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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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エルル

 バルパがその後ズルズ族に合流するまでには、それほどの時間はかからなかった。彼が指定した通りに、一族が総出で女子や老人達が滞留していた場所に集合していたからだ。

 奇跡的に人員に欠員はなく、衰弱し朦朧としている人間や眠りこけたままの人間、血だらけで死にかけている人間はいたが、バルパの回復により全員がしっかりと意識を回復させた。

 彼の回復はかなりの外傷も治すらしい、どうやら使い始めにしてはかなり使えるようだった。そして造血作用や強壮作用のようなものもあるらしく、内側のダメージにもある程度は効力を発揮してくれた。

 バルパは今後ポーションを使う頻度が減りそうで、内心でガッツポーズした。これで以前ヴァンスに案内されたあの極悪ダンジョンを食料持ち込みだけで攻略できるようになる。 

 これ以上の強さを得ても虚しさが増えるだけな気もしたが、守るための力は幾らあっても足りるということはない。バルパは奴隷娘達を帰してやってからひたすらダンジョンにこもるのも選択肢の一つに入れるべきであると感じた。強くなることは結果的に全ての近道になる。強さを得たからこそ見えてくる景色があることを、感じずにはいられなかった。

 どの程度の魔力を使えばどのくらい回復してくれるかという彼の人体実験の素体になってくれたズルズ族の面々+αの人達に礼にドラゴン肉を配ると、彼らは喜んでくれた。お互いwinーwinの関係とは正にこのことである。

 ズルズ族以外の部族の人間達については後で送ることになったようだった。バルパはとりあえず一段落すればここを出ていくつもりだったので、そのあたりは彼らの自由意思に任せることにした。

 ミーナ達との合流についても考えたが、もしかしたら第二陣第三陣の襲撃があるかもしれないと考え、とりあえず彼女達がこちらにやって来るまでは彼らと行動を共にすることにした。もちろん彼女達にもわかりやすいように、襲撃を受けた集落の近辺で待機をしておくべきだろう。敵も流石に襲われた場所で暮らしているとは思わないだろうという灯台もと暗し的な発想に基づき、バルパは集落跡地向けて進む虫使い大行進を取りまとめることになった。


 行軍一日目の夜、バルパはパルマと彼の友人であるポルンと一緒に焚き火を囲んでいた。周囲にはバルパが配ったドラゴン肉を思い思いに焼いている皆の姿が見える。男達には余裕があるが、流石に女子供や老人はかなり辛そうだった。だが全員に行き渡らせるだけの調理済み料理を配っていては、すぐに尽きてしまう。そこでまだ元気の残る男達全員で火だけ付け、バルパが肉を配り、彼らに配給するという形式を取ったのだ。適宜野菜や魚も配り、彼らが好きなように食わせてやるようなことにした。魔物の出る場所であるし、星光教の得体の知れぬ技術でまだ未知の敵が出てくる可能性もあるために酒は配らなかった。           

 バルパ達が作っている小集団は、もちろんこの一団全体の中で最も元気が有り余っており、そして最も精力的に夕食の準備をした者達であった。

 メンバーは四人で、実働部隊は三人だったが、それでも彼らの一人一人の働きは数人分に匹敵するものであった。


「バルパさん、また新しい女を連れてるんですかか。ミーナさんが怒りますよ?」

「いや、怒らないだろう。なぁ?」

「……」

 

 バルパが少女に尋ねると、彼女は何も言わずに彼の腰に両腕を回しコクコクと頷いた。冷静に考えれば彼女はミーナを知らないのだから答えようがないじゃないかとバルパは尋ねてみてから気付いた。

 相変わらずの様子に嘆息しながら、少女エルルの抱きつきを仕方なく許容するバルパ。

 エルルは彼が今まで会ったことのないほどに寡黙な少女だった。あまりに静かすぎて、今までそれで生活が出来ていたのか怪しくなるほどだ。名前を聞き取ることすら一苦労だったのだから、バルパとしては閉口するしかない。

 以前よりも更にベタベタと引っ付くようになったセプルが言うことには、酷い仕打ちを受けた人間がこのように喋らなくなるということはままあることなのだという。

 だから彼女が喋らないことには一定の理解度を得ることが出来たのだが、どうして彼女が自分についてこようとするのかはよくわからなかった。

 エルルは何をするにも彼の側を離れようとしなかった。バルパが戦闘をしようとすれば後ろをついてくるし、バルパが食事の準備をしようとすれば腰にへばりついてくるし、バルパが用を足そうとすると自分も用を足そうとした。

 バルパとしては別に一緒でも構わなかったのだが、セプルが激怒したためにしっかりと別の場所で致すことになった。バルパは彼女に変態と罵られながらポカポカと殴られたが、全然痛くなかった。もしあれなら一緒に……とふにゃふにゃ言っていたが、バルパは自らが久しく痛みを感じていない事実に愕然とし全く話を聞いていなかった。正直に聞いてなかったからもう一回言ってくれと口にすると何故か凄い剣幕で怒られた。顔を真っ赤にしながらプリプリしている彼女の張った頬がパンパンだったので、右手で空気を抜いてやると顔がもっと真っ赤になった。やはり人間はよくわからないと首を振ると、側にいたエルルもほっぺをパンパンにしたので、同様にプシュッと空気を抜いてやった。

 まぁとにかくエルルはどこに来るにもついてこようとするし、彼が突き放すと泣きそうになる。正直バルパとしてはかなり迷惑であったが、助けたのは自分だし面倒は最後まで見ようと決めていた。なんだか子分を従えている親分みたいな気分になりながら、バルパはエルルを時に肩車し、時におんぶしながら森を進んでいた。

 そんな彼の態度を見たからか、恐らく人間にあまり良い感情を抱いていないであろうズルズ族も特に目に余るような態度をとることはなかった。一緒に襲われたという同族意識が働いているのかもしれないが、ありがたいことであった。


「にしてもなついてますよね。一体何したんですか、バルパさん」

「何と言われても……助けただけだ」

「パルマ、こういうところだぞ。女を惚れさせるとこは」

「うぐっ、止めろポルン。その言葉は今の俺にクリーンヒットだ」

「酒がねぇのが辛いとこだわな、惨めな男達を慰めてくれんのはいつの時代も酒ばかり」

 

 二人とエルルを微笑ましく見つめながらも周囲の反応は確認し続けている。とりあえず派手に目立つように魔物を殺しまくったおかげであたりに魔物の反応はない。こうでもしなければ快適空間を作ることが出来なかったとはいえ、もう少しやり方があるような気がしないでもない。だがあの黒ずくめ達の馬車を使うのは彼らの心象的に良くないだろうし、やはりバルパにはこれしか思い付かなかった。

 とりあえず食事と話に一段落ついたところを見計らって、バルパは彼らを自分と同じ場所に集合させたその目的を果たすことにした。


「では食事も終わりかけたところで、お前らの話を聞こうか。安堵からか皆食事のペースは遅い、時間ならあるからな」


 バルパが聞こうとしているのは他の人間には聞きづらい襲撃時の情報だ。下手を打った彼らには忸怩たるものもあるだろうが、こいつらも男なのだからその辺は腹を括ってもらわねばならないだろう。

 腰にエルルをへばりつかせたなんとも締まらない格好で、パルマ達から襲撃の一部始終について教えてもらうことにした。

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