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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第一巻2/25発売!!)
第一章 狩る者と狩られる者
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鑑定

 第四階層に入るための階段の外から階段の中を魔力感知することは何故か出来なかった。これは第三階層への階段に入った時と同様だ、あの時も最初はミーナが消えたのかと驚いたのを思い出す。

 感知できないのならば出来るだけリスクは甘受せねばなるまいと仕方なく目を細めギリギリ見えるあたりから階段を窺う、人影は目に見える範囲では一人もいない。そっと階段に向かい足をかける。すると魔力感知が第四階層への階段、そして第四階層自体へと通るようになった。人影はいない、生物の反応はあるがそれは全て階段の外だ。

 階段は安全地帯と呼ばれており、この中に魔物が入ってくることはない。そのため人間はこの中で休憩をとり、再びダンジョン探索を再開する。ミーナから聞いたことを思い出していたゴブリンは階段の真ん中あたりの壁に埋まっている赤い宝石に触れた。特に弾かれたりすることもなく転移水晶はすんなりと彼を受け入れる。

チェック

 今自分がこの階層に印をつけたということが彼には理解できた。何故かと尋ねられても答えられないが、どうしてかわかったのである。理屈や理論を越えるような存在である迷宮というものの大きさを名も無きゴブリンは改めて感じていた。

 空腹を満たすためにアイスワイバーンの肉を取りだした。ミーナがやっていたのと同じように枝を取りだし、火をつける。すると勢い良く燃えすぎ、火の粉が体にかかってしまった。鎧のおかげでダメージはなかったが、魔撃というものはただ強いだけではダメなのだということがわかる。肉を焼くためには威力を抑えて放たなくてはならない。肉を焼く以外にも威力の調節は重要だろう、さっき盾に魔力をこめすぎた時など盾の攻撃が激しすぎてリザードマンが赤色の肉塊になってしまったのだし。

 なんとか肉を焼いたが、火力が高いせいで数多くの枝を消費し、肉は表面が焦げてしまった。だが中にまでしっかりと火が通っていたため特に不具合は感じなかった。

 肉を食べながら脇に置いている緑砲女王の方を見る。この能力は非常に強力だ。盾という防具から出る攻撃という点で相手には奇手になるし、その威力も今の自分の風魔法よりは高い。これはまだ試せていないからわからないが、相手の風魔法を吸収できる可能性もある。応用性も高いし、そもそも盾としての性能も高い。重く若干取り回しに難があるのがネックだが、今の自分の力ならそこまで不自由というわけでもない。

 この魔法の品、いや魔法の品の武具なのだから魔法の武具とでも呼ぶべきか。この魔法の武具は非常に有用だ、だが自分の魔力感知によると普段使っているあのどうみてもボロい剣は盾よりも高い魔力を保有している。だとすればその能力もまた盾よりも高くなるだろう。その能力を理解することはこれからの戦闘で重要になってくるはずだ。

 今使える魔撃の練習のため後回しにしていたが、これは鑑定の魔撃を覚える必要があるな。名も無きゴブリンはミーナが使っていた鑑定の魔法についての説明を思い出す。

 『世界には神様がいて、そいつは物に名前をつけたり物の能力を決めたりする。その神様の物の見方を使えるようにしようってのが鑑定アーブの魔法の究極の目標なんだ』

 神というものがなんなのかは知らないが、それは人間達があがめているものらしい。つまり強い人間ということだ。強い人間の物の見方を真似すると考えればミーナの発言は非常に納得出来るものだった。今の自分がやっているようなことを人間も人間同士で行っているということなのだろう。誰もが強くあろうと努力をしようとするこの世界では至極当然のことだ。そして有用であるならばそれを自分がやらない道理はない。

 鑑定の魔法を模倣することが重要であることは火を見るよりも明らかだった。あれを会得することが出来たなら、未だわかっていないボロ剣や他の魔法の品の性能がわかるようになる。まだ出したことのない数々の物の中には今使っている武具よりも有用である物もあるに違いない。まだ強くなる余地が残っていることにゴブリンの胸は高鳴った。

 自分に学ばせるために鑑定をゆっくりと発動させていたミーナの様子を思い出す。彼女は体に溜めていた魔力を少しずつ上に上げていき、徐々に徐々に瞳へと集めていた。

 とりあえず今自分に出来る範囲で真似をしてみようと腹の奥から魔力を取り出す。どこかからやってきた魔力は腹の中に現れる。自分の体の中であって中ではないどこかから魔力が出ているという説明は彼には理解できなかったが、意識を集中させれば魔力が実際に腹に溜まるということは彼にも理解が出来た。現れた魔力を体内で循環させると一呼吸の間に魔力は彼の全身を駆け巡った。一周し腹に戻ってきた魔力をグッと胸めがけて上げていく。

ここに来るまでにしっかりと練習をしたからか最初の頃よりも遥かにスムーズに魔力を体に通すことが出来るようになっていた。以前よりも少ないロスで体を昇っていく魔力を首のあたりで留め、そのまま停止させる。そのままグルグルと螺旋階段のように回転させながら魔力を瞳へと向かわせていく。回転させながら循環させることで魔力は体に馴染み、濃縮されるようになっていく。瞳までやってくるときには魔力の量は既にかなり減ってしまっていたが、ゴブリンは構わず瞳に魔力を通した。

鋭い鈍痛、とでも言うべき今まで感じたことのない痛みが彼の目の裏側にやってきた。今まで魔力を通したことのなかった眼球は無理矢理魔力をつなげるパスを繋げられたことによる刺激でピクピクと痙攣し始まる。痛みに負けてなるものかと敢えてカッと目を開いたまま耐えていると鋭い痛みは消え、奥の方で燻っている鈍い痛みも徐々に弱まっていった。

これで良いのだろうかと右手に持っているボロ剣を見つめる。するとボロ剣がまるで自分の顔のすぐ近くになるかと錯覚してしまいそうになるほどにはっきりと見えた。

刃渡り全域に広がっている銅色の錆び、灰でも被ったかのようにくすんでいる刀身、そしてギザギザとしているくせに何故か魔物をすっぱりと絶ち切ってしまう刃先。しっかりと観察を続けたが何かがわかる様子は見えない、それどころか気づかぬうちに見え方はいつもと同じように戻ってしまっていた。

どうやら最初の挑戦は失敗に終わったようだった。だが失敗しただけでなく得られた収穫もある。それは更なる強さを得るための可能性だった。

剣が以前よりもはっきりと見えているのはどうやら目に魔力を流したかららしい、つまり魔力には能力を強化する働きがあるのかもしれない。彼の推測は魔力を留めた拳で岩を叩いてみた時に確信に変わった。普段ならびくともせず良くても拳の形にめり込む程度だった岩壁がドッと音を立てて凹んだのだ、彼の拳の面積よりも明らかに大きく。一度三階層へ戻ってからリザードマンを相手取りながら足へ、腕全体へ、そして全身に留めたりと魔力の移動について色々実験を重ねる。その結果、魔力というものには体を強化する働きがあることがわかった。魔力は一ヶ所に留めておくとすぐに霧散してしまうために長時間一ヶ所を強化することは難しいだろうがが、しっかりと練習を重ねた上で全力の一撃を叩き込むインパクトの瞬間に魔力で身体強化をすればその威力は更に向上するだろう。攻撃力の増加は素直に喜ばしかった。そして目、耳鼻も同様に強化することが出来た。ただしこの場合は強度ではなく感覚の強化だ。目に魔力を流し込めばものを以前よりもはっきりと見ることが出来るようになる、耳に魔力を流し込めば遠くの生き物の足音が聞こえる、鼻に魔力を流し込めば臭いについて敏感になる。鼻に関しては今のところ使い方は見つからなかったが、目と耳を瞬間的にでも上昇させることが出来れば以前よりも索敵範囲は広がるのは理解できた。これもまた心強い味方だ、魔力と引き換えに奇襲や接敵を防げるのならば十分な価値がある。

 そんなこんなで新しく身体強化魔法を覚えることに成功した名も無きゴブリンではあったが、鑑定の魔撃を覚えることは結局出来ずじまいだった。

 出来ないことを出来るようにすることよりも以前から出来ることをより出来るように習熟していくことの方が大切だ、そう考えたゴブリンは鑑定の練習をすることを止めミーナに教わり自分なりに消化した魔撃の練習をすることにした。

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