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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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強さの傍らに

「どうして俺が冒険者だと?」

「き、決まっている。リリアーノ王子殿下の持つ水晶に反応があったからだ」

 

 話を聞いてみると、どうやらリリアーノは冒険者が持っているプレートに反応する魔法の品(マジックアイテム)を持っているようだった。流石に誰かまでは識別出来ないらしいが、それでも自分がズルズ族と行動を共にしていたという情報は彼らには筒抜けだったというわけだ。となればルルやミーナ達のこともバレていると考えるのが妥当だろう。

 どうやら彼らが襲撃の企てを引き伸ばしたのは、人間の冒険者達がいるという情報を得たためだったらしい。

 海よりも深い溝(ノヴァーシュ)を越えてきたということは、少なくともドラゴンの群れを相手取れるだけの実力を持っているということだ。それが三人だとすればかなりの手練れに違いないということで、彼らは自分達が去ってから暫く様子を見て、そしてもっと奥へ進んだと思えるだけ待ってからズルズ族を襲うことにしたようだった。

 彼らの襲撃が未遂で終わったのは、単にバルパの機動力を読み違えたからだろう。だが彼らの判断がもっと早かったり、或いはリリアーノが更に短気であったりしたのなら、彼らを逃した可能性はゼロではない。どちらにせよ剣が覚醒しバルパの能力を底上げしてくれていなければ、彼は実行犯達を追う術がなかった。

 今は余裕を持てているが実際のところ、この救出劇はかなり紙一重だった。

 ただ不幸中の幸いなことに、彼らの中に瞬間移動持ちや超長距離用通信具を持つものはいないようだった。定時連絡がしていたようだったから彼らが消息を立ったことは早々に知れ渡るだろうが、彼らと自分を結びつけることは不可能だろう。纏武の移動能力を以てすれば、急ぎ街へ戻り知らん顔を決め込むことも出来るはずだ。

 だが一応の用心として、少なくともヴァンス達と話をするまでは、彼女達をリンプフェルトへ帰すことは止めておいた方が良い。彼らが全てを話しているとは限らないし、一行の中で重要な立ち位置を占めていないらしい彼らに伏せられた情報がないとは限らないからだ。 

 リンプフェルトには一人で戻り、別途情報を得てから彼女達を連れてくるのが無難だろう。殺ったのが自分でないことがバレなければどうとでもなる。

 証拠隠滅をしなければならないような事態に陥っている時点で自分の失態なのだが、今後のことを考えるとこれで間違っていないように思える。

 今後のことを考えながら、彼らに随行していた黒ずくめの男達のことを聞くと、星光教子飼の人間だという情報が入ってきた。相変わらず碌なことをしない組織だ、バルパはあの男達の異常性について考え、ヴァンスに聞こうと棚上げした。

 自分の行く先にはことごとく彼らが立ちはだかっている気がする。魔物憎しで立ち上がり団結しているらしい彼らとは、今後もやりあうことになりそうだ。

 理由はわからないが、バルパは遠からず彼らと戦うことになるように思った。

 不気味で悪趣味な彼らのすることを、きっと自分は見逃せないだろう。向こうも自分の存在を許してはくれないだろう。

 どちらかが折れればその存在が危うくなる以上、自分達に争わないという選択肢はない。

 社会、組織などというものは、純粋に強さが測れない分、ドラゴンなどよりもよほど厄介な存在だ。どれもこれも未だバルパの想像を超えているような手管で魔物の領域へと迫ろうとしている。

 敵の術を、やり方を、もっと理解すべきだ。

 戦闘面で大きく余裕が生まれたことを理解できた今は、純粋な強さ以外にも目を向ける良い機会かもしれない。 

 最近途絶えがちになっていたルルの社会科講義をもう少し増やしてもらおう。

 なんにせよ一度は戻るつもりなのだから、その時に人間の力の一つである金や権力につちえもっと学ぶべきだ。王族殺しのこともあるし、出来るだけ詳しくなっておくに越したことはない。

 自分が殺した騎士団のことを、ヴァンスやスースはともかくとしてミーナ達にはどこまで離したものだろう。

 少女の処遇のこともあるし、ズルズ族の合流の手助けもしなくてはならない。他の部族から誘拐された人間達を返してやる必要もあるだろうし、ピリリとの別れのこともある。

 考えるだけでうんざりするくらい、やらねばならないことと、やるべきことは多い。

 おおよその情報は吐き出させたのだから、これ以上時間を使っても有益なものは得られないだろう。

 バルパはブルブルと震えながら、尊大な態度を崩し一人の青年へ態度を戻している男をジッと見つめた。


「すまんが、こちらにも事情があってな」

「ま、待ってくれ‼ 父上に言えば身代金なら幾らでも払ってくれる‼」

「すまん、こればかりはどうしようもない」

  

 謝るあたり、自分もどこかで罪悪感を感じているのだろう。

 バルパは躊躇してしまわぬように、それ以上セクレティアが何かを言う前に彼の頸動脈を切り裂いた。

 そのまま口々に悲鳴をあげて逃げ散る四人を見て、バルパは小さく溜め息を吐いた。

 弱い者いじめは、いつだって気が進まない。

 嫌なことをするときには、心で思っているのとは逆の事をすると良い。ルルに教えられたその訓示を、バルパは実施してみることにした。

 バルパは無理に獰猛な笑みを作り、頬をひくつかせながら彼らに聞こえるように大きめな声で言い放った。


「是非もなし、皆殺しだ」

 

 彼らが物言わぬ骸に変わるまでには、一分もかからなかった。

 そしてやはり、後味の悪さだけが残った。

 やはりリリアーノはおかしい。バルパは喉の奥に苦味のようなものを感じながら、顔をしかめる。

 強さには虚しさが寄り添う。バルパはまた一つ、世界の理を知った。

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