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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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ルルの憂鬱 3

「聞きたいか、なぁ聞きたいかルルなんとかかんとか」

「覚える気がないなら最初から呼ばないでください」

 ルルの内心は疑問でいっぱいである。スースに言われた場所へやって来てミーナがいるということは、即ち今この場所で二人で会っているということが彼女の目的であるということ。

(まさか……かつがれた?)

 彼女がスースに泣かされたことをチクり、意趣返しでもしようとしているのだろうか。だとしたら質が悪い。ルルはどうすべきか悩んだが、このまま彼女と顔を合わせたくもなかったので待ち合わせをしていた飯店を出ようとする。

 奴隷の少女達四人がたまっている場所に近い入り口の扉を開こうと歩き出すと、そんなルルの思惑などお見通しだとでも言わんばかりにスースが颯爽と部屋に入ってくる。

「どういうことでしょうか? 私は少なくともあそこの小判鮫と何かをするつもりはないのですが。たとえあなたに師事するとしても、私は彼女を姉弟子と認める気はありません」

「まぁ待ちな。短気は損気、急いてはことを仕損じるって言うじゃないか。なんのためにわざわざ御飯処で約束したと思ってるんだい、良いからまずは食べるよ」

 スースが二回ほど拍手をすると、部屋の中へ二人の給次が入ってきた。両手に大皿を抱えている二人は、中心に置かれている丸テーブルに料理を並べ再び部屋を出ていく。

 恐らく煮込み料理なのだろうと思われる妙に赤い肉料理を見て、それから黙ってテーブルに座るスースと奴隷娘を見てルルは席へ座った。ここですべてを放り出して店を出るというのは流石に礼を失している。それがわかっていたから彼女はそれ以上文句は言わず、しかし決してミーナの方は見ずに料理が運ばれるのを淡々と見つめていた。

 湯気をあげている料理の数々を見て少し空腹を感じるが、そもそもの状況がよく飲み込めていないのだからご飯を暢気に食べている場合ではない。

 スースがミーナを連れてこようと思ったのはまだわかる。もし弟子入りすることになれば姉弟子になるわけだし、それなら顔合わせをさせようと考えるのは自然なことだ。 

 問題は数日前にあれだけ散々言われボロ泣きしていたミーナが未だにのうのうとした顔で自分の前に立っていることだった。彼女の視線は料理に釘付けで、自分のことなど視野に入っていないように見える。

 特に誰からというわけもなく、自分用の取り皿を使い料理を分けていく奴隷娘とミーナ。ルルがスースの方に訝しげな視線をやると、いつも豪放磊落で通っているとは思えないような苦笑をスースがこぼした。

「そんな睨むんじゃないよ、言われなくても話してやるからさ」

「……わかりました。ご飯は温かいうちに食べないと美味しくないですから、一時休戦です」

 ルルは凄い勢いで料理を流し込み続けている奴隷の少女を見てから、そっと控えめに自分の分をとった。

 あんなに食べたらブクブクになってしまうだろうに、と室内にもかかわらずフード付きのローブを着ている少女の方を見る。ローブの下にも何枚か服が着込んであって、まるで皮膚を見られないようにしているみたいだ。

 この子にもバルパさんみたいな事情があるのかもしれない。ルルはバルパバルパと突っ走り奴隷の少女達の方を省みようともしなかったことを、ちょっとだけ反省しながら食事を口に運んだ。


「あんたの言いたいこともわかるよ、ルル。実際問題私があんたの立場だったら彼女のことぶん殴ってるだろうしね」

「ぶ、ぶん殴……」

「ええ、私としても本当は泣きっ面を叩いてあげたかったんですが、泣き顔があまりにも無様だったもので」

「むっ」

 罵り合いに発展しそうな雰囲気の二人をスースがやんわりと嗜めた。二人は口をつぐみ、彼女の方をじっと見た。

「でもねルル、結果を見てごらんよ。指名手配犯だった男が街のちょっとした有名人にクラスチェンジしたんだ。この結果は悪いもんじゃないんじゃないか?」

「そ、それは……結果論じゃないですか」

 確かに当初自分が心配していたバルパに関する諸々は、結果だけ見れば解決してしまっている。

 もう勇者の死体がないのなら徒に狙われる可能性も下がるだろうし、下手に竜の尾を踏めばヴァンスの機嫌を損なうとなれば早々手を出すこともあるまい。

 確かに結果だけを考えれば、ミーナが取った行動自体は最上ではあるのだ。非常に認めたくないことではあるし、バルパが死ぬかもしれないようなことを平気でやるのは正気だとは思えない。しかし現在だけを見れば、誠に遺憾ではあるが彼女の行為は成功を収めたと認めざるを得なかった。

「世の中結果が全てだ、違うかい?」

「概ね正しいと思います」

「そうかい、じゃあミーナのしたことが正しかったって認めても良いんじゃないのか? 皆平和に生きていられているんだから」

「今はそうかもしれません、ですが未来はわかりません」

 もし彼女がまた今回のようなポカをすれば、今度は本当にバルパさんが死んでしまうかもしれない。そう考えるのは怖かったが、しかし考えずにはいられなかった。身内に何を仕出かすかわからない人間をおいていては碌なことにならないだろう。

「もうバカなことはしないさ、だろうミーナ?」

「は、はいっ!! もちろんですっ‼」

「口では何とでも言えますよね?」

「ぐっ、口だけ達者なもんだからって……」

「どんだけ仲悪いんだいあんた達……もう二人とも黙ってな。私が会話を振るから」

 奴隷娘の一人、最初から最後まで同じペースでご飯を食べ続けていた異常な大食漢の少女が残った肉とご飯粒を丹念に取って口に運んでいる。あれだけ食べてお腹が膨らんでいるように見えないというのは、ある種異様な光景だった。

 残りの三人、天使族とエルフとドワーフはルルが部屋に入ってきたときから黙ったままだ。そのためどういう性格なのかはわからないが、恐らくバルパの側にいるということは世間一般における普通とはズレているだろう。そんななんの確証もない予想を抱くルルは、横からやって来た声で我に返る。

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