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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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 反応は不規則なようでいて、規則性があった。まるで水溜まりに石を投じたかのように、黒ずくめの男達は放射状に散開しているのだ。その中には数人が一纏まりになっている所もあれば、一人で動いている所もある。恐らくは運んでいる人、あるいは者の重要度により人員が配置されているのだろうと思えた。これほどまでに規則的で機械的な動きをする彼らが、意味もなく塊になって行動するとは考えづらい。直接リンプフェルトへ向かう軌道をとっている集団が一つしかないのは、陽動か何かと考えるのが妥当だろうか。

 逃げようとする動きは大別すると三種類。一人で距離を稼ごうとしているもの、数人で塊になりながら動いているもの、そして最後に明らかな大所帯で動いている大きな集団。恐らくもっとも重要なのが彼らである。一糸乱れぬ隊列で速度を維持していたはずの彼らのペースが明らかに他と比べても遅れているということは、遅れてでも守らねばならない何かがあるのだろうとバルパには思えた。

 彼らのペースは他と比べれば遅いならば、後回しにしても構わないだろう。もはや一人たりとも打ち漏らしを出す予定のないバルパは、まずは一人で動き回る奴等を追いかけることにした。彼らの持つ馬車には、それぞれ十人前後の虫使い達が乗せられている。

 単体の獲物を狩り尽くしてから次に中規模の団体、そして最後に行軍の遅れている団体だ。一番大所帯である彼らの馬車の中には、不思議なことに虫使いの反応は一つもなかった。その全てがただの人間の反応であるのは、正直なところ違和感しかない。

 携行している魔法の品(マジックアイテム)もそこそこの品質の品しかないようだし、何よりあれほど大規模な襲撃を行ってまで拐った虫使い達を連れていないことはおかしい。

 もしや本来の目的は虫使い達の略取ではなく、別の何かだったのだろうか。それかあるいは既に、彼らは虫使い達の生皮を剥いで魔法の品に加工済みなのだろうか。

 何にせよ、自分に出来ることは為すべきことを為すだけだ。

 バルパは自らが捉えた反応のうち、最も近くにいる馬車持ちへようやく到達した。



 目の前にいる黒ずくめの腹部を殴ると、男は吐血しながら大きく後ろへ下がっていく。男がバルパに気づき反応するよりも、高速で接近した彼がその胴体に一撃をぶちかます方が早い。彼の体は未だにその能力を向上させ続けている。バルパとしては込めている魔力が増えているわけでもないのにドンドンと強化されていく自分の肉体が、奇妙としか思えなかった。

 馬車をそっと持ち抱え、幌の中をそうっと覗き込む。すると口許に猿轡を噛まされている男達が、全身を荒縄で縛り付けられている光景が視界に入ってきた。どうやら何らかの効果がある魔法の品のようだったので、バルパは彼らの全身に蛇のように巻き付いている縄を全て無限収納にいれた。猿轡はただの布だったが、これは放置した。いちいち外してやるのが面倒だし、両手が動くなら自分で取れるだろう。

 彼らの顔をぐるりと見渡してみると、幸いなことに全員がズルズ族の人達であった。

 彼らが自身で猿轡を外してしまえば、また礼だのなんだのと時間を取られる。

 バルパは女達を置いてきた場所を彼らに簡潔に伝えてから、俺は皆を助けに行くとだけ言ってその場を去った。数人は口が利けるようになっていたはずだったが、後ろから返ってくる言葉はなかった。バルパは後ろを振り返らなかったが、彼らが今自分に礼をしていることがどうしてか理解できた。

 遅すぎた助け船を出す自分が感謝されるというのは、あまり気分が良いものではない。ピリリにかまけず彼らをもっと戦いの中に置き、せめてポップスとパルマくらいは単独でワイバーンが狩れる実力まで育て上げるべきだった。それ以外にも幾つもの後悔が彼の頭を過り、そして自らの纏う風により流されていく。

 思えば自分は、後悔ばかりだ。気付けばバルパは、強くボロ剣を握っていた。するとまるで彼の心に反応したかのように、剣の握りの部分が強く反発する。それはまるで自分に、悔やむ暇があれば頭を動かせと催促をしているように思えた。

 まさか剣に物事を教わる日が来るとはな、と小さく笑うバルパ。全力疾走を続けており体はフルで動かしているが、確かに頭を巡る思いはどうにも負の側面の強いものばかりだ。そんなことではもし相手の中に予想を超える手練れがいた場合、致命傷になりかねない。

 バルパはありがとうなと小さく呟いた。するとボロ剣の刀身がうっすらと光り、バルパの踏み出す足の力強さが一段と増した。


「…………お前の力だったのか」


 そうだ、とばかりに一瞬だけ強い光を発するボロ剣。もしやこの剣には自我があるのかもしれない。普通なら一笑に付されるであろう考えを、バルパはすんなりと受け入れることが出来た。自我のあるゴブリンよりも、自我のある剣の方がよっぽど現実味がある。

 自分がバルパとして生まれ変わってから長い時間を共に過ごし、幾多の死線を共に潜り抜けて来た愛剣に、バルパは強い愛着を持っている。不揃いで切れ味の悪そうな見た目のくせ、他の剣では傷一つつけられないような物でも一刀両断してしまう。その見た目の不格好さと性能とのアンバランスさは、どうにもバルパの性に合った。

 魔力感知を意識を集中させながら使うと、今のバルパは今まで感知出来たものに加え、魔力の流れとでも言うべきものを新たに知覚出来るようになっているのがわかった。

 バルパの全身を高速で巡る風の魔力に、ほんの少しだけ混じる別の魔力がある。ボロ剣は魔力が自らを掴む右手にやってきた段階で、それに自分の魔力を上乗せさせてくれていた。

 その魔力はそれ自体で意味を持つものではなく、どうやらバルパの魔撃を向上させてくれているようだ。

 どうやら急に強くなったのではなく、ここ最近はあまり使ってやれなかったボロ剣がハッスルしたということらしい。どうやらこの剣には、緑砲女王ブルトップのように魔力を増幅させる性質があるらしい。どうして急に機能が発動したのかは疑問ではあるし、この急激な能力の増加が自分の力によるものでないのは少々残念ではある。だが追跡速度が増し、魔力感知の制度が上がるのだから、今この瞬間に目覚めてくれた幸運に感謝せねばなるまい。

 空を駆けながらようやく新たな対象を確認したバルパは、一体どこまで強化されるか未知数の脚力で進行方向を変え、眼下で魔法を使っている黒服目掛けて急降下していった。

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