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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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二者面談改め四者相談

 今度は特に待ちぼうけをくらうようなことはなく、すぐに三人がやって来た。本当ならば明らかに問題がありそうなウィリスはピリリと同様個人的に話をしたかったのだが、彼女と自分の二人きりでは恐らくまともな話し合いにはならないだろう。

 だからこそ彼は特に問題のなさそうなレイとヴォーネも一緒に呼びなんとかしてもらおうと画策したのだ。彼は戦闘以外、わりとポンコツである。

 申し訳なさそうに頭を下げようとするレイにそんなことはせんでいいとぞんざいに手を振り、三人に近場の岩に座らせるように言った。今自分がしていることは命令なのだろうか、それともお願いなのだろうかと考えてみるも、答えは出ない。

 三人の見た目の変化は今のバルパには皆目見当がつかなかった。三人とも腕輪をしており見た目は人間そのもので、特に体型や顔立ちが変わったようには見えない。もしかしたら耳が凄く伸びていたり、羽が十二枚とかに増えているかもしれないが、見えていない部分について聞くのは面倒だったのでやめた。

 夕暮れと夜が混じり、世界の色は薄紅からライラックへ、そして深い藍色へと変わっていく。今まで太陽の眩しさに隠れていた星々の光が柔く四人を照らしている。

 ドラゴンの姿は空にない。視界が晴れない時間に狩りをするような非効率なことはしないという彼らなりのやり方があるのだ、ドラゴンと共にあった三ヶ月間を考え空に思いを馳せる。

「あ、あのー……」

 小さく手をあげたのはヴォーネである。相変わらずちみっこくて、本当にミーナと同じ年なのかどうか非常に疑わしい。髪も瞳も赤く、スースの趣味に合わせてか着ている服も赤い。ヒラヒラとした絨毯のような服の先についている繊毛のような突起が邪魔臭そうだと思えたが、彼女には気にした様子は見受けられない。

 その腰には、紐で繋がれている手乗りサイズのランプがぼんやりと光っていた。元気そうな様子から考えるに、あのランプはまだまだ現役で使えているらしい。

 もし使えなくなってもスースがなんとかしてくれるだろうと考えてはいたが、もしもの時のために予備を渡しておくくらいはするべきだったかもしれない。少し気が逸り過ぎていた過去の自分の短慮を自戒しながら顔を上げる。ランプからヴォーネのちんまりとした顔に視線が移ると、彼女の一対の瞳とバッチリと目が合った。

「どうした?」

「な、なんで呼ばれたのかなー……と」

 バルパが話しかけようとしていただけで肩を震わせていた少女と同一人物だとは思えない口ぶりだった。どもってはいるが、どうやら彼女もまた三ヶ月の間に心境の変化があったらしい。なんにせよ話せるようになったのならそれは間違いなく良いことである、彼がヴォーネに顔を向けても彼女は視線を反らさない……と思ったらわりとすぐに顔を横へ向けた。どうやらまともに会話を続けられるようになるのはまだまだ先のことらしい。

「ウィリス」

「何よ」

「最近どうだ?」

「何それ、わけわかんない」

 ウィリスの格好は全体的に緑色だ。

 バルパとしても彼女とほとんど話をしたことなどないのだからどうしても話題は抽象的にならざるを得ないのだが、彼女はそれが不満なようだった。だがそもそも下手な石ころよりも話題提供能力のないバルパの口から出てくる話題など片手で数えようとしても指があまってしまうほどのものしかない。彼はなんとか話をひり出そうと頑張ってみることにした。

「最近、うまい物は食えているか?」

「…………ええ、まぁ、それなりには」

「そうか」

「うん」

 食事というのは不思議なもので、どこで食うか、誰と食うか、何を食うか、どうやって食うかによって味も感じ方も大きく変わってしまう。食事を美味しく食べられるということはそれだけで、その者の幸福度を一定数測る指標になる。食おうとも食事が喉を通らない時には心にも何かが詰まっていて、大してうまくもないものを美味しく感じられる時は、周囲の景色が一段階も二段階も綺麗に見えるものなのだ。

 食事を美味しく食べられているということは、とりあえず健やかな証だろう。

 バルパはとりあえずウィリスが元気らしいことがわかったので、納得して次に進むことにした。

「レイ」

「はい、なんでしょう」 

「え、私との話もう終わりなの?」

「なんだ、話がしたいならそう言え。そういうことは言われないとわからないんだ」

「話がしたいわけないでしょ、ただ尋問があっさり終わったなって思っただけ……ひぎぃっ‼」

 ウィリスの背中に後ろ手を回しているレイが何かをしたようで、ウィリスが死に際の魔物のような声をあげながら飛び上がった。半泣きでベソをかく彼女の様子は相変わらず大人なのかガキなのかよくわからない。ごめんなさいと謝りながら臀部を擦っていたので、多分思いきり尻でもつねられたのだろう。ニコニコと笑いながら空いている左手で自分の頬を押さえているレイを見て、バルパは彼女には逆らわないようにしようと思った。これではどっちが主なのかわからないが、そういう関係があっても良いだろう。

「レイ、最近どうだ?」

「ぼちぼちでしょうか」

「そうか、悪くないならそれで良い」

「はい、皆さん優しくしてくださりますから」

 レイの格好は真っ白な上下一体の服だ。体のラインを隠すようなゆったりとした服は、顔と手先足先以外のほとんど全てを覆っている。背中にある羽を隠すためか、大きなマントが背中についている。あの腕輪は服の形状までは誤魔化せないため、やはりどこか不自然さのようなものは残っている。これではまともに服を選ぶことも出来なそうだ。鎧が着れないのはさぞ辛いことだろうとバルパは少しだけ彼女のことが気の毒になった。

 だがよくよく考えてみれば、もうここまで来てその翼を隠す必要もないように思える。

「三人とも、そろそろ腕輪を外しても良いんじゃないか?」

「あ、それは確かにそうですね。ついうっかり」

 レイに腕輪を回収してもらい、とりあえずの要件を済ませてしまうことにした。

 彼女達に関してはルルやミーナと違い、しなければならない話というものが存在する。

「とりあえず、お前達の知っている魔物の領域のマップを教えてくれ。このままだとしらみ潰しに土地土地を回って行くことになるからな」

 ガクッと体を倒しそうになるヴォーネは、なんとか足を踏ん張ってこらえた。

「の、ノープランだったんですかぁ⁉ あれだけカッコつけておいて⁉」

 初めて聞く彼女の叫び声を聞き、案外大きな声も出せるのだなと感心するバルパ。

 彼女の指摘の通り、バルパは魔物の領域について実は何一つ知らないのである。

 だからまずはそこに住んでいた彼女達から色々と聞いてみないことには話が始まらないのだ。

 レイに説明を頼みながら、バルパは腕を組み話を聞く体勢を整えた。

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