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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第一章 狩る者と狩られる者
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再びの邂逅

 魔撃の使い勝手の違いはかなり大きいと感じたゴブリンは扱いにくいものを使い続けるか悩みながらも、一応は全ての属性の魔法を使って練習を重ねていた。その相手は第三階層のリザードマン、一つ上にいるゴブリンよりもタフで、手加減した魔撃ならば一撃は耐えてくれることが彼にはありがたかった。

 相手に虐殺めいた魔撃連打を叩き込み続けていたゴブリンは今氷の槍で相手を貫き戦闘に一段落をつけたところである。

 辺りには様々な状態の死体が散乱している。焼け焦げ炭化している者もいれば体をズタズタに引き裂かれている者もいる。惨状を作り出したゴブリンの顔色は優れない様子である。

 火魔法と風魔法、それから雷魔法。これらの使い勝手は抜群だった、ともすればこの三つだけを練習すれば良いのではないかと感じてしまうほどに。

 魔力を放出させる際のイメージさえしっかりとさせていれば形は弄れるし、この三つに関しては威力とスピードが自分の満足出来る水準にある。どの魔法でも魔力を追加でこめれば速度の増強は可能ではあったが、一刻一秒を争うような事態ではわざわざ魔撃に調整をするだけの余裕はないだろう。故に元から速度と威力を両立させているこれらにゴブリンは既に絶対の信頼を置いていた。

 一方で扱いにくいと感じているのは水、土、木、氷、光、闇の六つだ。

 まず水と土と木と氷、これらは単純に放出から発動までのラグが大きかった。火、風、雷は放出の瞬間に変質し攻撃へと転じるのに対しこれらの四つは放出、変質、物質化ののちに攻撃とワンクッションを置いてしまうために使い勝手が悪い。その分威力は先の三つより高めであり、実際に存在するこれらの物質を操ることが出来るという利点もあったが、魔力をこめれば威力を上げられる点で最初から速度のある前者の方が有用なのは明らかであった。

 そして光と闇、これはまた先に述べた二つとは毛色の違うものだった。光の魔撃を使うと文字通りの光が出る、とても眩しい。そしてそれで終わりである。目眩ましとして使ったり、長時間光らせ続ければ視界を奪うことは出来る。袋から光を防ぐものと念じ出てきた覆面を被れば眩しさを軽減することが出来るため一方的に動けるというアドバンテージを得ることが出来るという点では場合によっては有効な手段となるだろう。敵から逃げるために背を向ける時などにも力を発揮するに違いない。

 そして闇の魔撃、これは魔力の放出された部分が黒く染まるという光の魔撃の黒い靄バージョンと言い換えることが出来た。黒い靄は極めて見通しが悪く、その先に何があってもわからないほどに黒い。自分の身を暗いところに隠したりする分には使えるだろうし、自分の前に出せば攻撃の直前まで相手に自分の手を隠すことが出来る。

 光を行動阻害とするなら闇は行動の隠蔽と言えた。どちらも直接の攻撃能力はなかったが、補助的な使い方をするのならその使い道はあるように思える。

 だがこの能力は自分より格上に使ったり、集団を相手取ったりする時くらいしか使いどころがないためにリザードマン相手の組手では練習することを意識しない限り使おうとは思えなかった。ちなみに戯れに体に光や闇を纏わせてみたりもしたが体の変調は見られず、身体能力が向上することもなかった。


 全部を満遍なく使うのは得策ではないかもしれないとゴブリンは再び第四階層への階段に腰掛け肉を頬張りながら考えていた。

 ミーナの話では魔法というものは使えば使うほど上達し効率が良くなるものなのだという。体に魔力を循環させる工程も早くなるし、魔力の放出、変質の過程も習熟に連れて早くなる。彼自身自分の体に魔力が巡っていくスピードが上がっていくのは自覚していたため、その話は頷けた。最初の頃は魔力を回す度に全身からうだるような熱が発されるように感じられたが、今では魔力を手のひらの中で回転させる段になってもそこまでの痛みや熱さは感じていない。

 魔力の放出、そして変質は各属性ごとに異なるためにイマイチ上達を感じることは出来ていなかったがこれらは練習をしていくうちに伸びていくのだろう。そしていち早く習熟していくためにはどれかに搾って練習をした方が良いというのはなんとなく理解できた。すべてを上手くやろうとして器用貧乏になってしまっては元も子もない。

 ならば性質が似ているものは弾くべきだろう。光と闇はオンリーワンであり、トリッキーではあるが有用でもあるために外すという選択肢はない。

 まず火と雷と風の有用な三つについてだ。これはすぐに答えが出た、風を外すべきだ。緑砲女王の存在があるためである。あれならば細かい制御が出来なくとも魔力をぶちこめばカウンターの形で風魔法を放ってくれる。極論魔力をこめるのは戦闘の最中でなくとも構わないのだからわざわざ風の魔法の練習をするよりも残る二つを練習した方が良い。

 そして水、土、氷、木だ。少し悩んで、結局土を選ぶことに決定した。それはダンジョンの性質にその理由がある。洞窟の側壁は岩だが、足が踏みしめているのは間違いなく地面である。土の魔撃から実際に地面を操り利用することが出来る。土の槍を固めるにも土の壁を作るのにもかなりの魔力の節約が見込める。なのでとりあえずは土を使おう。

 もし水場の階層に出たり、一面が氷だったりしたらまたその時に考えれば良いし、時々は選んだ魔法以外も使うべきだろう。深く考えているようで割りといきあたりばったりなゴブリンは、とりあえずの魔法の優先順位を決めてから第四階層へと足を踏み入れた。

 第四階層もまた第三階層とあまり代わり映えのしない場所だった。側壁はつるつるとした岩、足元には地面、空気はどことなくカビ臭く湿っている。

 魔力感知を発動させる、近くにあったいくつかの反応のうち単体で行動している個体のもとへ走る。視力強化で見える位置にまで近づいてからその姿を観察した。

 その上半身は人間そのものだった、性別は女性で薄衣一つつけていないために乳頭が丸見えになっている。それを見て何故かゴブリンはミーナの裸の姿を思い浮かべた。

 上半身の造りはミーナと変わらないが、下半身は異形そのものだ。肌色の腹部はへそをくだった辺りで緑と黒の斑模様へと変わり、どっしりと大地を踏みしめる二本足の代わりにわさわさと忙しなく動く十本の小さな足がある。

 上半身は人間、下半身は蜘蛛というモンスターであるアラクネはその尖った足で器用にその場を旋回していた。注意が後ろに逸れた瞬間に走り出す、そして接敵する前に雷の右手をアラクネへと突き出した。向けた掌から紫電が走りアラクネの胸を強かに打つ、十分な威力をこめて放たれたそれはアラクネの肌を焼いた。肌は赤く腫れ、みみずがのたくったようになっており白目を剥いたままピクピクと痙攣している。

 アラクネが意識を取り戻す前に首を刈り取ってから下半身の蜘蛛の足に剣を突き入れる、抵抗もなくスルリと刃が奥へ入った。

 魔法の威力も、そして剣の通りもリザードマンと大差はない。鱗の部分が纖毛のようなふさふさに変わっているために近接攻撃の耐性はリザードマン以下かもしれない。

 特に問題はなさそうだと感じたゴブリンは魔力感知を駆使しながら次は二匹のグループを、その次は三匹の群れをと戦う相手の数を徐々に増やしていった。

 七匹の群れを殲滅するまでに彼女らの攻撃のパターンは大体把握できた。

 まず尖った足による刺突、これは手数が多いために完全に回避することは難しい。相手もこちらの動きに応じて足を放射状に出す等の工夫をしてくるために基本的には盾によるガードが必須だった。一撃の威力はリザードマンの殴打ほどであるため直撃をしても即死する確率は低いと思われる。

 次に糸を吐く攻撃がある。これをする際、アラクネは地面をかけあがり側壁か天井へとへばりついてから背中を向け尻から糸を出す。そのスピードは彼女らの移動速度ほどだが、糸の粘着性はかなり高かった。盾についた糸を剥がそうとするのは中々に難しかったが、死ねば糸の粘着性は消えるためにさほど問題とはならなかった。火の魔撃で焼くことが出来るとわかってはサクサクと進めることも可能であり、攻略の難易度はそれほど高くはなかった。魔撃で数体を処理し、近づいてからは盾を構えて魔撃を打ち込み続けるか糸を敢えて喰らって敵に引き寄せてもらいそのまま剣で斬り殺せば攻撃をもらうこともない。

 魔撃を色々と試しながら名も無きゴブリンは先へと進んでいく。

 第五階層にいるのはゴブリンだった。だが自分が元居た第二階層と違い粗末ではあるが鉄製の武器をもっており、後方でローブを被るゴブリンは火の魔撃を撃ってきた。

 名も無きゴブリンは火の魔撃を全方位に広げて発動させ群れを焼ききることで対処した。噴水のように広がる炎は火の玉と比べれば威力は劣ったが、それでもゴブリン達を屠るのは十分な威力があった。

 問題なく探索を終え第六階層への階段を見つけたゴブリンに問題が起こった。

 今までは偶然にも会っていなかった人間が、第五、第六階層を繋ぐ階段で休憩をしていたからである。

 第四、第五階層共にいまいち消化不良な感があった彼は木の上に壁に殴打で穴を開けて天井近くへ体を固定させてから遠くにいる人間達を覗きこんだ。

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