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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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想定よりも

 リンプフェルトへ戻るまでにかかった時間はなんと三日で済んだ。なぜここまで短縮出来たのか、その秘密は軽く持ち運びに適した馬車にある。バルパはミーナがへばりはじめてから今はわざわざ彼女を走らせる必要がないことに気付き、奴隷の少女達共々彼女を馬車の中に詰め込んだのだ。

 バルパはその持ち前の体力と魔力感知、そして魔力量に飽かせて昼夜を問わず走り続けたのだ。あるときは魔物共を一掃し、またあるときはむしゃくしゃしたのでドラゴン相手に悪態を吐きワンパンで殺してやることを誓いながらも足を止めることだけはしなかった。

 ご飯休憩もほとんど取っておらず、時折り走るペースを全力疾走から小走りに変えて肉串をつまみながら走りに走る。

 たまにひょこっと馬車から顔を出すミーナに適当に食料を渡し、なんの意味もなく出てきては小さく手を振るピリリに手を振り返しているうち、バルパは第三層に辿り着いた。それが大体二日目の夜の話であり、今バルパは一人でリンプフェルトの街へ戻っている最中だった。ミーナも彼についてこようとしていたが、彼女達を守る人員がいると言って少々強引に置いてきたのだ。彼女を置いてきたのは、もしリンプフェルトで亜人関連でいざこざが起こったとき、彼女を抱えながらまともに戦うことに難儀しそうだったからだ。バルパはティビーが衛兵やどこぞの私兵に話を通し、ミーナを人質にして交渉をされることを恐れていた。

 ティビー以外に話をするというのも選択肢の一つではあるのだが、どのみち隷属の首輪をなんとかしなくてはいけないというのは間違いないので直接聞いた方が早いとバルパは考えた。それに煩わされるのが面倒だから多少無理を通してでも事態を解決したいという気持ちもあった。ヴァンスかスースがいれば良いのだが、あの二人がまともにリンプフェルトに留まっているとはバルパには思えなかったために候補からは外している。それに奴隷娘達のことを明言せずに話をすれば、最悪に事態に発展する可能性は低いだろうとバルパは睨んでいた。ミーナを置いてきたのはあくまでも念のためである。

 バルパは相変わらず機能していない東門の門番に適当に挨拶をしてから街へ入った。目指す場所は奴隷商店だ、彼は急いで貴族街へと向かっていった。


「はい、いらっしゃいま……あら、お久しぶりです」

 入ってきたバルパを迎えてくれたのは見覚えのある女、ティビーの小間使いのような役目を果たしている奴隷のミランだ。彼女もバルパのことは覚えていたようで、しっかりと少し気安い態度で接してくれている。

 バルパはティビーと話がしたいと言い、彼女に連れられまた奥まった部屋へと案内された。

「…………くかー……」

「ちょ、ちょっとティビー様‼ 起きてください‼」

 部屋に入るとティビーは顔を紙束に突っ込みながら熟睡していた、よだれが垂れ紙の茶色がより深い色合いになっている。

 ミランがわたわたとしながらティビーを起こす。相変わらずその態度からはどこか親愛のようなものが読み取れる。こんな風な関係を築いてくれる人が彼女達の主になれば良いのだがとバルパは思わずにはいられなかった。

 ティビーは寝ぼけ眼でなんとか意識を取り戻し、ミランに耳打ちをされるとシャキンと素早く意識を覚醒させてバルパの方を向いた。

「どうも、お久しぶりですバルパさん」

「……あごのあたり、唾まみれだぞ」

「ああすいません、これはうっかり」

 ミランに顔を拭かせてから改めてバルパと向き直るティビー、その顔には警戒の色が浮かんでいる。前回奴隷に嫌悪感を覚えて出ていった男が再度来訪したのだからそれも当然かと思いちゃっちゃと話をしてしまうことにした。

「とりあえず一つ質問がしたいんだが」

「なんなりとどうぞ、答えられるものにならなんでも答えますよ」

「主が死んだ奴隷はどうなる?」

「一番最初に奴隷を発見した人間が新たな主です」

「……なるほど」

 では自分は彼女達の新しい主になったということだ。奴隷契約を結んでいなくとも問題はないのかと尋ねると問題はないが、念のために一度奴隷商で証明書をしたためるのが一般的だと答えが返ってきた。証明書を発行すればその記録が星光教の本部に行き、それが裁

判を行う際には正当性の証明になるのだという。

「そんな簡単に主を変えられるのなら、殺し合いにならないのか?」

 奴隷契約は少し考えても杜撰に思えた。主を殺しさえすれば最強の人間が手に入るのなら、恐らく自分は主を殺そうと画策するだろう。

「隷属の首輪はそこまで細かい設定は出来ないんですよ。そのせいで問題も結構起こってますが、何も着けずに奴隷の反乱を起こされるよりはマシということで皆さん妥協しているというのが現状です」

 隷属の首輪は穴も多く、その用法の穴を使って無理矢理奴隷に落としたりする場合や、主になろうと暗殺が横行したりする場合も多いらしい。だが以前それで隷属の首輪を着けるのをやめさせたとある国が奴隷の大規模反乱により転覆し奴隷国家が生まれたという苦い経験から、ある程度のリスクは黙認してでも隷属の首輪のメリットを享受するべきだという考えが主流になったらしい。

 それに星光教の威光という問題もあり、奴隷関連の法案や契約はかなり複雑で煩雑なのだという。細かい特則を挙げればキリがなく、基本的には場当たり的な対処で乗りきるのが基本になってくるらしい。

 そんなことで大丈夫なのか人間社会が若干不安になったバルパではあったが、自分にとってメリットの多い話だったので文句をつけるのは止めにしておいた。

 取り敢えずこれで彼女達が自分達を魔物として扱うような悪辣な主に仕えることになる可能性はなくなったわけだ。だが正直この結果はバルパとしては想定外なものだった。自分が奴隷を得ることになるとはと嘆息せずにはいられない。

 奴隷とは物であり、つまりバルパは彼女達を売ってしまうことも出来るわけだ。捕虜奴隷の扱いになる彼女達がその後どのような運命を辿るかということにさえ目を瞑れば面倒だと切り捨ててしまうことも出来る。

 彼女達の幸せを考えれば、奴隷から解放してやるべきなのかもしれない。

「そうだ、奴隷の解放は可能なのか?」

「種類によります。借財奴隷なら金を返せば、犯罪奴隷なら犯罪を償えば可能です」

「……それなら捕虜奴隷はどうなる?」

「捕虜を解放してやる酔狂な人間なんて、ザガ王国にはほとんどいません。解放され自由明になっても職につくのは難しいですね。どこかの貴族に拾われ、そのまま雇われるというケースがたまにあるくらいです」

 まともな職につけるかどうかということはさほど重要ではない。彼女達が故郷に帰ってしまえば人間界の就職状況など無縁なものだろうから。

 それなら三人を人間と偽り、捕虜奴隷から解放してやることが先決だろう。そうするとティビーにある程度話を通しておいた方が無難だろう。だがどこまで話せば良いのだろう。

 そもそもあの四人の奴隷としての扱いがどういうものなのかがわからない。既に正式な書類として亜人種で登録されてしまっていれば、人間として登録を求めたバルパが嘘をついたと苦境に立たされることになる可能性もある。

 亜人種として証明書を発行されていれば、彼女達を解放することは困難を極めるだろう。よしんば解放して自由に身にしてやったとして、そのままバイバイという訳にもいかなそうだ。しっかりと側についていてやらないとまた首輪をかけられかねない、というか確実に狙われることになるだろう。

 人間として登録が可能であっても、彼女達だけで故郷に帰れる可能性が薄い以上人間社会で生活しなければいけないわけだが、ウィリスがいるせいで溶け込める可能性はゼロだろう。間違いなく亜人種だとバレ、碌でもないことになる。

 考えてみたが、奴隷に詳しくない自分ではドツボに嵌まるだけだったので、ここは大人しく本職に任せることにした。自分が主である以上問題が起こる可能性はかなり減ったし、あとは彼になんとかしてもらおう。バルパは問題が起こらなそうだとホッと胸を撫で下ろし事情を話すことを決めた。

「実はな、主人を失った奴隷を四人ほど拾った」

「ほぅ、それは幸運でしたね。ウチで手続きするなら安く……」

「二人が人間で、もう二人は亜人種だ」

「……………バルパさん、悪いことは言いません。大人しくその奴隷を献上してください。下手すれば殺されますよ、あなた」

 どうやらバルパが考えていたよりも、よほど現状はマズいらしい。

 バルパは忠告をしてくれたティビーの言葉を黙って聞くことにした。

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