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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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亜竜 2

 殴打、拳打、打突、掌底、張り手。指を立てて殴り、人差し指と中指を顔の皮膚に突き刺し、蹴りで相手の重心を無理矢理に崩す。バルパは再び距離を取り一息ついてから相手が体制を整える前にラッシュを再開する。

 戦闘開始が数分が経過したところで、バルパは自分の近接戦闘能力の向上を改めて実感していた。比較対象がエレメントとネームドなせいで正確な測定が出来ているわけではないが、自分の被弾がゼロで相手の被弾は数えるのもバカらしいほどの数となれば曖昧な感覚も流石に実感へと変わる。

 纏武の起動時間は約五分、そろそろ一度目の魔力が切れる頃だ。最後に一撃をかましてやろう、バルパは宙に浮かぶために上に駆けていた足の爪先をドラゴンへと向け大きく振りかぶった。

 ドラゴンは小刻みな連打を鬱陶しいと感じたのか、尻尾をしならせながら自分の尻の位置にいるバルパを迎撃した。攻撃動作を中断する際に小さく舌打ちをしてから、前方へ二歩移動して攻撃を避ける。大きく空いた距離から尻尾が空振るのを確認し、一歩下がって再び距離を詰めてから尻尾に軽い右ストレートを当てた。

 怯むドラゴンに更に踏み込み、未だ穴の空く気配のない翼膜に渾身の突きを叩き込む。親指を曲げ、残り四本の指を突き立てるとほんの少しだけ膜が裂け、手と翼の隙間から向こう側の青空が見えた。体当たりで距離を開けようとするドラゴンの攻撃を食らう前にすかさず下方向へ駆ける、ドラゴンが自分の体で見えないであろう位置までかけてから今度は下半身にアッパー、それが有効打であったかどうかを確認する前に即座に距離を取ると、先ほどまでバルパがいたところに白色のブレス攻撃が届く。ドラゴンの周囲に土の槍が無数に浮かんでいくのを見ながら、バルパは急いで地面を目指す。

 着地と同時、バルパの纏武神鳴が切れた。そしてすかさず纏武神鳴を再起動、火力不足ではあるが安全に殴り倒すには今は雷属性が最適なはずだ。

 バルパが息を整え、迎撃の準備を整えると同時、ドラゴンが竜言語魔法を発動させる。

 規模こそ小さいが、合計で五十近くの土槍が宙へ浮かびバルパと地面目掛けて切っ先を向けている。バルパ単体に向いていないことから考えるとレッドカーディナルドラゴンのような誘導機能はないはずだ、となればあの数の多さは確実に攻撃を当てるための面の攻撃だと判断するのが妥当だろう。

 バルパの推測を裏付けるように、同時多発的に五十本の槍の全てが一斉に地面とバルパを突き立てんと勢い良く向かってくる。

 強化した視力と戦闘勘から自分に当たる土槍の数自体は五本前後であることを確認。まばらに広範囲に放たれている攻撃は普段ならステップを踏んで避けるのだが、今の距離感が半ばほど狂っている状態ではそれも難しい。もしかしたら自分が高い機動力を活かしきれていないことを見抜かれたが故のこの竜言語魔法なのだろうか、だとすれば亜竜の癖にやるではないか。バルパは下手に動くことはせず、じっと自分へ降り注ぐ槍を見つめた。

 五本と思っていたが当たるのは六本だった。うち三本は体を貫く直撃コース、そして残りの三本は切り傷を残す程度のニアミスコース。三本に正確に拳打を当てそのまま直進、小さく開いた翼膜の穴をこじあけ竜を無理矢理地面に落としてやろう。バルパは余裕のある笑みをニヤリと浮かべ一本目の槍が迫ってくるのに合わせ左手を小さく後ろに下げる。

 一本目の槍の真ん中あたりを打ち抜く、すると打撃点を中心にして真っ二つに折れた。折れた一本の軌道上に無理矢理体を滑り込ませて無理矢理前方へ走る、ほとんどタイムロスのない状態で自分の軌道上にあるのは残り二本。バルパは腕をクロスさせて前に出し、少し角度を付けて土槍の攻撃を受けた。突き刺さろうとする槍に下から潜り込ませた腕を当て、切っ先の方向を上へ逸らす。バルパの命を奪うべく放たれた槍は、腕の肉を削いでからそのまま彼の顔のはるか上へ飛んでいく。

 その軌跡を見ることもないまま前へと駆けるバルパ、竜言語魔法を抜けた今、自分と相手を隔てるものは何一つない。彼は苦もなくドラゴンに近づいた。近接戦闘では分が悪いと感じたからか、ドラゴンが尻尾と前の爪を使い距離を取らせるような攻撃を仕掛けてくる。

 尻尾の攻撃をスウェーでよけ、爪の攻撃をダッキングで屈んで避け、そこから五歩ほどを迂回するような楕円軌道で駆けながらドラゴンの背後を取る。

 後ろからでも自分が貫き手で空けた穴は良く見えた。バルパは更に二歩前に出てドラゴンの翼に辿り着く。後背を取られたドラゴンが翼をはためかせ更に高度を取ろうとする。バルパは無理矢理右手をこじ開けたに差し込んだ。翼を上から下にバサリと下ろしたドラゴンは翼の自重で穴を拡げてしまう。バルパは右手を強引に右に振って穴を更に拡大させた。

 ドラゴンがバランス感覚を失い落下し始める。バルパは急ぎ地面へ戻り、墜落後の隙を狙おうと踵に力をこめた。

 亜竜は飛ぶことが不可能ならばと滑空の態勢になりバルパのいる場所よりも更に遠くへ着地しようとする。

 着陸を終えとりあえず距離を稼ぐことが出来たと安堵している竜の鼻っ面に踵落としをぶちこんだ。逃げることが出来たということに対する安堵のせいでバルパの機動力を忘れてしまっていた亜竜は予想だにしない攻撃を受けたことで態勢を整えることすらままならない。そして翼をはためかそうとも、片翼をもがれた今の状態では空を飛ぶことは出来ない。

 バルパは距離を開くための唯一の手段を失い、地に墜ちた亜竜に向かって果敢に攻め立てた。

 一撃、二撃、そして三撃。攻撃を食らったと思えばその瞬間に次弾を受けている。避けようにも速度に差があるために回避軌道を取るための態勢変更の際に攻撃を受ける。

 竜言語魔法を使うための精神集中は小刻みなジャブで潰す。手数で圧倒し相手に対処するだけの時間を与えない。

 バルパは一心不乱に亜竜を殴り続けた。

 一分経つと亜竜の鳴き声は怒りの色に染まり、五分が経過すると声音には嘆きが含まれるようになった。十分が経過するとか細い声をあげるだけになり、十五分が経過したときには既に命を引き取っていた。

「三十分か……少し長いな」 

 大した感慨も抱かぬまま亜竜の死骸を見上げるバルパ。無限収納(インベントリア)にしまいこむ前に小さく手を合わせ、命と戦いへの感謝を捧げる。

 恨むなとは言わん。だがどうせ恨むのなら、自分の弱さを恨め。

 それ以上何を考えることでもなく、バルパは死骸を無限収納にしまった。

 今回の戦闘でした程度の負傷なら体を動かすのに支障はない。

 まずは十分を切ることを目標にでもしようか。他の属性の纏武を試す必要もあるし、属性違いの纏武の動きの誤差の修整や使い心地についても考える必要がある。

 まだまだ先は長いぞ、と普通なら気の滅入りそうな言葉を内心で独白しながらも彼の顔は笑顔だった。

 強くなれることの、強さを実感することのなんと楽しいことか。勝利の美酒に酔いながら、バルパは新たな獲物を探す。

 彼にとり亜竜は最早鬱陶しい存在ではなく、自らを高みへ上らせてくれるための経験値だった。常に謙虚に傲らぬようにと心がけているバルパは、今回ばかりは少しくらい浮かれても構わないだろうと気分を浮わつかせたまま足を動かした。

 新たな亜竜目掛けて向かうバルパの足取りは、まるで羽でも生えたかのように軽快だった。

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[気になる点] 誤字報告 戦闘開始【が】数分が経過したところで、 ↓ 戦闘開始【から】数分が経過したところで、 バルパは無理矢理右手をこじ開けたに差し込んだ。 ↓ バルパは無理矢理右手をこじ開けた…
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