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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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美しくて、醜い

 彼は男達に接近してから、しっかりと黒ずくめ以外の人間を確認することにした。

 黒服の五人を除く二十人ほどの人間は、全員動きづらそうな鎧を着けている。

 白銀の金属鎧は、手甲や掛金の細部にまで装飾が彫り込まれていて値段が高そうだ。踝のあたりまでがっちりと金属で覆われているにもかかわらずあまり身重そうに見えないのは、あの鎧自体になんらかの仕掛けがあるのということなのだろう。軽い金属というものが存在するか、もしくは魔法の品(マジックアイテム)らしいその物品に重さを軽減させる能力があるかだろう。或いは重さなど気にならなくなるほどに身体能力を強化させる能力かもしれない。

 その見た目はバルパが最初に襲った幌の中にいた二人組と似ていた。とすれば彼らは一つの中に二種類の戦闘集団を抱えていることになる。正規の戦闘と暗殺や誘拐等の表立って出来ない戦闘と役割分担をしているのかもしれないな、バルパはどこか連携がチグハグな二組をみてそう思った。

 鎧の男達が腰に帯びている、あるいは抜刀している剣はかなり分厚い両刃刀であり、それらの重量もまた鎧同様気にされている様子はない。

 きらびやかな装備と黒服ほどには秩序だっていない規律めいた行動は、バルパが以前見掛けていたザガ王国騎士団のそれと共通する部分がある。以前彼らの戦闘を詳細に観察していれば体捌きからわかっただろうにと、バルパは騎士団達の戦闘を詳細に確認しなかった過去の自分に物申してやりたい気分になった。

 先ほどまでと異なり、馬車は黒ずくめではなく白銀の鎧男達により運ばれている。良く見ると馬車の側面になんらかの印章のような物がついている。心なしか幌の色が今までのそれよりも汚れていないような気もする。

 中に入っているのは四人、詳細な内訳はわからないが二人は魔力が少なく、もう二人は外に出ている騎士達と同程度に多い。

 恐らく偉い人間が二人と、それに付き合う人間が二人という構図なのだろう。太った男一人に対して武装した男が二人ついていたのと同じだ。

 下手に音を出さぬよう纏武は使っておらず、バルパは今現在魔力感知と視力の強化だけを使い彼らを観察していた。

 今回は既にズルズ族の救出という第一目標は達成している、本当ならば彼らが無事に合流を出来ているかどうか確認するべきなのかもしれないが、ここの魔物程度ならばなんとかなるだろう。それほど広範に広がっていなかっただろうからすぐに合流は出来ているはずだ。そして男達と合流できれば若干の不安が残る子供や老人達もなんとかなるだろう。バルパが幌を途中途中運んだりして距離を短縮したりもしたので、まず間違いなく無事であるはずだ。

 自分は万難を排し、しっかりと準備を整えてから戦いに挑むべきだろう。バルパは過剰すぎるほどに彼らから距離を取りながらその行軍を観察していた。

 以前魔物の領域に住む者達の話を聞いたときのように、話し声が聞こえるほどの距離にまで近づくことはしたくなかった。戦闘能力に開きがあるとはいえ、彼らが冥王パティルの短剣のような強さに無関係に対象に勝てる魔法の品を持っていないとは言えない。

 とりあえず接収しておいた二人の騎士と黒服が持っていた収納箱にはそこまで過激な物品はなかったが、黒服達のナイフにはすべからく毒が塗ってあった。バルパを害する手段がないとは言えない。

 時間はかけられるだけかけた方が良い。相手の戦闘方法を丸裸にして、対処の方法についても目処が立てられるようになれば完璧だ。

 バルパはジッと待ちながら、昔もこんな風に人間を観察していたなと少し懐かしい気分になった。


 どうやら騎士達の戦闘能力は、黒ずくめより強いように思える。暗殺や一撃離脱のような奇策ではなく、堂々と実力で相手を叩き潰すような戦い方は、バルパにとり好ましいものである。彼らがズルズ族を襲ってさえいなければ、手合わせを願ったかもしれない。そう思えるほどには彼らの剣技は洗練されており、そして正道を進んでいた。

 アラドの剣技はヴァンス仕込みの荒くれ者のそれである。戦闘に次ぐ戦闘により鍛え上げられ、磨き抜かれていった現場の剣技とでも言うべきものだ。一見非合理に見える隙や技までのモーションの一つ一つに誘いや回避等の動きが複雑に絡まっており、アラドは非効率なようでいて非常に効率的な技の数々を放つ。道端の石ころを強引に磨き抜き、宝石よりも綺麗にしたかのような強引な力業のような剣技は、それ故に洗練され野性的な魅力がある。

 対し騎士達のそれは、最初から綺麗になることがわかっている原石のような剣技だった。

 最初から動きも、こうなればこうなるという指南書でもあるかのように型にはまっており、彼らはそれを組み合わせて戦っている。

 一切の無駄はなく、カチリカチリとパズルのピースをはめていくかのように相手の逃げ道を塞いでいくそれは、戦えばやりづらいことこの上ないだろう。

 彼らの剣技は無駄が削ぎ落とされており、相手の奇手にも十分に対応できるだけの余裕がある。逆転の目を狙おうとする一撃も、苦し紛れの一手も、彼らにとっては対応可能な無駄な攻撃でしかない。

 恐らく同じ条件下で戦ったのなら自分では勝てないだろう、そう感じてしまうだけの機能美のようなものが彼らの剣には宿っていた。

 自分が自力を鍛え上げていなければ、あっさりとやられていたかもしれない。バルパは彼らが大挙して翡翠の迷宮に押し寄せてこなかった幸運に感謝した。


 戦いが終わると、こまめに男が顔を出しては何かを側にいる騎士へ伝えているのが見える。つい先ほど殺した小太りの男のように醜い瞳をした男は、ことあるごとに悪態を吐いてはすぐに幌の中へと入り直した。

 ズルズ族を運んだときにあの幌馬車の中の揺れの酷さは理解していたので、恐らく偉いのだろう人間の顔色が真っ青で、時々外に吐瀉物を吐いているのは納得できることだった。

 バルパはそろそろ相手の戦法は出切っただろうと考え、彼らの隙が最大になる瞬間を狙うことにした。

 そういえばもう一人出てこない、偉いと思われる人間はどうして出てこないのだろう。もしや悪態を吐くほどの元気も残っていないほどに衰弱しているのだろうか。

 わからないものを徒に不安に思っても仕方ないか、とバルパは徐々に距離を詰めていった。

 彼の接近に合わせたわけではないだろうが、男が青い顔をしながら揺れる幌から顔を出す。

 目鼻立ちがくっきりと見える距離まで近づけたことで、バルパはようやく彼の話し声が聞こえるようになった。


「おい、代わりの玩具はないのか? こいつはそろそろ鳴かなくなりそうだ」


 バルパは纏武を発動し、集団へ一気に距離を詰めた。

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