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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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長いようで短い日々

 光陰矢のごとし、半月という時間はバルパが思っていたよりもずっと早く経っていった。彼は周囲の男達の自分への態度が日に日に変わっていくことをはっきりと理解した。最初敵意剥き出しだった彼らの鋭い視線は、次には腫れ物に触れないような恐怖のこもった物へと変わっていった。そしてバルパがピリリの訓練を一段落させ、彼らの面倒を集中的に見るようになると、彼らがバルパを見る瞳には敵意ではない熱のようなものが浮かぶようになった。

 バルパはルルやミーナ、それからウィリス達のように数人のグループと行動を共にすることはあったが、基本的に訓練や指導を行う際には一対一で行う場合が多かった。迷宮をミーナやルル達と共に進んでいった時からの習慣のようなものであり、自分を口下手だと自覚する彼はそのやり方が最もやりやすかったのである。そのため彼の教え方は基本的には話をしたり、戦闘技術が向上するように指導したり、戦い方を見せたりと言ったように個人レッスンの色合いが濃いものだった。

 自由と独立を貴び集団行動などというものから縁遠い気風のあるバルパにとり、十人を超える集団に一斉に教えることは複雑で玄妙で、難しいことであった。

 最初は誰か数人をみっちりと鍛え、彼らに他の虫使い達を育てさせようかとも思ったのだが、離れている間にある程度成長が見込まれていたはずのピリリの育成にすら想像以上の時間がかかったの経験から考えるとそれは確実に時間のリミットを超える選択なのは明らかであった。

 集団全員に均等に経験値を分けるようにドラゴン狩りをさせたところで、彼らが使役する虫達にも分散されることを考えると、短期間で確実に戦闘能力をつけさせるようなことは不可能に近かった。

 幸いウィリスやルルの奮戦によりある程度の下地は出来ていた、なので彼が教えることにしたのは実戦的な色合いの濃いものについてのことの方が多くなった。

 この半月の間でバルパにとって一番の驚きだったのは、ズルズ族全体の戦闘能力の向上に一番熱心だったのはウィリスだったということである。その事実は彼にとってかなりセンセーショナルなものだった。

 聞けば一心不乱に怒鳴り散らしスパルタ教育を施していたらしく、バルパはようやく彼女が人間嫌いを克服したかと嬉しくなった。そして思わず頭を撫でると、彼女が反射的に攻撃しようとして首輪の痛みに呻いた。どうやら虫使い達に対して悪感情を抱いていないというだけで、自分への態度が軟化するのはまだまだ先の話らしい。その時レイとルルの顔色が一瞬変わった気がしたが、その後何もなかったのだし気のせいだろう。

 ピリリが単独、毒無しでワイバーンを倒せるようになったのに十日かかったため、バルパが男達を育てるために残された時間は決して多くなかった。なので彼はピリリにかかりきりだった分、残された時間は積極的に彼らと関わることにした。ピリリに重点を置きすぎたことに関しては自分の非も認めていたし、その分だけ精力的に頑張りを見せることも吝かではなかった。

 自分を話を聞き入れてくれなくては困る、非協力的であれば練習の効率がどれほど落ちてしまうかわからない。なので彼はまず、彼らにとりある種信仰の対象ですらあるらしいエレメントドラゴンを十匹ほどジャブで殺した。そして自分の強さをしっかりと見せつけてから日も落ちぬうちに集落へ戻り、半日ほど彼らとしっかりと話をする場所を設けた。

 一体自分の何が嫌なのか、文句があるならば面と向かって言わないとわからない。怒らないから正直なところを話せ。

 最初は無言だった彼らも、バルパが本気で言っているとわかると畏れ半分でおっかなびっくり話し始めた。どうやらルルやウィリス達がバルパについての印象操作をある程度行ってくれていたらしく、悪感情が薄まってくれていたためにその聴取は上手くいった。

 そしてお世話になり始めて十日が経過した時点でようやく、バルパは彼らの懸念が一体どこにあったのかを知った。まさか自分がズルズ族の女達のことごとくをお嫁さんにするのではないかと疑われているなどと彼は全く思っていなかった。強さへの羨望、嫉妬、あるいは嫌悪のようなものだとばかり思っていたばかりに、話を聞いた時は面を食らった。

 そしてバルパは自分が誰一人としてお嫁さんにするつもりなどなく、正直女性が苦手であることを口にすると、何故か彼らがめちゃくちゃフランクになった。

 どうやら気にかかっていたのは本当にその部分だけであるらしく、バルパは女の一人や二人で強くなる機会を不意にし、強者への反感を買い命すら危うくさせる人間という生き物の不合理を知った。

 彼らは強さに関しては素直に敬意を払う民族性を持っているために、バルパがルルやミーナ、ウィリスについてのあれこれを話すと随分打ち解けることが出来た。

 もちろん話では肝心なところはボカして伝えていたのだが、それでも男達は一様にバルパが悪いと口にした。ほとんど全ての話で罵られるものだから、バルパは本当に自分が悪いことを渋々認めざるを得なかった。その日の夜、すまなかったとミーナ達に謝ると、皆が皆悪いのは自分だから謝らないで欲しいと言った。バルパは実はこの世界の生き物というのは全て悪い奴なのではないかと思いながら、暗くなりかけた雰囲気を元に戻すために御馳走を取り出した。バルパの女性の扱い方は、未だ上達の片鱗すら見せてはいなかった。

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