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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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旅立つ前に

「よう、やっぱ会うことになったじゃんか。賭けは俺の勝ち、今日は帰らないからな」

「あんたもあんたで騒がしいねバルパ。……あとそんな約束はしてないから、あんたは宿でおとなしくしときな」

 

 実家のような安心感のあるリンプフェルトまで帰還して早々、ヴァンス夫妻がバルパのことを出迎えてくれた。例のように少し離れた場所で待機させているミーナ達を置きバルパが一人で来たのだが、なんともひどい言いようである。

 俺もあなた達には言われたくないという顔をしながら、バルパはなるべく人気の少ない場所を選んで二人を連れて行く。

 歩きながら小声で話しつつも、周囲への警戒は怠らない。


「俺達が帰ってくるまでに、何か変わったことはあったか?」

「いんや、別に。俺のウンコが普段よりちょっとデカかったくらいじゃね。なぁ?」

「同意を求められても、アタシがあんたのクソのサイズなんて知ってるわけないじゃないか」

「いやお前、そこは夫婦の愛でカバー出来るかなーと」

「カバー範囲が広すぎるな」


 夫婦漫才に茶々を入れつつ話をしてみた感じ、どうやらバルパ達が指名手配を受けているような事態にはなっていないらしかった。

 黒ずくめ達が情報を伝達する術を持っていなかった、と考えるのが妥当だろう。

 とりあえずしばらくの間は、自分が定期的に戻ってきて情報を探るべきだろう。

 海よりも深い溝に潜っている人間は多いし、リンプフェルトとの間に敷かれている警備はかなりザルだ。容疑者特定は不可能に近いだろう。大方魔物の餌になったとでも考えるはずだ。

 バルパは適当に宿屋を探して入り、三人分の宿代を払い一室を借りた。


「屈強な男二人に、か弱い乙女が一人。何も起きないはずもなく……」

「うーん、お前どうしてそんなんになっちまったんだろうな。前はただのお嬢だったのに」

「無自覚でどこかおかしい誰かさんのせいじゃないかねぇ」


 二人を部屋に入れ、スースに防音の魔法を使ってもらってからバルパはことのあらましをかいつまんで説明した。

 とりあえず王族らしき人間を殺したこと、また一人少女を託したこと、それと虫使いに関する諸々のこと。

 話をしていても特に二人の顔色に変化はない。どうやらそこまで問題はなさそうだ、と少しだけ安堵しながら話し終えるバルパ。


「まぁなんとかなんだろ」

「うーん……だけどこっちにはあんまり戻ってこない方が良いかもしれないねぇ」

「平気だろ、今のこいつなら大体十分の一ヴァンスぐらいあるし」

「だから強さの単位に自分を使うのは止めときなっていつも言ってるじゃないか」


 再び乳繰り合い始めた二人から話を聞くに、問題なのか問題じゃないのかは正直よくわからなかった。シリアス破壊男ことヴァンスは国に追われたら国を潰せば追われなくなるというアドバイスしかくれなかったし、スースもまぁなんとかなるよとどこか楽観的だ。

 まぁ確かに既に明らかに酷いことを幾つも仕出かしているのだから、今さらな話だなとも思う。人を一人殺そうが数百人殺そうがあまり変わりはないだろう。

 そもそもバルパは人と関わりを持たなくとも生きていけるような辺境以外にどこか人里に定住する気はない。

 気にしなすぎもよくないが、気にしすぎも良くない。どうせウィリス達を国許へ帰す時も、多かれ少なかれ問題事は起こるだろう。それならば全部が終わってから一気に清算した方が面倒がなくて良い。

 自分の興味のないことには極度のめんどくさがりを発揮させるバルパは、今までやってきたことの功罪をしばらく頭から消しておくことにした。最悪野に帰れば良いと考えれば、結構気楽に考えられるものだ。

 そもそも冷静に考えてみれば、二人からまともな回答を得ようということこそが間違っている。そういうことを期待するのなら、アラド辺りに聞くべきだろう。


「それなら問題はないか、では次だ」

 

 バルパはとりあえず騎士と王族関連のことは放置して、次の事柄に話を進めることにした。バルパ的にはどちらかといえばこちらが本命だったりする。

 無限収納から死体を五体ほど取り出す。その全てが彼が仕留めた黒ずくめである。


「これが先ほど話した、黒ずくめ達だ」


 バルパは彼らがつけているマスクを五つ全て剥ぎ取り、二人の方を向いた。


「こいつらのこと、何か知っているか?」


 顔をしかめながら二人に訊ねるバルパ。彼が指を指している五つの死体は全員が全員、全く同じ顔をしていた。


「あー……こりゃ星光教の人造人間だな、俺も見たことない型だが」

「最新式なんじゃないか? アタシも記憶にないし」

「にしてもなんで男なんだか。全員美人にしとけば良いのに」

「アンタみたいなのがいるから、男にしとくんじゃないか?」

「なるほど、確かに」


 二人は彼らの顔が同じ理由を知っていた。どうやら星光教が産み出した人間を複製する技術の賜物であるらしい。彼らはどんな御技を使ってか、魔物や人間の死体から人造人間を産み出せるようだ。その産出ペースはそれほど早くないらしいが、それでもあのクラスの実力者がホイホイと産まれてしまうのは危険だ。

 これはもしかしなくとも、星光教を潰す必要があるかもしれない。バルパは彼の中での警戒レベルを一つ上げた。


「俺がスウィフトの死体をあげたくないっつったのもこいつらが原因なのが半分くらいある。ちょっと冷静に考えてみ? 劣化コピーとはいえ勇者が大挙して押し寄せてくるとかゾッとしねぇべ?」

「それは確かに」


 人造人間の能力は元にした生物の強さに比例するらしい。そのせいか色々な魔物や実力者の死体を使用するらしく、ヴァンスは勇者の死体がその素体として選ばれるのを危惧したようだった。

 その後も話を聞いてみたが、どうやらヴァンス達も星光教には恨み骨髄なようで、後半からは三人の愚痴大会の様相を呈し始めた。

 どうやらヴァンスは以前とある事情から星光教と真っ向からやりあう羽目になり、そのせいでかなり苦労をしていたらしい。

 彼ほどの男にも苦労をさせるとは……と驚くバルパを見て、まぁ俺も若い時は色々あったからなと年を食った人間の言い方をするヴァンス。

 おおよその話が終わり、最後にバルパは無限収納から一本の剣を取り出した。

 彼の右手に握られる形で出てきたのは、茶色く錆びた刀剣である。

 ボロ剣から剣にグレードアップしたはずのそれは、どういうわけか元の錆びまみれの状態に戻ってしまっていた。

 その理由がわからないかというのが、バルパの最後の相談内容だった。

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