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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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魔力吸収

「もぐ……何度かに分けて発動するような魔撃を使えないか?」  

 バルパは一度に体に入れることが不可能なら分割して入れてしまえば済むのではないかと閃いた、その着想のもとは現在進行形で行っている食事である。バルパは肉を一息に口に流し込むことはせずに何度も咀嚼してから飲み込んでいる、飲み込むことと吸収は何かを体内に入れるという点で似ているし、同様にやれば成功するのではないだろうか。

 魔力を留めることが可能であることはわかっている、そして数個程度なら同時に同属性の攻撃を一つの魔撃として放てることもわかっている。

 ならばそれらを合わせて十の威力の魔撃を二ずつ使い、残りを残していくような形で徐々に体に流していくことは出来ないだろうか。いや、出来ると彼は自分に言い聞かせる。魔撃に関しては出来るという確信を持って挑んだ方が成功率は高いはずだ。

 先ほど鎧が傷むことはなかったが、もしかしたらということがあるかもしれないので一通りの武器をしまい、布の服だけを纏った状態へと着替え、人の幻影を映す腕輪は左手に着け直した。

 バルパは成功の確信を抱きながら、体へゆっくりと魔力を循環させ始める。そのペースは相変わらず遅いが、心なしか先ほどまでよりは速くなっているような気もする。

  循環を終え、放出、そしてその寸前で寸止めをする。そこで十の魔力を二と八に分ける様を強くイメージする、すると腕の中で魔力の塊が二つに別れた。前側で別れた小さな魔力をほんの少し先行させながら指先へと向かわせる。後ろで滞留してから少し遅れて来ている魔力より少しだけ早く、前の魔力の放出の瞬間がやって来る。

 小さくなったそれを放出、そしてそれと同時に変質させる。イメージは小さな雷の壁、自分の腿あたりまでしかないような小さな小さな複数の雷壁だ。

 出現するという感覚がやって来る前にそれを無理矢理引っ込める。鋭利な枝を突き立てられたかのような痛みがやって来たが耐えられないほどではない。

 その雷の魔力が全身を巡るのと行き違うようにして残りの魔力が雷の壁となるために放出され、変質していく。そちら側は吸収を行おうとせず、一気に魔撃として放った。

 残りの魔力が五つの魔撃へと変わるのを視認しながら、バルパは自分の腕にやって来た雷の魔力が全身へと駆け巡るのを感じている。

 前回の時のように右腕が爆ぜるということもなく、ピリピリとした痛みが至るところに発生している程度だ。これならば十分に我慢できる、わざわざポーションを飲む必要もない。

 内側から来るチリチリとした痛みに伴って、バルパの見た目に変化が生じ始める。

 人間のような肌色に見えている地肌から、紫色の何かがゆっくりと表出しはじめた。それは時折バチリと音を立てて体から離れかけては近づいてを繰り返している。

 まず間違いなくこれは自分の体内で魔力が魔撃へと変わった証左だろう、雷が音を鳴らすのと疾る痛みが連動している。

 最初は右腕に滞留していた雷が全身へ回っていく、先ほど見たヴァンスのそれと同様の現象だ。

 全身に魔力が回りきった時、バルパの体からは痛みが嘘のように引いていた。

 まるで自分体から雷が噴き出している今の状態が自然であるとさえ思えてしまうほどに体にしっくりと来ている。

 次は実際にどれだけ性能が上がっているかを試す番だろう、この魔撃の名付けはその後で良い。

 バルパは前傾姿勢を取り、全力で前に一歩を踏み出した。そして次の瞬間には、先ほど数歩先に見えていたはずの第一階層へ続く階段が目の前に現れる。思わず足を止め、それ以上すすまないように土踏まずに力を入れて踏ん張った。

 後ろを振り返る、地面の足元を確認してみれば一歩しか進んでいないにもかかわらず、足跡と足跡の間に大体五歩分ほどの距離が出来ていた。

 試しにバック走で戻ってみると、今度は四歩分ほど後ろへ下がった。かかった時間は一歩歩く時のそれと同じであり、明らかに速度が上昇している。

 迅雷を使っている時とはまた違う、あれはどちらかと言えば自分の身体能力をギリギリの限界にまで底上げして体を脳の指示の直後に動かす技だ。だがこの雷の技は自分の速度が増幅しており、尚且つ自分自身でそれをしっかりと認識出来ていない。言ってしまえばこちらは自分の反応速度を超えて無理矢理に体を動かしているような感じだ。

 今はまだ何も感じてはいないが、長時間使っていれば体に響くかもしれない。そして本来通りの魔撃を全て吸収すれば出力と引き換えにどんな揺り戻しがあるかわかったものではない。

 今度はジャンプをしようと意識をした、すると次の瞬間には自分二人分よりも高い天井に額をつけるほどに近づいている。次に土を蹴ってみるが、生物相手ではないために威力の上昇はわからなかった。攻撃の出が速くなっているのは明らかなのだが、実際にそれがどれだけの威力を発揮するものなのかわからなければ戦法に組み入れることは難しい。

 だがどうにか魔力吸収に関しての目処は立った。あとは慣れと経験則で徐々に取り込める量を増やして、自分の限界を見極めていけば良い。一度くらいならばどこまで出力を上げられるか試してみるのも良いだろう。

 十分に魔力を取り込めることが出きるようになったなら、次は魔力循環と放出の速度を徐々に上げていく必要があるだろう。そしてある程度実践レベルに使えるとなった段階で、一度ダンジョンを出て海よりも深い溝(ノヴァーシュ)の魔物相手に試してみよう。

 実践を経験し、実力の向上と技術のレベルアップを図ったら、次はいよいよドラゴン相手の喧嘩である。

 魔力吸収の新しい呼び方も考える必要があるし、他の属性の吸収についても考えてみる必要があるだろう。だが想像していたよりもはやく技術の習得をすることが出来た。

 これならばドラゴンワンパンをするのはそう遠い日のことではないかもしれない。

 バルパは意気揚々と自らの肉体と反応との齟齬を修正しはじめた。

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