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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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天啓

「……駄目だったか」

 バルパが意識を覚醒させたのは、気を失ってから数時間が経過してからのことだった。気が付くと同時、彼の右腕に鋭い痛みが走る。彼は思わず歯を食い縛り、そして口腔内でコロコロと転がっていたポーションを噛み砕いた。結果として痛みは消えたが、じわじわと回復していくバルパの右腕はそれは酷いものになっていた。雷を食らい焼け焦げているというよりかは内側で何かが弾け飛び、衝撃で肉体が壊れてしまっている。内側で雷へと変わったのならば普通は中がこんがりと焼け内側から体が熱されそうなものだが、どうやら魔撃を取り込んだ時の反応は普通とは異なるらしい。

 雷魔法でこれならば、もしより温度が高くなるはずの火魔法ならどうなっただろうか。そう考えて背筋に寒気が走り、彼は自分が最初に雷属性を選んだ幸運に感謝してから再生していく腕を見つめていた。

 やはりしばらくの間は他の属性で試さず雷で試してみるのが良いだろう。火なら焼け焦げないか心配になるし、水や土などの物として残る魔撃だと体内に異物が混じり死んでしまうかもしれない。風だと全身がズタズタになって後遺症が酷そうだし、光と闇だとどうなるかまったく想像がつかない。

 雷ならば死ぬのではないかという痛みで済むし、一度試して事実自分は死んでいない。ここは下手に欲目を出さず、しっかりと雷属性で練習をしようとバルパは決めた。

 痛みが大分引いてきたために立ち上がり、関節を鳴らしながら体の調子を確かめる。試しに小走りになったり、地面を蹴り上げたりもしてみたが大きな変化はなさそうだ。どうやら今の暴発紛いのやり方では成功とは言えないらしい。あるいはこの攻撃方法自体それほど長時間続けられるようなものではないというだけかもしれないが、それを確かめる術は今のバルパにはなかった。

 とりあえずもう一度やってみよう、とは流石のバルパも脳筋ではない。今さっき何が起こったのか、そして何がダメだったのか、それを確認する必要がある。

 まず何が起こったのかという問いに関する答えは簡単だ、変質途中の魔力が体内へ入ってから魔撃に変わったというそれだけのことである。そして体内で魔撃が暴発し、バルパの体を内側から焼いたのである。

 何がダメだったのだろうと考えても中々答えは出ない、そこには幾つもの要因が絡まり合っているからだ。

 まず魔力を魔力として留めておくことが出来なかったということ、これの解決策はわからない。

 次に魔撃を体内で炸裂させてしまったこと、どうせなら威力の無い魔撃にすれば被害は軽微で済んだことだろう。

 そして最後に幾らなんでも急激に魔力を体に入れすぎたことだ。発動までの時間を稼ぐために循環と放出の過程を遅くするための特訓をしたのだから、吸収という一番大事な部分でも遅くする努力をして然るべきであった。それをしなかったのは明らかにバルパのミスである、どうやらまだ興奮は収まっていなかったらしい。ついはしゃいで稚気じみた行動をとってしまったを、彼は海よりも深く反省した。

 それから最後に考えるのは、どうすれば上手く使えるようになるかということだった。

 属性を変えるというのはあくまでも最終手段として取っておくだけで済ませ、出来れば痛みが少ないような答えが出せれば理想だ。

 だがバルパは、自分の魔撃を食らい大して魔力をこめてもいなかったその一撃に相当のダメージを食らい気を失うその直前、とある考えを思い付いていた。それは意識を取り戻し、ある程度明晰な考えが出来るようになった今でも中々に良いアイデアだと思えた。

 まず自分の魔撃がほとんど攻撃用であるということ、これがバルパの思考を妨げていたのだ。緑砲女王で防げば炎の壁や土の穴倉など作る必要がなかったからこそその可能性を無意識のうちに排除してしまっていた。

 攻撃用の魔撃以外を体内に取り込めば、自分が食らうことになるダメージはかなり目減りするのではないか? 

 この疑問の答えは試してみればすぐに出るのだから次に考えるのはその先、一番ダメージが少なくなるであろう魔撃についてである。とりあえず攻撃用の魔撃ではなければ良いとすれば、まず思い付くのは防御用の魔撃だ。バルパは雷の壁などという碌に攻撃も防げなさそうなものを実際に作ったことはなかったが、実際に使えるかどうか一応試してみることにした。すると問題なく魔撃は発動し、バルパの身長を超えるほどの雷の壁が生まれた。それを見ながらバルパは更に考えを掘り下げていく。今まで自分は必要に駆られなかったからこのように意味の薄い魔撃を使ってくることはなかった。

 それならば敢えて、もっと意味のない魔撃を使ってみるのはどうだろうか。本当になんの意味もない魔撃なら、体内に入ってもなんら痛痒をもたらさないということも可能なのではないだろうか。幸い自分は魔力が多い、試す機会ならば幾らでも作ることが出来る。

 バルパは魔力に飽かせて様々な雷の魔撃を試してみることにした。

 雷は形状をとり辛いために基本そのまま相手にぶつけるような形で使っていたが、敢えて槍の形にしてから飛ばしてみる。だがこれは殺傷能力が普通に高いので却下。

 次に雷を敢えて球状にしてから地面に投げつけてみる、だが丸くころころとした球体であってもその実体は雷であるために、当たった部分の地面は黒く焼け焦げていた。これも失敗。

 それならばと今度は雷の性質を持たない雷を作ってみることにした。当たっても痺れず、殺傷能力がなく、触れてもなんとなくの感触しか残らないようなものが出来さえすれば、吸収の成功は約束されたようなものだ。

 だが結論から言えばこれは失敗に終わった。雷というものの性質を変えるのは無理か、もしくは今のバルパには出来ないらしい。当たったら冷たさを感じるような雷や、当たると回復するような雷を作ることは出来なかった。

 他にも色々と試してみたが、どれもイマイチパッとしない。色々やってみた結果、一番良いのは最初に試してみた雷の壁だった。

 これ以上の答えはないだろうか、そんな風に思いながら空腹を感じ無限収納からドラゴン肉を取り出すバルパ。

 どれほど気を失い、そして魔撃の実験をしていたかは体感でしかわからないが、空腹の度合いから考えるとかなり経っているように思えた。

 今食べているドラゴンの肉は以前一気に焼いて貯めておいたものだが、それらは元から無限収納に入っているものだった。どうせならそろそろ自分で倒した物だけを食べるようにするべきかもしれないなと考えながら、相変わらずの旨さを誇るタレ付きのドラゴンの串焼き肉を頬張り咀嚼する。

 噛みごたえがあり、噛めば噛むほどに味が染み出してくるこの肉はやはり別格だ。モグモグと噛み、顎の力を鍛えながら食事を楽しみ……そして閃きが彼に舞い降りた。

「……これならいける……か?」

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