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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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変わるし、変わらない

 バルパがなんとか二人のご機嫌取りを終えると、満足してくれたからか彼女達は揃って降りてくれた。同じ姿勢で長いこといたせいか妙に凝っている節々をほぐしていると、ルルが彼の方に近づいてくる。


「一応こちら側の話をしておいて方が良いような気がしまして」

「そうだな、頼もう」


 バルパは自分が別れてからの彼女達の話を聞いた。おおよそはバルパが想像していた通りの行動だったため、特に聞き直したり質問を挟んだりせずに話を聞き終える。

 どうやら彼女達はさっさとズルズ族に話を通してピリリを置き、自分をおおうとしていたらしい。だが何故かそれに猛烈に反対したピリリが彼女達に同行しようとし、それにつられて同郷の男達がついてくるという雪だるま式な加算方法で旅路を行く人数が増えたらしい。そのせいで少しばかり進行速度が遅くなり、しかしそのおかげでどこかへ逃走中だったらしい一団と戦い馬車を獲得したらしい。気配が察知しにくく自分達を遥かに上回る黒服をどうやって倒したのだと聞いてみれば、ルルが聖魔法で壁を作り、ミーナが遠方から超火力の魔法をぶちこみ続けるという力業でなんとかしたということらしい。

 戦法もへったくれもあったものではないが、実践の場合得てしてそういうシンプルな作戦の方が上手くいくものだ。

 咄嗟にいつものようなハメ技を使えたのは良いが、ずっとそのままではいつか停滞してしまう可能性がある。彼女達の新しい戦い方についても考える必要があるかもしれない。

 虫使い達の問題がとりあえず片付いたなら、三人で連携を確認していくべきだろう。

 ちなみに中に入っていたのはズルズ族でもシルル族でもない部族の人間であり、彼らはとりあえず同行してもらっているらしい。見知らぬ人間の中には他部族の人間もいたらしいが、ズルズとシルルのそれほどはシルルと彼らの刺青は違ってはいないように思える。もしかしたら虫使い達の差異というものは、自分が思っているほど大きなものではないのかもしれない。

 バルパはとりあえず話を聞き、一応男達と顔合わせだけして、今後のことは老婆に尋ねるようにと言っておいた。その足でポップス達を労い、最後に奴隷娘達と話をする。


「頑張ったみたいだな」

「……まぁそれなりにはね、目の前で死なれたらピリリが悲しむもの」


 ウィリスは相変わらず憮然とした態度を崩さなかった。だが何故かはわからないが、以前より更に険が取れたような感じがする。このまま行けば、別れる前に仲良く世間話が出来る程度にはなるかもしれない。せめて別れ際くらい、まともな会話をしてみたいものだと考えながら、バルパはウィリスにそっと近付いた。


「よしよし、偉いぞ」

「だから触れるなと……あれ?」

 

 バルパは今回、ただ近付いただけで彼女の頭を撫ではしなかった。

 じっとし続けたまま腕を組んで自慢げに胸を張るバルパ。


「嫌がることを強制するのは、俺の本意ではない」

 

 以前は無理矢理頭をゴリゴリ撫でたりもしていたのだが、頑張っている彼女をわざわざ嫌な気分にさせることもないだろう。

 ズルズ族を熱心に鍛えてくれたこともあるし、今後はもう少し優しくしてやるべきだ。

 腕を組みながら満足げなバルパとは対照的に、何故かウィリスは不満げだった。


「……どうかし」

「なんでもないわよっ‼」

 

 急にヒステリックに叫んだウィリスは、バルパの静止も聞かずにどこかへ行ってしまった。相変わらず空模様のように感情の移り変わりが激しいやつだと、少し先にいるレイとヴォーネのもとへ。


「ご苦労だったな」

「どーもです」

「いえいえそれほどでも」


 二人はあまり変わっていなかった。まぁそこそこにやっているのだろう。この二人は戦闘というよりかは交渉や支援等の役割を担うことが多い。だから戦いにはそれほど役には立たなかっただろうが、一応適当に労っておく。


「良く頑張ったな、それはもう良く頑張ったな」

「うわ、そういう言われ方するとそれはそれで凹みますっ‼」


 だがバルパの渾身の労いは見事に空振りに終わり、ヴォーネはなんだかお前影が薄いよなとミーナに言われていた時のように凹んでいた。

 以前のようにバルパ相手に極度の人見知りを発揮させることはなくなったが、普通に話せるようになると特に何か特筆すべきような点のない女子になった。

 以前個性が無いことが一番の個性だなと慰めてやると、慰めになってないですよっ‼ と怒られた。彼女は一筋縄ではいかない面子の揃っているバルパ一行の中の貴重な普通人枠なので、バルパとしては誉めたつもりだったのだが、どうやら彼女はそう捉えてはくれなかったらしかった。

 しょぼんと肩を落とす彼女に気落ちするなと言って慰めていると、レイがすぐ近くにまで来ていることに気が付く。

 彼女は吐息の熱さを感じられるほど耳元に口を近付ける。


「ピリリのこと怒らないであげてくださいね」

「前にもこんなことがあったような気がするな。あと痒くなるから耳の近くで話さないでくれ。背筋がゾクゾクして気持ち悪い」

「ふふ、すみません。ついうっかり」

「そんなんでは戦いで命を落とすぞ。うっかりするのも程々にな」

「はいはい、わかってますわかってます」


 レイに関しては、正直なところ測り兼ねているところが多かった。

 飄々としているようで時々少女が顔を出し、何を目的としているのかわからないことも多い彼女をどう扱えば良いのかバルパは未だにわかっていない。

 なんとなく不気味な感じがしてはいるのだが、普通に接している分には至って普通の女である。なのでバルパは接し方に関して悩むことは止めていた。


「ピリリはなんで出てこないんだ?」

「はてさて、なんででしょう?」

「そうか、じゃあ直接聞きに行く」

「御随意に、お気をつけて」

「気を付ける必要があるわけもなかろうに」


 バルパは下手に取り合ってまたやり取りをするのが面倒だったので、適当に手を振って彼女と別れた。

 そのまま集落の隅っこでひっそりと立っている馬なしの幌馬車に近付いていき、入る前に立ち止まった。

 一度深呼吸をして、自分が緊張していることを自覚するバルパ。

 そんなものをする必要はないだろうに、どうにもレイの言葉につられたらしい。

 バルパはそのままゆっくりと幌を開き、中にいる一人の小柄な少女との再会を、純粋に喜ぶことにした。


「ピリリ、入るぞ」

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