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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第一章 狩る者と狩られる者
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ミルドの街

 ザガ王国は南部に位置するミルドのような街は迷宮都市と呼ばれる。迷宮を包むように形成され、迷宮から得られる各種資源を用い発展していくその街は今日も好景気に湧いていた。魔王が倒れたとはいえまだまだ魔物の脅威は大きい。故に自分達の身を守ってくれることになる魔物の素材も、自分達が魔物に対抗するために必要な鉱石もいくらあっても足りないということはない。だからこそ迷宮都市は栄えるのだ、今日もまた世界が物騒であるからこそ迷宮ビジネスは成り立っている。

為政者達は迷宮から得られる利益を確保し、かつ迷宮で死なないだけの実力を持つ冒険者達を留め置くために今日も頭を捻らせている。街を治める人間達の涙ぐましい努力により、街は繁栄を謳歌しているのだ。


ミルドの街の中央部に存在する冒険者ギルドの執務室で、ギルド長であるローガンは黙って目を閉じていた。机を隔てて彼の前で立っているのは二人の冒険者、『万象』のレナと『柔剛』 のイレーヌである。どちらもC級冒険者ではあるが、彼が目をつけている中堅どころである。十万人に一人とも言われる魔力感知の魔法を使えるレナ、そして彼女の火力不足を補い魔力による身体強化で百の敵を屠るイレーヌ。元々一匹狼の気質の強かった二人はどうしてか以外と馬が合った。彼らは今や押しも押されぬ第一線級の冒険者であり、ローガンは二人が名を馳せるようになるのもそう遠くはないと信じていた。彼の二人への信頼は厚い、それは皆がミルドの街を蜘蛛の巣を散らすように去っていってしまった後でもこの二人が残っていること、そしてギルドの職員ではなく直に話をしていることからも明らかだろう。

「なるほど、浅い階層にユニークモンスターが……ね。それが本当なら由々しき話ではあるが……」

「衛兵に確認して大したやつらがいないことはわかってるんだ、名簿を強引に見たけど幸いなことにほとんど全員見知った顔だったからまず間違いない」

「それは少し越権行為が過ぎるな、以後は慎むようにしろ」

「へぇへぇ、街とダンジョンの平穏が脅かされない限りは言うことに従いますって」

 レナとイレーヌがギルド長にわざわざ面会を申し出たのは、ひとえに彼らがダンジョンで起こっているらしいなんらかの異変を嗅ぎ取ったからだ。

 新人冒険者達を使い情報を集めても、事情があり街を出ることがなかった街の冒険者達の話を統合してもなんらおかしな点はなかった。だが叩いても埃が一つも出ないというのが逆に怪しいと二人は睨んでいた。

 自分達が生命の危機を感じるような何かが迷宮の中に潜んでいる、その可能性がゼロではないというだけで彼らは安心てダンジョン攻略に乗り出すことが出来ない。

「だから居るかもわからない謎のモンスターの討伐に人員を駆り出す、と?」

「そうだ、不足の事態を起こさないためには罠はないとわかっていたって杖で地面を叩くくらい慎重な方が良い」

「それに、実際問題が起きていない訳じゃないしね」

「ほう、どういうことだ?」

 レナは自分なりに脚色を加えたとあるパーティーの話を口にした。聖魔法が使えるらしい女性と、それを守る騎士を含んだそのパーティーは迷宮深くに潜り込み過ぎたためにダンジョンの報いを受けることになってしまった。

 聖女は死に、ダンジョンの礎となった。そして今現在、そのパーティーはミルドの街を去りどこかへ行ってしまったという。また帰ってくるという言葉だけを残して。

 話を聞き終えてからローガンは自慢の髭に手をやった、戯れに髭を一本抜き痛みとほんの少しの気持ち良さに眉を動かす。

「それの何がおかしいんだ? 暁の回復役が死んだという話は既に聞いている、その生存が絶望的らしいということもな。聖魔法の使い手が消えたのは惜しいことだし街の損失には違いないが、冒険者なのだから覚悟はしていただろう」

 ぼかして説明されていた暁のことを実名で出す彼にレナは苦笑を浮かべた。ギルド長は他人の事情を斟酌しない独善的な態度は改めた方が良いと何度も言っているのだが、どうやら彼にそれを直す気はないようである。

「今あいつらがどこにいるか知ってる?」

「知らないな、なにか大層なことをしているのなら情報が入ってくるだろうし、どこか辺鄙な場所で細々と冒険者稼業でも続けてるんじゃないのか? パーティーが崩壊しかけたらどこも似たような感じになるしな」

「ところがどっこい、今あの四人はどうやら隣国のとある都市にいるらしくてね」

「もっと端的に話をしろ、回りくどい言い方は好きじゃない」

「どうやら何かを探っているみたいなんだよ、あの子達」

「その情報がお前らの言うモンスターに関わってくるのか?」

「わからない、その可能性があるっていうだけだ」

 ローガンは二人の話を鼻で笑った。かもしれない、推測できる、可能性がゼロではない。そんなもしもを気にして行動していればすぐに冒険者ギルドなどという波乱含みの組織は資金難で首が回らなくなってしまう。

「浅い階層にユニークモンスターが出現したかもしれず、そいつはお前達を容易く屠るだけの実力があり、そして人間を出し抜けるような知性を持っている可能性があり、そしてその一件に暁の面々が関わっている可能性がゼロではない……と、こういうことか?」

「まぁ要約するとそんな感じだな」

「馬鹿らしい、そんなことで冒険者を動かせるか」

 人を小バカにしたような態度を浮かべていたローガンが机にそっと手のひらをのせる。机の引き出しから紙を取り出すと二人へ放り投げた。

「人を動かしたいならまずしっかりと証拠と根拠を固めてから来い、私としてもお前らの言っていることが間違ってはいないと考えてはいるが、それはあくまでも私がお前達のことを良く知っているからだ。冒険者は目の前にニンジンをぶら下げないと働かないし、ニンジンのためになら馬よりも早く走れる人種だ」

 ローガンは先ほどまでの人を舐めた表情の仮面を外し、この迷宮都市という繁栄に満ちた在処を守れるだけの威厳を持った本来の顔を出した。

「その魔物と接敵して、生きて帰ってこい。俺に言えるのはそれだけだ、ちなみにその紙はギルド名義のポーション割引券だから上手く使えよ」

「ありがとうございます」

「おう、じゃあ行ってこいや。俺も今後の予定が詰まってるんでな」

「そのうちの幾つかはキャンセルになると思うぜ、俺達が特大のネタを持ってくるからな」

「楽しみに待ってるよ」

 二人が執務室を出ていく、後には真面目な顔をしたローガンだけが残っていた。

「ふむ、念のために準備だけはしておくかな……」

 彼は再び机の引き出しを開け、羽ペンにインクをつけて書類作業を行い始めた。

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[良い点] 先の展開次第で考えは変わるかもしれませんが、 現時点では、先が気になる展開と感じてます。 [気になる点] 細々とした言い回しのミスや矛盾のある点が散見されており、勿体なく思います。 [一言…
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