第二ラウンド
ヴァンスが持っている剣は、一応魔法の武器の端くれではある。特に付加能力が付いている訳ではないが、単純に壊れにくく、取り回しが良い。
振り下ろされる剣を受け流すために剣を斜めに置き、両手で持ち直す。が、攻撃をしようとしている男の後ろの人間から嫌な気配を察知したために慌てて右に動いた。
スースを背にするような形で転がると、騎士が小さく舌打ちをするのが聞こえてくる。
後ろの騎士が上げていた右手を下げる、やはり魔法を使おうとしていたらしい。
一対二、実力差はまだわからない。逃走経路は一応思い浮かべることは出来ているが、このまま逃げるつもりは彼にはなかった。
ヴァンスは一言、スースに言いたいことがある。そしてその答えを聞きたいと、どうしようもなく思っている自分がいた。
彼女はこれで最後だと言っていた。つまりこのままヴァンスが逃げれば、彼女ともう一度会える可能性は非常に低いものになるだろう。
そんなのはゴメンだ、最後にしてやるもんか。ヴァンスを突き動かすのは言ってしまえばそんなワガママだった。
まず狙うべきは後ろで魔法を使おうとしている騎士だ、それまで目の前の強そうな男をなんとかしなくてはいけない。
ヴァンスは仕方なしに近くにいるスースをお姫様だっこした。
「ふぇぇっ⁉」
そして思いっきり彼女を上方にぶん投げた。身体強化により強まった腕力は、彼女をとんでもない高度まで飛ばしていく。
派手な方の騎士は何も言わず、全速力で屋根を経由して彼女の方へと駆けていった。
「な、なんということを‼」
自分が話をしようとしている人間を利用するなど本末転倒も良いところではあるが、それでもあの男相手に後背や挟撃を意識しながら戦えるだけの余裕は今のヴァンスにはない。
言葉を発することもなく残る騎士へ近づき、思いきり足元を掬う軌道で斬撃を放つ。
対傭兵や冒険者用の訓練を積んでいないからか、騎士は碌な抵抗も出来ずに膝を強かに打ち付ける。だが体勢を崩すまでは行かず、若干つんのめりながらも騎士はヴァンス目掛けて突きを放ってくる。かなり大振りな一撃だが、かなりのスピードがある。重量軽減か腕力上昇の能力でも装備に付いているのだろう。
ヴァンスは今度こそ剣の腹を相手に向けるようにしてから角度をつけ、相手の剣先の方向をずらした。自分の首筋目掛けて飛んでこようとするそれを慌てて避け、そのまま重心が戻っていない騎士の背後を取り、鎧ではカバーできない腕の付け根部分に剣を差し込んだ。
呻く男の兜を数度思いきり殴り付けると、相手の意識が飛ぶ。
ヴァンスは先ほどからジッと自分を観察している男の方に意識を向ける。
「随分荒っぽい戦いかたをするのだな」
「生憎、これしかやり方を知らなくてね」
「こんなのに入れあげるとは、殿下の男の趣味は悪そうですな」
「ジェラルド、その……」
「安心してください、命までは取りませぬゆえ」
男の後方には、両手を組んでいるスースの姿があった。
今の言い方はまるで、自分が負けることを前提にしているかのようだった。
魔力感知が使える彼女の言だ、ある程度は信憑性がおける。
「つぅかそもそもなんで戦う必要があんのかね、見逃したりしてくれない?」
「見逃したら、どうするつもりですかな」
「もちろん逃げる」
「殿下と二人で、が抜けておりますぞ」
「わざと抜かしたんだよ、ジジくせぇしゃべり方しやがって」
二人は会話をしながらも、こまめに剣の角度を変え、小さくステップを踏み、相手と自分との間合いを測りながら、自分にとって最適の距離を探そうとしている。
ここからが本番だぞ、とヴァンスは気を引き締め直した。
恐らく向こうはかなりの手練れ、分は悪そうだ。
だが自分はなんとしてでもスースに言わなくちゃならんことがある。そしてその一言は、追っ手兼護衛である相手に戦わずに言えるようなものではない。
「行くぜ」
「御随意に」
二人の距離が一気に縮まる。剣と剣が火花を散らしながらぶつかり合う。
戦いの第二ラウンドが始まった。




