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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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わかるようで、わからないような

 強化した視力で見えなくなるほどにまで魔物が逃げ散った時には、すでにその数は一桁になるまで減っている。まぁあの程度の数なら問題はなかろうととりあえず小休止し、自分が攻撃を始めてから全く動かなくなった二人の少女の方を向く。

「無事か?」

「うん」

「…………えぇ」

 即座に反応する多重反応の少女に少し遅れて、羽根の生えた少女が頷いた。二人の首には相変わらず黒の首輪が嵌められている、それを見てまた少しバルパの機嫌が悪くなる。

 二人の格好はまともに海よりも深い溝(ノヴァーシュ)を越えられるようなものではない。多重反応の少女が着ているのは動きやすいだけのただの布切れだし、羽根の生えた少女は上下が一緒になった大きい布を一枚体に張り付けているだけだ。体のラインが見えるのだが、二人の体の様子には大きく違いがあった。 

 羽根の生えた少女の方はしっかりと肉が付き、乳袋もしっかりと張っていて健康そのものだ。しかしもう一人の少女は明らかに痩せ衰え、服の上からでも肋が浮き出てしまっている。奴隷にも扱いの違いはあるということか、三重起動という高等技術に威力が伴っていなかったのにはそういう理由があったのかもしれないな。そう考えながらも二人の方を向くバルパは、未だに警戒体制を解いてはいない。二人の力量はそれほど高くはなさそうだが、羽根の生えていない方の少女の反応の謎は未だに解けてはいないからだ。

「馬車の中の二体も怪我はないか?」

「えっ…………あっ、そうだっ‼」

 とててと小さい足をバタバタ動かしながら多重反応の少女が馬車目掛けて駆けていった。それほどの距離はないためにすぐ到着し、そして次の瞬間には幌の中に入り姿を消す。あとには羽根の少女とバルパだけが残った。

 バルパは改めて馬車を確認してみて、そこにあるはずのものがないことに気付いた。

「あの馬車に馬はついていないのか?」

「あ…………はい、どうやら遺跡から出てきた魔法の品らしく、なんでも馬車だけで走れる優れものだとか……」

「ほぉ、そんなものもあるのか」

 遺跡というものがなんなのかは知らないが、そんな便利なものがあるのならば一度行ってみるのも有りかもしれないな。バルパはもう一度魔力感知を発動させ、周囲に魔力がないことを確認してからスレイブニルの靴に魔力を込めた。

 先ほど少々はしゃいで魔物を狩ってしまったせいか、彼を襲おうとしていた魔物達は今は一匹残らず姿を消している。今はまだ他のドラゴンに目をつけられてはいないが、このままドラゴン共に下手に目を付けられては帰るのが困難になる。

「少し待っていろ、またすぐに戻ってくる」

「あ、ちょっとっ‼」

 羽根の生えた少女を放置して、バルパはミーナのいる洞穴目掛けて最短距離を進んだ。


 バルパは心配そうな顔をしてぴょこっと顔を出しているミーナを見つけ、そっと地面に降りた。

「バルパッ‼ 大丈夫だったのっ⁉」

「問題ない、ちょっとドラゴンを狩ってきただけだ」

「……それは大問題っ‼」

 とりあえず無事を喜んでいるらしいミーナは、ここ数日の元気のなさはどこへやら今はずいぶんとかしましい。だがこの方が彼女らしいと思えたので、特に何かを指摘することはしなかった。

 バルパは彼女に二人の奴隷と二体の魔物を助けたことを教えた。それからとりあえず一旦帰還する旨を彼女に伝える。

「……うん、それじゃあしょうがないよね。流石に四人もいたらこれ以上は大変そうだし」

「いや、そもそも彼女達を助けなくともここである程度ミーナを鍛えたら一度帰るつもりだった」

 また先ほどまでのように急にしょんぼりしてしまうミーナ、彼女の綺麗な髪は今やかなりくすんでおり、心身ともに疲れが残っていることをバルパに示していた。

 無理をしなければいけない場面というものはどうしても存在するものだ、だがしかしそれは今ではないだろう。 

 別に自分は一分一秒を急いで魔物の領域に入ろうとしているわけではない。そもそも強くなることが目標なのだから、まずは自分を鍛えることの方がよほど大切だ。

 あの奴隷娘達を助けられたのは偶然でしかない。もしドラゴンがほんの少し狡猾で、もう少し脳みそがあったのなら、人質として彼女達を使ったり、彼女達へ攻撃を集中させバルパを防戦一方に押しやることくらいはしてきただろう。もしそうなっていれば彼女達は二人とも死に、馬車は中身ごと燃え尽きてしまっていたかもしれない。

 そしてもし、それが見知ったばかりの彼女達でなくミーナだったら……そう思うとやはりこれ以上探索を続ける気にはならなかった。 

「純粋に実力不足だ」

「う…………ごめっ……」

「ミーナも、そして俺もな」

「……えっ?」

 驚いたような顔をするミーナ、洞穴で待機をしていたせいか汚れている手をバルパは布で拭ってやった。

 不足があるのは何もミーナだけではない、ミーナが弱いのならバルパがもっと強くなれば良いし、ミーナが強くなればその分バルパだって楽になる。しばらくの間は二人でやっていくと決めたのだから、どちらの実力も足りていない今のままではダメなのだ。

「ここを簡単に通れないのはミーナが弱いからで、そして俺がドラゴンを殺し尽くし悠々と空を駆けるだけの強さがないからだ」

「……うん」

「なら二人とも強くなれば良い、俺はドラゴンをワンパンで殺す。だからミーナはとりあえずドラゴンに殺されても死なないようになれ」

「……うん? ……うん、わかった」

 もうミーナと別れないと決めた、それならば二人で強くなれば良い。他のことを考えるのはそれからで良い、複数のことを同時にすることが苦手なバルパは取りあえずやるべきことを決めた。ドラゴンを殺す、ドラゴンがミーナを殺そうとする前にドラゴンを殺す。これが出来れば良い、ヴァンスもドラゴンワンパンくらいは出来るようになれといったようなことを言っていた、つまりあの師匠は自分なら出来ると思っているということだ。

「強くなろう、二人で」

「……うんっ‼」

 バルパはもしかしたらミーナは、自分なんかよりずっと強くなるのではないかと思った。既に彼女の魔力量は優に超えている。勇者を殺し、様々な魔物を殺し成長した自分よりもまだ大して魔物を狩っていない彼女の方が魔力の総量が上なのだ。それならば彼女は自分と同じだけ魔物を殺せば、きっと凄まじい魔力を持つことになるだろう。そうすれば自分のボロ剣の一撃なんぞ目ではないような威力の魔法が放てるようになるかもしれない。武器なんぞに頼る自分よりもよっぽど身一つで戦う女性にミーナはなるのではないだろうか。

 自分のようなゴブリンにも強くなれる幸運がやって来た。それならばきっと、彼女にだってチャンスはやって来るはずだ。

 二人で街へ戻ることに関しては彼女の了承を得た。それならば残る問題はあと一つ。

 それはつまり、あの奴隷娘と二体の魔物を……バルパは一体どうすれば良いのだろうかという問題だ。

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