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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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我が剣は

「何故……」

 

 バルパは自分の全身が震えているのを感じた。この震えの原因はなんだろうか。怒りだろうか、歓喜だろうか。自分の感情に名付けをすることはかくも難しい。


「何故彼女を無闇に痛め付けた‼ 答えろ‼」


 弱き者から何もかもを奪える特権が強者には存在する。家財が、住み処が、そして生殺与奪が奪われるのは、弱者が負けたからだ。

 そこに意義を挟むことは、言ってしまえば弱者の負け惜しみでしかない。

  だとすれば自分がしていることは一体なんなのだろう。

 バルパは情けない姿でこけながらドルディアのもとへ戻っていく男を見て、そんなことを思っていた。

 自分が安全圏にまで移動したと思ったからか、ある程度向こうまで行くと男がバルパの方を振り向いた。


「た、楽しかったからに決まっているだろうがっ‼」


 男は若干吃りながらそう答えた。

 彼の言葉を聞き、バルパはその気持ちはわからないでもないような気がした。自分が一方的に暴力をふるうということは、ある種の快楽を伴うものであることを彼は知っているからだ。自分がドラゴン相手にやっている殺戮も、あの男のそれと大差はないように思える。

 だがバルパはドラゴン殺害はなんとも思わず、少女を執拗に痛め付けた行為に対してはこれほどの怒りを覚えている。

 意思が通じる通じないということは関係はない。恐らくバルパは翻訳の首飾りを通し言葉が通じあったからとて、ドラゴンを殺していただろう。もちろん情状酌量の余地はあったし、話をしてみれば戦わないという選択肢もあっただろうが……ドラゴンが自分より下にしか見えない人間と対等な話し合いをするようには思えない。

 ドラゴン以外、それこそゴブリンのような魔物と話が出来たとすればどうだろう。彼らが貧困に喘いでいるのなら助け船を出す程度のことはしている気がする。

 人間にとって一番大事らしい、対象が人かどうかという事はバルパにとって重要なことではない。

 彼は自らが強くなりたいと思った、その原初に立ち返り始める。


(理屈ではない、ただ、自分は……)


 ドラゴンと少女、その違いの答えを見出だそうとしていると騎士達が身じろぎをするのがわかった。

 人質が解放されたことでバルパを用なしと考えているのかもしれない。纏武疾風迅雷は発動しているが、これは戦闘能力の向上をそれほど顕在化させはしない。一見するだけでは何も戦闘の用意をしているように見えない現在の自分は、傍目からはただの鎧を着た冒険者か何かに見えていることだろう。

 自分と彼らの間に広がる戦力差を理解しているだろうと思ったが、どうやら彼らは想像以上に馬鹿であるらしい。要人を救出したのだから、まずは彼を逃がすのが先決だろうにとバルパは自分を指差す男を視界に入れた。


「ドルディア、早くあいつを殺せっ‼ 絶対に許さん、あのクソガキと同じ目に遭わせてやるっ‼」

「リリアーノ殿下、ですが……」

「良いから殺せっ‼」

「……総員抜剣、第二種戦闘配置」


 自分の耳を押さえながら金切り声をあげているあの男はリリアーノという名前らしい。

 先ほどまで痛い痛いと泣き叫んでいた彼の顔には、嗜虐に満ちた醜い表情が浮かんでいる。バルパはそれを見て、生まれて初めて嫌悪感のような何かをおぼえた。

 彼の顔を見て、バルパは自分の行き場のない気持ちの裏に隠された答えを見たような気がした。

 幌を包囲していた騎士達は、気付けば四人一列の縦隊を組んでいた。前方にいる人間は長身の剣を構え、後方の人間は短い刀身の剣を組みながら目を瞑っている。人間が魔力を循環させるときによくする集中方法だ。後ろの方で控えている騎士達の魔力が外へ出され、一つに纏まってゆっくりと変質していく。あれが合体魔法か、と驚きはしたが、バルパは初めての技術を前にしても心躍ることはなかった。

 前衛が時間を稼ぎ後衛がデカい一撃を放つオーソドックスなスタイルで攻めるつもりなのだろう。その程度の浅知恵ならば力でねじ伏せてやる。普段なら選ばない乱暴な方法論を採ろうとする彼は、黙って攻撃が来るのを待っていた。

 バルパは馬車の入り口付近を守りながら向かってくる男達の攻撃を捌き、ある程度加減して吹き飛ばしながら相手の特大の一撃がやって来るのを待ち続けた。奇襲や少女の人質の線も警戒したが、彼らはそういった正義にもとる行動はしないようだった。それはあくまで彼らにとっての正義でしかなかったが、絡め手を使おうとしない真っ直ぐなところは嫌いではないと素直に思えた。

 男達が作り始めた炎は、オレンジから青、そして白へと色を変えていく。形は球から円柱、そして最終的に竜になった。またしてもドラゴンかと思わずにはいられない。

 バルパにとってだけでなく、この世界の住人にとって竜とはやはり強さの象徴なのだ。

 彼は一斉に自分から離れた騎士達を見届けてから、目の前に迫ってくる炎の竜を見据えた。

 ボロ剣を両手で握り、フッと小さく息を吐きながら剣を下ろす。

 バルパの身長を遥かに超える竜が、音もなく消えていく。

 誰かが息を飲むことが聞こえた。バルパは魔力感知で少女の無事を確認し、そして自分の周囲にいる人間達へ叫んだ。

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