていた。未だ至らぬことも常識の食い違いに悩む部分も多いが、それは魔物とルル達の間にもまま起こることからもわかるように、容易に解決するような問題ではないために放置を決め込んでいる。


「そうねぇ……」


 サラはドスの利いた声で呟いてから、ギョロりと黒い瞳を動かした。獲物を吟味するかのようにウィリス達を見つめるその姿は、夜中に見れば襲いかかってしまいそうなほどに物騒だ。


「アイツらはやらないぞ」

「あーら、焼きもちかしら。お仲間を見る限り、随分多情なのね」

「情が少ないよりかは多い方が良い。合理だけでは、世界は酷く生き辛いからな」

「うーん……」


 ウィリス、ヴォーネ、レイと動いた視線がルルとミーナへ移り、バルパの頭の上に顔を乗っけているエルルで止まった。


「決めたわ‼」

「エルルもやらんぞ」

「やらんぞ」

 

 バルパの声真似をするエルルを見ながら、サラが腰につけた袋に手を入れた。魔力感知から察するに恐らくは収納箱だろう。

 一体何を出すのだろうかと身構えるバルパは、彼の手に握られていたものを見て首を傾げる。


「……なんだそれは?」

「メ・イ・ド・ふ・く」


 ウインクをするサラを見て、バルパは恐らく碌でもない何かが始まることを本能的に理解した。

 やはり魔物の領域であっても、強い人間はどこかがおかしいのだ。

 バルパは何も言わず黙って彼の提案を聞き、それをまるっと承諾することにした。

 酒場にウィリスの絶叫が響いても、もちろん結果は全く変わらなかった。

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