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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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突破

 彼の接近に即座に反応したのはやはり黒服の男達だった。五人は馬車の周囲を囲むような五角形の陣形を組んでいたため、幌の中へ入ろうとするバルパ目掛けて即応してみせる。

 動揺から足が動かなくなっている騎士達とは違い、彼らはバルパがもう少しで幌に入るというところで戦闘の出来る準備を終えていた。

 二人が前方に出て三人が後方から魔法と投げナイフで支援を行う見慣れた陣形であった。二度ほど経験したからこそ、もはやその攻撃方法はバルパにとり陳腐化したものでしかない。

 前方の二人のうち、右の男に狙いをつけて前へ進む。スレイブニルの靴を起動させ、飛び蹴りをするように自らの横の大気を足場にして体を強引に回転させる。二度ほど軌道修正を行うと、バルパは一メートルほど高度を上昇させ頭が下になるような体勢になった。

 そのまま一歩駆ければ、纏武の機動力向上により即座に十歩ほど距離が詰められる。バルパの遥か後方を魔法が通っていくことを上昇している聴覚で感じとりながらさらに一歩前へ。前へ進むこと、これで一手。

 更に二歩前に出れば近接戦闘の距離になる。バルパは男の横を抜ける軌道で一気に踏み込み、すれ違いざまに裏拳気味の拳を放った。足元から進行方向を察知した男が土の壁を作り体の横に即席の防護壁を作り上げる。これで二手。

 バルパは体を回転させ打ち込んだ勢いそのままに右手の肘を曲げる。握られたボロ剣が勢い良く突き出され、壁の上部に突きたった。ボロ剣はそのまま土をバターのように裂き、その先で距離を取ろうとしている男の頭部まで貫通する。これで三手。

 強引に手をねじ込んだせいで右腕に土が付着する。少量の水が入っていたようで、粘質な感触が腕先にやって来る。

 一度腕を抜き取ってから強引に空を蹴り着地、続けざまに前に出て迫ってくるもう一人の黒服に対処する。

 小降りな刃渡りのナイフを持つ彼の肘関節に高速の一撃を当てると、嫌な音を立てながら男の左手があらぬ方向へ曲がる。痛みに顔をしかめることもない彼を見て奇妙な見世物を見せられている気分になりながら、背後をとり男の首を思いきりねじり切った。

 そのまま頭髪を掴み一度後ろに引いて勢いをつけてから魔法を放ってくる後衛の一人に思いきり叩きつける。

 下部から血を流す首と衝突した黒服の頭が、骨と骨のぶつかる鈍い音を立てながら陥没した。死体へ変わった男が最後っ屁として放った炎の斧をボロ剣で一刀両断にすると、残る二人からの攻撃が左右から飛んでくる。

 風の刃が右上方から、水の鞭が左下方から飛んでくる。バルパはその攻撃を強引に前進し、魔法を後方に置き去りにすることで避けた。

 そのまま全速力で移動すると、二人のうち右側に位置していた人間の背後をとり、ボロ剣で首を切り落とす。下手に腹部を狙わずとも、明らかに過ぎる頭部を狙った方が早く済む。

 残りの一人が放ってきた氷の円錐を掌の甲で弾いて軌道を逸らす、そのまま右足に力を込め大きく左に跳躍し、接近戦の構えを取ろうとする男の首に左ストレートを叩き込んだ。

纏武により向上した身体能力によりその一撃は容易く頭蓋を突き破り、男は物言わぬ骸となって倒れた。

 ここでようやく襲撃を悟った騎士達が隊伍を組み始める。

 黒服と騎士の練度の差、というよりかは純粋な目的の差だろう。彼らは自分を倒すことではなく、中にいる人間を守ろうとしているのだ。

 誰かを守る、そういう考え方が出来るというのに。バルパは慚愧の念を感じずにはいられなかった。握られた左の拳は更に固く握りしめられ、バルパの突出した噛み合わせの悪い歯がギリリと不協和音を鳴らす。

 隊列を組んでいる男達は、四角形になって馬車を四方から守るための陣形を敷いていた。

 四角形の各辺を五人で守り、その少し後方で残った人間が後詰めをするような方陣が即座に組まれたことからは、彼らの練度の高さを窺うことが出来る。

 どうして、その力をあのような下劣のために振るう。そう問いたくなる気持ちをぐっと押さえ、バルパは地面を蹴った。上方へ跳ぼうとして一歩を蹴れば、たちまち彼らの背丈を超えるほどの高度まで飛び上がることが出来る。

 先ほどは背丈より低い低空軌道しか取っていなかったため、急激な高度の上昇は目論み通り彼らの意表を衝くことに成功する。

 バルパが一気に距離を詰めると、機敏に数人した数人が咄嗟に魔法を放ってきた。だがそんな急ごしらえの即席魔法などが、風を身に纏い極限まで身体能力を底上げしているバルパに当たる訳がない。バルパが数瞬前通った場所に殺到する魔法を無視して、バルパは幌の真上まで上がってから体を半回転させ、幌に顔から突っ込んでいった。

 唖然とする騎士達の顔を見る余裕などないまま、彼は腕を交差させ魔法の品である幌馬車を自らの体で強引に突き破っていく。

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[気になる点]  小降りな刃渡りのナイフを持つ彼の肘関節に高速の一撃を当てると、嫌な音を立てながら男の左手があらぬ方向へ曲がる。 →小振りな
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