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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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ステップアップ

 魔撃を使い魔力吸収を行う訓練はしていたのだが、やはり世の中というものはそこまで甘くはないようで魔力感知に関しては機能の変化を感じとることは出来なかった。

 取り敢えずある程度の魔力を使い発動させれば、あたりにいる魔物の反応を確認できた。問題なく発動が可能である程度には習熟を続けたつもりではあったが、何か不足の事態が起こらないとも限らないためになるべく他の魔物と距離を空けており、かつ一体でうろついている魔物の反応を探し、そして急いで駆けていく。戦闘時間がそれほど長くなるとは思えないが、魔力吸収の効果の持続時間自体は一回につき五分ほどであり、再発動には再び時間がかかってしまうために体内に魔力を取り込むことはやめておいた。

 

 バルパのお眼鏡に叶った反応のもとへ行くと、そこでとある魔物がゆっくりと腹を引き摺って動いていた。

 下半身は緑色の蛇のようで上半身はリザードマンのような蜥蜴人間となっている魔物の孤蛇独蜥蜴ウェイタンがそこにいた、体から常に流れ出している毒液と繰り出される爪による麻痺攻撃を特徴とするモンスターだ。継ぎ目のないほどに鱗の敷き詰められたその体にはぬらぬらと毒液が光っており、上半身になっている青色の人型の部分は死んでいるかのように微動だにしていない。それに対して下半身が忙しなく動き回っているのが妙に不快感をそそる。蛇の肉体を持ってこそいるが、その感知能力は蛇類の魔物ほど高くはない。お互いを視認出来る位置になっても、孤蛇独蜥蜴はバルパに気づく様子はなかった。

 わざわざ出ていってから魔力吸収を行うのもなんだか間抜けな気がしたので攻撃の意志を固めると同時に魔力を放出させ、そのまま吸収する。

 殴打のような音が全身から発され、バルパの肉体を紫電が覆い尽くす。この段階で蜥蜴がバルパの存在に気づき、死んでいるかのように動いていなかった上体を物理構造上不可能なほどに曲げバルパを俾倪する。

 バルパは一歩を踏み出した、それと同時に本来の五歩分ほどの距離が詰められる。しかしバルパはペースを落とさずに進む、一歩一歩を本来の走行速度と同じ間隔で踏み出すのだから、その速度自体がほとんど五倍になっている。明確に測ったことがあるわけではないが、身体強化の魔撃を足に使っている時よりもよほど早いのは明らかだった。その足取りにもたついた所は無く、そのあまりの接敵の早さから面食らっている蜥蜴にグングンと近づいていく。

 彼自身、未だ魔撃吸収状態のスペックを完璧に使いこなせてはいないことはわかっていた。だからバルパは一歩足を前に出す度に視力を強化し、視界の変化から大体の移動距離を概算して先へ先へと進んでいるのだ。

 正直なところまともに制御できているようには見えても現状でかなり手一杯な状態であり、脚部に魔力を集中させ魔撃吸収状態と身体強化を合わせて使い相乗効果を狙いに行くことはまだ到底出来そうになかった。

 だが少なくともドラゴン以外の海よりも深い溝の魔物ならばこれでも十分に戦えるだろう。更に練習を重ねれば、身体強化を併用せずともかなり良いところまでは行くのではないかとバルパは睨んでいた。 

 全力疾走を肉体の性能を底上げした状態で行うと、明らかに相手の魔物の反応速度を上回っているのがわかった。バルパに視線を固定させようとしている蜥蜴の目が右往左往している状態が視力を強化しているバルパにははっきりと見えている。バルパが先ほどまで居た場所を面白いように注視している蜥蜴の姿を見て自分の速度が上がっていることを客観的に確認出来た。それならば次は攻撃力の確認である。

 バルパは現在手袋を外し素手になっている。魔法や魔撃に対する抵抗が相当に高い腕輪に関しては外さずとも問題はなかったのだが、いくら魔法の品の手袋とはいえ魔力の暴発を食らえば問題だろうと外したままだったからである。

 一度着け直してから殴ろうかとも思ったが、ある程度は状態以上への抵抗もある以上一度攻撃を食らってみるのもアリだろうと直に殴ってみることにする。

 孤蛇独蜥蜴の眼前まで迫ってから大きく右に動く、すると蜥蜴の背後をとるような位置取りになった。そのまま反転することなく裏拳の要領で相手に攻撃を叩き込みながら後ろを振り向く。こういう方法である程度の調節をしないとまともな方向転換も出来ないという点はやはり改善の余地があると思えた。

 一撃を攻撃のやってきた方向を理解する間もなく受けた蜥蜴が後方へ吹っ飛ぶ、バルパは更に前に出た。すると魔物が後方の木に激突する前にその衝突地点に移動した。

 バルパは履き替えていたスレイブニルの靴を起動、空を蹴り何度も方向転換を重ねながら無理矢理飛んでくる魔物の背中に一撃を叩き込めるように態勢を整える。

 空中移動が上手く出来なかったせいで結果として頭を下にした状態で魔物が背中を向けて目の前にやって来た。再び空を蹴り右足を振り抜いて蹴撃を加えると、今度は先ほどに倍する速度で蜥蜴が元いた方向へ向かって飛んでいく。今度は流石に追い付けそうにない速度が出ていたために静観に徹することにした。

 強化した視力でなすがまま攻撃を受けていた魔物を見ると、どうやら既に意識はないようだった。打撃を受けた場所が黒ずんでいるのは、恐らく帯電状態の自分の一撃を受けたからだろう。純粋な打撃力の強化、速度上昇以外にも利点があるのだなと新たな事実に気づくバルパ。どうやらこの技術は純粋に能力を強化するというよりかは、自分の体を魔撃に近づけるようなものなのかもしれない。

 ブスブスと黒煙を吐き出す患部を曝しながら息絶えている蜥蜴を無限収納に入れながら、彼はそんなことを思った。

 どうやらここの魔物相手では明らかにオーバースペックなのは間違いなさそうだが、流石にもう少し慣らしてからでないとドラゴンを相手取ろうとは思えなかった。

 バルパは魔力感知を使い、今度は二体の魔物の反応を探した。これを三体、四体と続けていき厳しくなってきた数の群れを相手取って行こう。それに慣れてきたら数を更に増やして行けば良い、ミーナと一緒に迷宮に潜った時に使っていたやり方だ。どんどんと自分に厳しい状況へと持っていき、もう良いと思えるようになるまで続ければ良い。

 しばらくはそのやり方で行こうと心に決め、バルパは互いに寄り添っている番とおぼしき魔物目掛けて高速で走っていった。

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