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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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良い悪い

 亜人というものはどうやら奴隷の中でも価値のある物という扱いを受けているらしい。その事を口にするティビーの表情はどこか固い、もしかしたら話すべきではなかったのかもしれない。

「良いですか、まず第一に亜人種は見目麗しい。つまりメチャクチャ美人なので欲しがる人間が多いんです。一応尋ねますが、その二人は美人ですか?」

 バルパはウィリスとヴォーネの顔を思い浮かべる。彼女達とミーナを比べると、ミーナの方が強くてかわいいだろう。世間一般から見ると彼女達は美人になるのだろうか、美人の基準がわからないバルパは黙って首を横に振った。

「少なくとも一人はかわいくないな、もう一人はわからん」

「そうですか、まぁどっちにしろそこまで変わらないのかもしれませんけど不幸中の幸いというやつですね」

「亜人を二人と人間を二人、合わせて四人を俺が連れてくるとどうなる? 国が俺を殺しにくるか?」

 もしそうなるならば今すぐヴァンスに鍛えてもらうしかあるまい、意気込む様子のバルパを見てティビーが焦りの表情を浮かべる。

「そんなことにはならない……と思います、種族次第ではありますが」

 どこまで話してどこまで黙れば良いのだろうか考えてみることにした。ここでエルフとドワーフだと正直に話して何か問題はあるだろうか? ……いや、ないだろう。既にティビーには亜人の奴隷を所持していることを伝えてしまっているから寧ろ話して抱き込んでしまった方が早い。

「エルフとドワーフだ」

「……あちゃあ、一番エグいところ持ってきましたねバルパさん」

 エルフという種族には美人が多い、そのためエルフは基本的に奴隷に落とされると同時オークションにかけられ、貴族に囲われるらしい。そこまで無体なことはされないらしいから、それも選択肢の一つではあるだろう。とりあえず戻ってから彼女に教えてやるべきなのだろうが、どうせ自分が話せばまたわめき出すのがわかっているバルパとしてはあまり気は進まなかった。

 そしてドワーフは、現存する生物の中で唯一魔法の品を作ることが可能な種族であるらしい。だが彼らは拷問を受けても決して口を割らないため、その秘伝はいまだ人間達には伝わっていない。エルフよりドワーフの方がよほど問題だとティビーは言う。

ヴォーネが子供だということは話したのだが、たとえそうであったとしてもあらゆる手を使い情報を引き出そうとするだろうと彼は言った。そんなことをせずともダンジョンに籠れば良いのにと感想を述べると、安全な状態で魔法の品を量産できることのメリットを淡々と解かれた。それは適当に聞き流しつつ、バルパはティビーと奴隷のことについて思いを馳せる。そうだ、彼女達を人間として扱うことは可能だろうかとバルパは腕輪のことを聞いてみることにした。

「彼女達を人間の借財奴隷か何かとして登録することは可能だろうか?」

「バカ言わないで下さい、そんなことしても一発でバレますよ」

「魔法の品で見た目は変えている。ヴァンスでも切り結ばないと気付かないレベルの逸品だ」

「…………それなら、いやでも……すいません、ちょっと考える時間を下さい」

 ミランと何かを話し込んでいる様子のティビーの背中を見て、とりあえず奴隷娘達のことをある程度は考えてくれているらしいとわかり少しだけ気持ちが落ち着いたバルパ。

彼を抱き込み、報告をさせずに時間を稼ぎ、その間にドラゴンをワンパン出来るようになり、魔物の領域に入りこめばなんとかなる。あとはそれが可能になるように工作をするだけだ。魔物の領域に入ってしまえば流石にドラゴンが闊歩しているなどということはないだろうから、そこまで行けば彼女達を放流してしまえば良い。首輪が繋がったままでも、バルパに何かをさせる気がないのだから問題はないだろう。あとの諸問題は彼女達が自力で解決すれば良い。それとあと考えるべきは……

「バルパさん」

「話は終わったか」

「はい」

 ティビーは机から立ち上がり、拳を強く握った。白く変色するその手を、隣にいるミランがそっと両の手のひらで覆う。

「あなたがヴァンスさんの弟子であること、訳アリであること、そしてとても強いこと。全て聞き及んでいます」

 自分のことを知られているといういことは面白くはなかったが、まぁその可能性は十分に考えていたために然程驚きはしなかった。自分に敵対するかもしれない者のことを調べようと思うのは至極当然のことだ。

「この店の未来やあなたの交遊関係や奴隷への態度、それらを全部込みで考えて、私は今ここであなたと敵対することよりも友誼を結ぶことの方が利が大きいと判断しました」

「そうか」

 それならば話は早い。もしティビーが裏切ろうとそうでなかろうと、ヴァンスとスースに話を通しておけば最悪の事態は防げるはずだ。二人と『紅』の四人は街にはいないようではあったが、あの魔力のデカさならバルパが全力で探せば見つかるだろう。恐らくザガ王国騎士団に随行しているはずだし、彼らと合流して帰ってくるまでの時間を稼げれば彼女達の無事は確約されるだろう。

「ですのであなたの悪巧みに、一枚噛もうと思います」

「悪巧み、ではない」

 少なくともバルパにとっては亜人を物として扱おうとする人間達の方が悪だ、だからこそ間違っている言葉は訂正されなければならない。

「誰かを助けようとする気持ちが、悪いことであるはずがないからな」

 だがらこれはさしずめ良いだくみだ、そう言うとティビーが疲れたような笑みを浮かべ頭を掻いた。

「わかってますよ、奴隷制度が良いものだとは……奴隷商人の僕ですら思ってませんから」 

 ティビーは空いている左手をバルパに差し出してきた。咄嗟に身構えるバルパではあったが、彼はもうそれが何を意味するものなのかを知っている。少なくともその手は、相手に干し肉を要求する手ではないことを。

 バルパは自分も手を前に出し、彼の手を握った。

 この行為を人間は握手と呼ぶのだったな、バルパはミーナから聞いた話を思い出す。

 信頼の証、友誼の印。なるほど、確かに悪くないかもしれない。

 嬉しそうな顔をするミランを見る。一口で奴隷と言っても様々な生き方がある、彼女を見るとそれを改めて実感した。

 これから先、きっと自分はすぐにあの奴隷娘達と別れることになるだろう。

 だがその瞬間が来るまでは、せめて腹くらいは満たしてやろうと思った。バルパの脳裏に痩せ細ったピリリと、高慢ちきなウィリスの顔が浮かぶ。

彼は彼女達をただ助けてやるだけで終わらせるつもりはなかった。助かりたいのなら、助けを求めるではなく自分から助けられに行かなくてはいけない。チャンスを掴もうともしないものには、決して好機がやってくることはないのだ。バルパはそう考えている。

 ティビーと幾つかの約束をしてから、自分を待っている少女達の元へ向かうことにした。今後の見通しがある程度経ったならば、次は彼女達にも話をせねばならないだろう。リンプフェルトの街を出たバルパは、全力疾走で森を抜けていった。

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