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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第一巻2/25発売!!)
第一章 狩る者と狩られる者
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人間の強さ、その一端

 彼は人間がやって来るのを待ちながら考えを巡らせることにした。ここに人間がやって来る頻度はさほど高くないことは経験でわかっていたため、時間はあると思われたからだ。

 彼は袋の中身と頭の中で念じた、すると脳内にぶわっと入っている物の名前が表れる。名も無きゴブリンは言葉を理解することは出来ていなかったが、中に何が入っているのかはなんとなく理解する事が出来た。大体の大きさと色合いがわかるだけでそれがどういうものなのかはわからなかったが、何もわからないよりかはよほどマシである。

 身を守るための盾、相手を倒すための武器、倒された死体、それに意味のわからない謎の物体や石ころとその内容は非常に多岐に渡り、全てを理解することは早々に放棄することを決めた。そういうことについて考えるのはもっと余裕を持ててからにすべきであると彼の本能が叫んでいた。以前より遥かに強くなり、以前よりたくさんの物を手に入れたからとて、死なないという確証が得られるわけでもないのだから。

 彼がまず考えたのは自分が身に付ける武器と防具をどうするかということだった。この場所に生きるゴブリンはまともな物を持っていない。持っているのは腰布、紐でくくりつけただけの石の鉈か斧、それから粗末な木の盾だけである。

 そして今彼は自分に全てを与えてくれた人間の服を着ている。それを着ていては目立つことは避けられそうにない、袋の中を調べてみると汚い布の服と石の斧があることを確認した。そしてさっきの場所に石鉈を置いてきてしまったことに気付き、まぁいいかと気を取り直した。

 目立たないように着替えようと袋から服と斧を出す、しかし実際に着替えをする前に考えた。この服では自分の身を守れないのではないだろうかと。それならばと袋に触れ頭に防具を思い浮かべる、すると派手な鎧から赤黒い線の走った盾まで色々なものがあることがわかった。名も無きゴブリンはその中であまり派手ではない、茶色い木製の盾と鉄の環が各所に巻かれた鎖帷子を取り出した。そして両方を装着し、ジャラジャラと音が鳴ったため鎖帷子を袋に入れ青色の服を取り出した。適当に選び出した明るい色の衣服である。

途端、彼の背筋におぞけが走った。目の前の服は自分よりも強い、そんなはずもないのに彼はそう直感した。息を飲んで見守るが服が動くはずもない、ゴブリンは自分が間違っていたのかと不思議な思いに囚われた。

(この青い服にはあの強い人間と似た強さがある。だが……自分ではその力を使えないのか? ということはつまり……っ⁉)

再び、今度は先ほどよりも遥かに大きな恐怖を感じる。それは彼がとある事実に気付いてしまったからだ。

目の前の服は強い、それがどうしてなのかはわからない。しかし服は自分では力が使えない。それならばどうするか? そう、この服を誰かが使えば良いのである。つまりこれを使えば、自分は強くなれる。それはつまりこれを着た人間もまた強くなってしまうということだ。自分が強くならなくとも強くなる、それこそが人間の強さなのだ。

名も無きゴブリンにも武器と防具というものへの理解はあった。だがそれはあくまで人を殺すため、自分を守るためという非常に原始的なものでしかなかった。今ある石の鉈を使い、落ちていた服を身に纏えばマシになるといった考え程度のものでしかない。

しかし今彼は知ってしまった、強い武器と防具を持てば本人が強くならなくとも強くなれるのだということを。

彼はまだ自分というものが朧気だったころから思っていた、どうして自分よりも弱いはずの人間が強いのだろうかと。自分が殴れば気を失い、自分が叩き斬れば死んでしまうような人間がどうして自分よりも強いのだろうと。

その秘密の一つが目の前にあった。この青い服は強い、つまりこれは着る人間を強くする。これを着れば人間は元の力以上の力を発揮できる。そしてそんな武器や防具が外にはたくさんあるに違いない。

最初は自らを鍛えれば良いのだと思っていた、生物をたくさん殺し自分がより高みへ上がればいずれは誰よりも強くなれると。しかしことはそう単純ではない。この青い服は自分よりも強い。もし自分より弱いはずの人間がこれを使えば、その人間は自分よりも強くなってしまうはずだ。それはなんと恐ろしいことなのだろうと名も無きゴブリンはしばらく呆けたまま立っていた。

彼は今まで魔力というものをほとんど持っていなかった。しかし勇者を倒したことで魔力量を増やした今、なんとなくではあるが魔力というものを感じとることが出来るようになっていたのだ。彼が取り出したのは竜宮の羽衣、自らの移動と回避に補正をかけるマジックアイテムだった。魔力を感じ取れるようになったことで彼は装備の大切さを肌で理解した。

自分が強くなるだけでは足りないとわかったのである。自分だけではなく自分の武器も、防具も強いものを選ばなければならない。未だ武術というものの存在すら知らない名も無きゴブリンではあったが、彼は戦闘が自らの強さ以外の要素に左右されるという事実を知った。それは彼の慎重さを一層強めることとなり、結果として彼は自分がつける装備を選び直した。着けたのは鉄の盾、鉄の槍、そして革の鎧である。そのどれもが強くない、つまり魔力を持たぬ一品ではあったがそれは一ゴブリンが持つ装備にしては優れすぎている装備の数々であった。勿論彼とて自分が回りよりも良い装備をしていることによる危険は知っていたが、自分の身の安全と目立つ危険性を加味した結果この格好をすることに決めたのである。

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