第三層へ
あのドラゴン(刃物のドラゴンではあれなのでミーナの命名によりリッパードラゴンと名付けられた)を倒すのは実はそれほど困難ではない。バルパが損耗度外視で魔法の品を連投し魔撃をぶちこみ回復ポーションを飲み続けながら近接戦闘を続ければ恐らくそれほど難儀せずに殺しきれる。
だがそれはあくまでもバルパ一人ならばという話で、ここにミーナがいればまた話は変わってくる。彼女の使っている魔法の品はバルパの持つ物の中でもかなり有用な物が多いし、ブレス攻撃にも数度は耐えられるだろうが、竜言語魔法とブレスの連撃を食らえばアクセサリーは間違いなく壊れてしまうだろう。それにあのいかにも近接戦闘得意ですといった様子のリッパードラゴンにミーナが近づかれればまず助けられないし、あの角で体を貫かれれば即死は免れないだろう。
ミーナの安全を考えれば戦うことは得策ではないとバルパはあのドラゴンで武器を作る誘惑を押さえつけて先へ進んだ。
ドラゴンはあれ一匹ということはあり得ない。バルパはミリミリ族といたときは炎を吐くレッドドラゴンを見たし、他の種類のドラゴンやワイバーンをヴァンスに抱えられている時に視認していた。
かなりドラゴンの数は多いであろうことが予想され、その生態の詳しいところをバルパはまだイマイチ理解しきれていない。
魔物の領域に行く具体的な期限があるわけではない、ならば今は戦闘を続けドラゴンやワイバーン達をじっくりと観察しどうにか二人で倒す手段がないかを模索するべきだろう。
迷宮と勝手が異なるためにミーナを安全圏に待機させておくという手段が取れないことが痛い。そう考えながらも二人の探索は進んでいった。
当初十五あったパーティーは自分達が先を急ぎ前方にいた冒険者達が探知の範囲から外れたことで一時三つにまで減り、そして現在二十五にまで増えていた。その理由は明確で、現地で実際に狩りをしているであろう冒険者集団達のグループの場所にまでバルパ達がやって来たということだった。
新しく感じ取れるようになった冒険者達の魔力は当初街を出たときに感じていたような微弱で微量なものではなく、前衛と思われる人間でもバルパの数分の一ほどは魔力を持っている。恐らく魔物を狩り経験値を蓄積させ魔力を地道に増やしたのだろうと思われる。
このような恐らくベテラン冒険者達の魔力が確認出来るようになってくると、魔物の質も当初とは変わり始めた。
昆虫系や爬虫類系の魔物が多いのは変わらないのだが、彼ら一体一体の持つ魔力量が明らかに増え始めている。蛇蜘蛛の中でも魔力が多いものは、二人目掛けて魔撃を放ってくるようになっている。二人は攻撃の合間に盾を使うことが常態化し、休息を取るための場所探しが重点的に行われるようになった。
魔力が多く身体強化がより強力なもになっているせいで魔物達の動きも街を出てすぐの頃と比べると明らかに早くなっている。蜘蛛の足などあまりに早すぎて時折残像が見えるものもいたほどである。一見すると魔物の体色は同じなのだが、倒して得られる素材の強度にも明らかに差異があった、以前より甲殻は固く、糸は強靭になっている。
魔物を持つ生き物は死亡すると徐々に魔力が霧散していき、数分もすれば魔力のないただの死体になるのだが、冒険者達が根城にしているこの場所の魔物の素材はそのほとんどが死後も僅かながらではあるが魔力を体内に留めさせていた。つまりここで取れる魔物の素材自体が魔法の品なのである。バルパが得た魔物の死骸で死後も魔力が残っていたものといえばレッドカーディナルドラゴンとス・ルーガルー・スーくらいだったためにこの事実を知ったとき彼はかなり驚いた。最もこもっている魔力はかなり少ないし、何か特別な性能が付いたりするわけでもなく比較的頑丈であるということくらいしか特筆すべき場所はなさそうだったが、それでも人間達がこの場所をナワバリにしようとするのもなるほど頷ける。魔法の品が貴重品扱いである人間の社会で、これらはかなりの値がつくに違いない。
命を惜しまず前に進んでいった冒険者達の目当ての一つがこの素材達にあったのだろうと推測できた。たとえ実力差があり死ぬ危険性が高くとも、自分よりも強い魔物を倒せばその分経験値が得られ、各種能力が向上する。そしてそれを続ければ、ここら一帯で狩りを続けていても苦ではなくなるし、更に先にあるであろう亜人達の住みかへ行ける可能性も大きく増える。
きっとここにいる冒険者達もそうやって強くなっていったのだろう、そしてこれからも強くなっていくのだろう。
魔力的にはドラゴンはおろか、その配下と貸しているワイバーンにも勝てそうではあるがこのまま強力な魔物相手に切り結び続け、そして死ぬことなく勝利を収め続ければいずれその剣はドラゴンの首筋にまで届くものとなるだろう。
バルパ達が魔物の素材が魔力のこもる逸品になる場所に来るまでには大体三日かかった。一度休憩を挟み話をした結果、ここならばまだ先へ進むだけの余裕はあるだろうと更に先へ進むことを決める。
バルパ達は魔物の素材が高価値になったこの場所を、便宜上海よりも深い溝の第二層と名付けることにした。そして序盤の区域を第一層とした、こうした方が魔物の強さに明確な基準を設けやすかったからだ。そして彼らは第三層、明らかに冒険者達が減り始める区域へと足を進めていった。




