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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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嫌悪なんて

「……今度からは毒を使わせないようにするか」


 空からピリリの戦闘を見ていたバルパの第一声はそれであった。もはや戦闘と言うよりかはなぶり殺しに近いあれは、隠密の訓練にはなっても戦闘の訓練にはならないだろう。

 毒虫を放って相手に毒を与えてから逃げ回り、毒が回ったところで止めを差す。その手法は奇しくも実力不足を痛感していたバルパが生み出した戦法と全く同じだった。一緒に生活をしていると考え方も似てくるのだろうか、とバルパとしては嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちである。

 確かに狩りをするという一点においては毒は非常に有効な手段である。逃げ回っていれば戦う必要すらなく、相手を一方的に弱らせることが出来る。

 だがバルパはその弱点を理解している。毒に頼った戦い方は、毒が効かなくなれば全くもって無意味になる。毒があるという考え自体が慢心と戦法の硬直化を招くため、出来ることなら毒を常用するのは止めておいた方が良い。バルパはそれを体感で理解していたからこそ、そこまで抵抗なく冥王パティルの短剣をヴァンスに渡したのだ。

 しかし今の戦いは悪くない、悪いのは詳しい説明や注意を怠ったバルパである。彼としてもまさか毒がワイバーンに効くほど強力になっているとは思っていなかったから、これは予想外だったのだ。ワイバーンの尻尾の先端に放射状に広がっているトゲには毒がある。そのため基本的に毒には強く、ある程度の耐性を持っているというのは常識であった。最初毒で攻めようとしているピリリを見たとき、バルパは時間の無駄だと彼女のやり方を否定していた。だが毒の種類が違ったのか、はたまた既に虫の毒がワイバーンのそれを上回って逝いたのかはわからないが、結果としてはピリリの考えの方が正しかった。

 少なくとも自分が戦闘訓練を行う内はたまにしか使わせるつもりはないが、強力な毒という攻撃手段は、彼女が一人で戦うようになれば大きな武器になるのは間違いない。

 バルパは派手にのたくっている昆虫の群れから少し距離をおいて着陸し、ピリリが虫達を体内に収容する様子をじっと見つめていた。


「あーもう、見ないでってば」

「収納時間も戦闘の構成要素足りうるだろう、だから俺は見る。何度でも見る」

「……わかった」


 ピリリが口を開きながら虫達を体内に運び入れている。既に何度か見ている光景とはいえ、いたいけな少女の口の中にドンドンと虫が入っていく様子はやはり不思議な感じがする。体内が収納箱になっているせいで明らかに彼女より体積が大きい虫も入っていくのは変な感じだし、明らかに毒液滴る魔物が入ってもピリリに何も変調の様子が見られないのも摩訶不思議である。

 というかあの紫色のスライムみたいな奴は初めて見たな、と戦闘を振り返ってみるバルパ。今まではピリリが攻撃用の虫を数匹出し遊撃用の砲台として使いながら、ピリリの体内の虫達が協力して一撃を放つスタイルが主だったために毒虫の姿は見ていなかった。口からぺっぺっと毒液を吐いている姿は何度か見掛けたが、その正体があんなヘンテコな虫だったとは。

 考えてみれば昨日は経験値の獲得に執心し過ぎていたせいで彼女の戦い自体はおざなりに過ぎた気がするな。なら一度ピリリに全ての虫と特徴を教えてもらうとしよう。


「ピリリ、一度全部虫を吐き出してくれ」

「……うん、わかった」


 ペッペッと虫を吐いていくピリリ、彼女の口よりも遥かに大きな異形の化け物達が出てくる様子はおぞましさを通り越してどこかシュールですらある。

 バルパが未だ確認出来ていなかった虫は、彼女が普段体内で使役している数種類だけだった。それならば全部出す必要はなかったなと口にすると、耳ざとくその言葉を聞いていたピリリにポカポカと胸を殴られた。だが昆虫をけしかけていないことから察するに彼女も本気で怒っているわけではなさそうなのでとりあえずされるがままにしておいた。

 彼女が常に体内で使っていたバルパ未確認の虫は四匹、その内の一匹があのヘドロのような虫かどうか怪しい虫のような何かなので彼が新たに認識した虫は三匹である。

 火を出す薄っぺらく細長い虫は、大体バルパ程度の体長がある。土を出す魚のような虫は、明らかに水を出しそうな見た目をしている。風を口から出す蝶のような魔物は、シンプルに見た目が気持ち悪かった。ストローのような物が五本も飛び出している羽根の生えているその虫は攻撃の度に五本の口を広げるのだが、その際見える口中のギザギザの歯が肉食獣のそれを想起させる。細長い羽についている模様は、見ていると背筋をざわつかせるほどに気味が悪い。まるでぐずぐずに溶けた肉の塊のような色合いで描かれるそれは、何対もの巨人の瞳がこちらを向いているかと錯覚するかのような妙な斑模様をしていた。

 魔撃を使わせ威力を確認しながら、どうやらピリリは見た目が悪くならないよう体内体外の虫を選択していることがわかり、そんなことはどうでも良いと切り捨てた。

 もうそんな些細なことで変わるような関係性じゃないだろう。そう言うとピリリは、無言でバルパの鎧の端をそっと握って頷いた。

 どうせならえげつない見た目の虫を全面に出して視覚効果を狙って行った方が良いだろう。先ほどのワイバーンは心なしかあのスライムと虫を足して二で割ったような魔物に嫌悪感を示していたように感じられた。 

 とりあえずまずは毒有りの状態で翼有りワイバーンをソロ討伐、次に毒無しで討伐。最後にワイバーンの番を毒無しで討伐。これを今日の目標にしよう。

 まだ鎧を握っていたピリリの手をそっとほどいてやってから、次に行くぞとその手を小さく握る。ピリリは一瞬下を向いてから、今度はバルパの顔よりずっと高い場所を見上げた。そこにはエレメントドラゴンと思われる存在のゴマ粒のような姿があった。

 良いな、素晴らしい。目標は高いほど燃えるものだ。

 バルパはピリリの向上意欲を喜ばしく思いながら、単独行動のワイバーンを探し始めた。

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