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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第一巻2/25発売!!)
第一章 狩る者と狩られる者
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逞しくてやかましい

 ゴブリンは第十五階層に足を踏み入れていた。魔力感知を使い一体で歩いている魔物を探すのは手慣れたものだ。

「あっちだ」

「はいっ‼」

 自分に同行者がいることにも慣れてきた、最近自分よりも彼女の方が態度がデカいような気はしたが、人間とはそういうものなのかと考えれば特に目くじらをたてることもなかった。

 このダンジョンを二人は息を合わせて進んでいる、ルルがゴブリンと行動を共にするようになった時点から早くも二週間ほどが経過していた。今では連携を行うことすら出来そうになっている二人は、襲撃者と拉致被害者という関係であるのと同時先生と教師という関係性でもあった。

 この二週間の教育の結果、ゴブリンは既に鑑定を使えるようになっている。ちなみに本来の目的である聖魔法の方は講義とを聞いただけで練習すらもまともにはしていない。

 それは二つの魔法が、正確に言うならば聖魔法とそれ以外の魔法が根本からして違うことに原因があった。

 まず名も無きゴブリンが鑑定を使えなかった理由は、目に集中させる魔力を眼球から外へ出すイメージと共に光属性に変質させていないからであった。基本的なやり方を教わればこの魔法はそこまで難しいものではなく、彼は容易にこれを覚えることが出来た。

 しかし使えるようになった時、彼はその情報量のあまりの多さにめまいがしそうになった。雑多な情報と本能に囁きかけるような色の羅列が彼の精神へ攻撃を仕掛けたのである。

 鑑定を発動すると情報が流れ込んでくる、それはそれは色々な情報が彼の理解できる言葉と彼の理解できない謎の色とがいっぺんになって。

 鑑定の魔法は対象に選んだ物品の情報を非常に多岐にわたって抜き出す、それは物品の性能、耐久性などといった物品の価値を決めるほどの重要性を持つものから製造年数やかけると変色しやすい色、くるむと臭いが移りやすい紙の材質等のようなもの、更にそれらに加え未だ意味のわからないものまでをランダムに無作為に抽出するのだ。それらがたいした区別もなくぐちゃぐちゃに混ざりあって現れるのだからまともに判読することなど不可能であった。文字をまだほとんど読めない彼であっても意味が理解できるというのは幸いであったが、そんなものは気休めにもならなかった。

 こんな訳のわからない情報をどうやったらまともに整理して理解できる、教師であるルルにゴブリンはこう尋ねたことがある。すると彼女は彼にこう答えた。

「まず自分が理解できるものと理解できるものをしっかりと理解します、それから自分が理解できるものの情報を頭の中に留めておきます。それから鑑定を何回も使用して見にくい情報から理解できたものを抜き、自分の知りたい情報を他の情報達に邪魔されない範囲で読みとくんです。慣れればある程度はできるようになりますよ」

 鑑定の魔法は習得はそれほど大変ではなく、そして極めるのは相当に大変であるとされる魔法であった。なんでも鑑定士と呼ばれる鑑定をすることだけで生きている人間でさえも情報を十全に抜き出すことは出来ないらしい、彼女の鑑定は下手な鑑定士のそれなどよりもレベルが高いものらしいと自分で自慢していたので、ゴブリンは凄いと誉め称えて彼女に金子をあげた。すると口ではそんなことはないですよと言いながらもルルはニマニマと笑っていた。

 いつもこれぐらいわかりやすければ良いのにとゴブリンが思ったのは彼だけの秘密である。

 そして聖魔法の習得、これは使えるとなったら何も習わずとも使えることがわかるようになるという簡潔な説明と、各種聖属性の魔法の能力の確認で終わった。

 聖魔法を使うには聖遺物と言われる神が生前使用していたものが使用らしいが、彼がいつも使っているボロ剣がそうであることが判明したためにそこに関しては特に問題は発生しなかった。自分がこれを見つけるまでにはすごい時間と労力がかかったのに‼ とルルはぷんすか怒っていたが、そんなことは彼の知ったことではなかった。彼女の結界を破ることが出来たのは剣が聖遺物であるかららしいと知って彼女は驚くと同時、納得してた。そんな簡単に破れない結界を簡単に切り裂けた理由がようやくわかったとルルは一人頷いていた。

 聖魔法には攻撃の魔法が存在しない、その全てが自分を、そして自分の仲間を守るためのものである。

 まず彼が彼女のパーティーとの戦闘で使っていた回復の魔法、レッサーヒール。回復の魔法は後ろにヒールとつけるのが基本で、そこにこめられる魔力と聖魔法への習熟度により種類が変わるらしい。レッサー、ミドル、ハイ、スペシャルとレベルが上がっていくが、これは聖魔法の使い手により回復量が大きく変動するらしいのであまり参考にはならないらしい。以前聞いていた迷宮の等級と合わせて、人間というものはどうして意味もないような区別をするのだろうと彼は少しだけ不思議な気分になった。ここには彼らの強さの秘密が隠れているのかとも思ったがどうやらそんなことはないらしい。そこはどうやら人間の弱さに相当する部分であるらしかった。

 回復以外にも、対象の状態以上を治す快癒キアリクや魔法・物理抵抗を備えた

結界を生み出すサンクチュアリなどいくつかの魔法があった。自分が使えないとわかったところで、人間が使ってくる技を予習するというのは悪いことではない。

 ゴブリンは鑑定を教わり、聖魔法の技への対策について考えながらルルへ指導の分の金子を出し、彼女に言われるままに食事を提供した。食べられるかどうかわからないような肉も多かったために彼女が教えてくれた名前の魔物の肉を食べることが出来るようになったために彼としてもそこまで悪い話ではなかった。

 今名も無きゴブリンは首に第十階層の階層守護者であるラミシザードインプと呼ばれる八本の手を持つ異形の魔物を倒して得ることの出来た首飾りをつけている。

 その能力は筋力増大、これよりも強化効率の良いアクセサリーもたくさんあったが、彼は自分の力で獲得したこれを好んでいた。

 そして右手には状態異常無効、及び状態異常無効無効を無効にするという要はどんな状態異常にもならないという付与能力のある魔法の品を、左手首には自らの攻撃に一定割合で状態異常能力を付ける青いブレスレットをつけていた。これらは勇者の持ち物であったが、彼はそこまで気にしてはいない。

「そろそろ階段につく」

「今日はレッドドラゴンの肉が良いなぁ」

「良いだろう」

「やたっ‼」

 今や誘拐者への態度とは思えないほど気軽に彼に話しかけるルルの全身もまた、魔法の品で覆われている。

 強欲蜥蜴グリードリザードのアゴヒゲを編み込んだ魔力回復(中)のついた灰色のローブ、先端に大きな透明の宝石、アレキサンドライトのついた魔法の杖、指先には魔法発動の触媒としても使える宝石付きの指輪が輝き頭には武骨な革製のサークレットをつけている。これらはゴブリンが無理を言って彼女に貸し与えたものであった、壊れても一応弁償が可能そうという品質のものを選び彼女に無償で貸与するという形をとっているのだ。それらはあまり品質の良いものではないために実際は十個単位で在庫があり、あげてしまっても彼の懐はなんら痛まなかったが、どうやら彼女の心が痛みそうだとわかり無理にあげようとはしなくなっている。だが別れるときがきたのなら餞別としてあげても構わないか、とは思っていた。

「ほらほら、急いで急いで」

「ああ」

 以前よりやかましくなり、そして以前より少しだけ楽しくなったダンジョンの攻略を名も無きゴブリンは再び再開した。

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[良い点] ゴブリン!いいよね [気になる点] 先生と教師の関係とは如何に。
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