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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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平和

 バルパ隊長の境界線攻略二日目の昼、我らが隊長は全方位を敵であって敵でない者達に囲まれ、ピンチに陥っていた。


「バルパさ~ん、私の肉料理食べてくださ~い」


 バルパの右手側から、妙に露出度の高い服を着た妙齢の女のトゥーパが箸を突き出してくる。バルパは正直なところ既に満腹だったが、ドラゴン肉に罪はないために大人しく箸の先でつままれている肉を頬張ることにする。


「いただこう……うん、旨い。流石ドラゴン肉、期待を裏切らない」

「もー、私の腕ですよー」


 その褐色の肌をほとんど外気にさらしている彼女が着ているのは、防御力の低そうな布切れだけだった。以前渡した胸当てを着けていないことは不思議だった、それにどうして意味もなく服を脱ぐのかわからない。今日は気温が低めなのだから厚着をすれば良いのに。

 バルパがモグモグと噛みごたえのある肉を頬張りながら露出度と防御力の相関関係について考えていると、今度は左側から箸が飛来してきた。


「バルパバルパッ、この野菜炒め自信作なのっ‼ おあがりおあがりっ‼」


 ピリリより少し小柄なプルーは、体格のわりに実は結構年齢がいっているらしい。具体的な年を聞くと何故だか迫力が増すのでバルパは定期的に繰り返される何歳だと思います? の質問にいつも十五才と答えている。

 年齢などどうでも良いだろうに。いや、そういえば加齢と戦闘能力の関係性について考えたことはなかったな。ヴァンスの例を考えると、もしや年を経ると強さは増していくのだろうか。

 自分の可能性について考えながら、バルパはフォークの先に刺さっている葉野菜を口に入れた。 

 無限収納に入れていたために鮮度は抜群だった、噛む度にシャキシャキと快音が鳴る。音は好きだが、葉っぱは嫌いだった。葉ばかり食べていると、体が緑色になりそうな気がする。


「ぐもぐも……葉っぱの味がするな、青臭い」

「ひっどーい、バルパのために作ったのにっ‼」

「安心しろ、食えなくはない。全部食べる」

「やーんもう、そういうとこ好き~」


 いや、冷静に考えたら自分の体色って緑色じゃないか? と馬鹿なことを考えながら薄く切られた芯と戦っていると、今度は後ろから箸が生えてきた。せめて左右にしてくれと思いながら、バルパは口の中の葉野菜を片付ける。


「ば……バルパさん、その……どぞっ」


 そこにいたのは、最近胸が大きくなってきたと評判らしいセプルだった。誠に信じがたいことに、女は胸が大きい方が強いらしいのだ。どう考えても小さい方が怪我しにくいだろうとしか思えないのだが、人間の基準は相変わらず謎である。

 ズルズ族で一番胸が大きなラルペールなど生活するのも大変そうなほどだ。大きければ生活に支障が出るが小さい分にはいくら小さくても問題は起き得ない。どう考えても小さい方が良いだろうに。謎は考えれば考えるほど深まるばかりである。

 一度バルパがその乳をなんとかして小さくしたりしないのか? と彼女に尋ねてみたところ、搾ってみれば小さくなるかもしれませんと言われたのを思い出した。確かあの時は出来れば手伝って欲しいと涙ながらに語る彼女の熱意に心を打たれ、一緒に暗がりに行こうとしたところをピリリに止められたんだったか。

 相変わらず食事の最中も心ここにあらずなバルパではあったが、先ほどまでと違い今回は考えながら口を動かすことが出来なかった。食べようにもそもそも料理が口に入っていないのである。


「箸がほっぺたに当たってるから、これじゃ食べられないぞ」

「ひゃわわっ‼ すみませんっ、これでどうでしょうかっ⁉」

「……セプル」

「な、なんでしょうかっ⁉」

「そこは鼻だ、俺の鼻は食べ物を食べるのに適した器官ではない」

「しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅみませんっ‼」

「……ちょっと落ち着いた方が良いな」


 バルパが今までの生で最も人を落ち着かせるに長けた手段であると確信を抱いている方法で彼女の平常心を取り戻してやろうと後ろを振り返った。

 するとこちらを向きながら空いた左手をもじもじと動かしているセプルが彼に気付き、無意識のうちに顔を上げた。自然二人の目が合い、セプルは顔を真っ赤にした。

 彼女の赤面症については知っていたため特に気にせずに、バルパは立ち上がり一歩前に踏み出した。

 セプルが口を開きアワアワと声にならない声を出し始める。流石に変じゃないかと思いつつも、バルパは自らの行為の絶対性を信じてそっと右腕を上げた。

 そしてセプルの頭の上に手をおき、ゆっくりと頭を撫でる。

 ミーナやピリリよりも大人だからか、彼女の髪の毛は普段の感触より少しだけ固かった。撫でていると反動が返ってくるようでなんだか面白い。

 ゆっくりと何度も往復させ頭の感触を楽しんでいると、一切の反応がないことに気付く。

 少し視線を下げてみると、セプルがアワアワを通り越し最早口を開いて固まってしまっていた。


「ぴにゃーーーー‼」

 

 魔物の鳴き声のような音を出しながら、顔を真っ赤に火照らせてセプルが思いきり後ろにのけぞる。そしてそのまま重心が動いていき、彼女の上体が完全に後ろへいってしまう。

 このままでは背中から地面に激突してしまう、バルパは咄嗟にその小柄な体を抱えた。

 正面から抱き締めるような形になり、バルパとセプルの顔が吐息がかかるほどに近付く。

 バルパは彼女の無事を確認しようとジッと顔を見つめているが、セプルは今度はあ、あ、あと母音を単音で発しながら元から赤かった顔を更に赤く染める。

「大丈夫か?」

「……し、しゃーわせ……ガクッ」

「……おい、セプルッ‼」


 突然意識セプルは意識を失った。もしや何らかの持病があったのかと十分な事前確認を取っていなかったことを確認するバルパ。

 とりあえず回復を使ってみるも、彼女が意識を取り戻す様子はない。

 

「おいセプルッ、セプルが倒れ……ああくそっ、倒れてるのは本人じゃないか‼」

 

 いつも基本的には近くにいたセプルに助手役を任せていたため、つい彼女を呼んでしまうバルパ。


「は、はいっ‼」


 だがなんということか、彼の呼び声に応えてセプルは見事に意識を回復させた。

 ホッとするのも束の間、今度は私にも私にもと女性陣がバルパめがけて殺到し始める。

 流石に年齢の差が態度に表れるからか、エルルは既に遠くで黙って彼女たちを見続けるばかりである。男達もバルパを助けてくれない。

 俺は一人だ、と温かくて柔らかい人の波に溺れながら妙な悟りを開くバルパ。


 比較的過ごしやすく周囲への警戒が行いやすいため、基本的に森を歩くのは日が上ってから日が下りるまでだ。皆を助けてからというもの、何故か女子達の接触はより盛んになってきている。もはやバルパの昼休みは休みではなくなっていた。

 バルパとしては嬉しいやら悲しいやらで複雑な気持ちだったが、概ね一行は平和であった。


「なぁ泣くなよパルマ、俺たちには時間っていう最大の武器があるじゃねぇか」

「それただの敗北宣言じゃんか……てかやっぱ勝てねぇよ、雄としての魅力の差がえげつねぇ……」

 

 バルパと女性達から遠く離れたところで男泣きしているごく一部の人間達を除き、虫使いの一団は平和を謳歌していた。

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