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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第一巻2/25発売!!)
第一章 狩る者と狩られる者
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とある少女の独白 1

 翡翠迷宮っていうのは中くらいの大きさらしい、いくら歩いても終わらないから私にはでっかいダンジョンとしか思えないんだけど世界にはもっと大きいもんがたくさんあるらしい。まぁ私には関係の無い話だろうし大事なのはそこじゃない。

 私は冒険者ギルドに貼られていた一枚の依頼を受けていた、その内容は第一・第二階層の調査。大して難しいものでもないはずなのに依頼報酬は銀貨三枚、私みたいな初心者が一人で稼げる額よりよっぽど多い。なんでこんな美味しいものが残っているのかというと、今は戦後の領土拡大がなんとかかんとかでもっと割りの良い仕事が隣のリンプフェルトにゴロゴロしているらしいからだ。ホントなら私もそっちに行ってがっぽがっぽとお金を稼ぐたかった訳だけど、私はそのビッグウェーブに残念ながら乗り遅れてしまった。成人である十四才になるまでは冒険者になることは出来なかったし、成人し冒険者登録を終えたときには既に乗り合い馬車は軒並み向こうへ向かっていってしまっていたからだ。それならば商人の馬車に乗せてもらおうとしたんだけど、護衛をするにはペーペー過ぎて乗せてもらうには金欠過ぎたせいでそれも断念せざるを得なかった。

 それで仕方なく採取依頼や簡単な討伐依頼をして糊口を凌ぐ日々を送ることになったわけだが、魔法が使え冒険者稼業に精を出そうとしていた私は見事に出鼻を挫かれてしまったわけだ。街もどことなく閑散としているし、冒険者ギルドにもほとんど人がいない。国から出動義務の出ているBランク以上はもちろん、稼げるときに稼ごうとするそれ以下のランクのやつらもいない。

 だからパーティーを組むことも出来ないせいで私の鬱憤は日々溜まっていた。だからこそそのストレス発散としてその調査依頼は最適に思えた。

 翡翠迷宮の第五階層までは一般的な冒険者でもまず苦戦することはないと以前先輩から話を聞いたことがあったからだ。入ったことは一度もなかったけれど、地図は前に写させてもらったのがあったし特に不安はなかった。それに内容っていうのもなんだかあやふやで要領を得ないものだった。何か変わったことがあれば伝えろって言われても、そんなの主観によるだろうに。

 まぁ適当に見て回ってから異常なしと伝えれば半月くらい食っちゃ寝出来る金が貰えるってんだからやらない手はない。私は二つ返事でその依頼を受けた、そして生まれて初めて迷宮に入り、その洗礼を受けることになったんだ。


「くそっ、こんなにたくさん出てくるなんて聞いてないぞ‼」

 それが私の心からの感想だった。迷宮の第二階層で私はピンチに陥っていた、舐めてかかっていたゴブリンという魔物に。

 一匹一匹は決して強くない、ていうか弱い。私が出す火魔法で簡単に焼死するし、足だって私より少し遅いくらいでしかない。

 だけど数が多い、ただひたすらに。この階層の広さを踏破するのは無理だとわかっていたため適当に第三階層への階段を見つけようと欲目をかいたのが原因だった。魔力量には限りがあるんだからいくら七割近く魔力が残っていても安易に先に進むべきじゃなかったんだ。

 道を曲がれば五匹のゴブリン、それを倒して真っ直ぐ歩いていると岩影からまたゴブリン。大きな部屋に来たと思ったら十匹のゴブリン。私が消耗していることなどお構いなしにあいつらはこちらを襲いたててくる、ヤバイと思って今来た道を戻って第二階層入り口の階段へ向かうとさっき倒した場所にまた新しいゴブリンがいる。本当にアホみたいな数がいるんだ、この階層が人気がないというのも頷ける。

ダンジョンのゴブリンは野生のそれと違って女を犯したりはしないらしいけど、そんなのなんの気休めにもなりゃしない。明らか私を見る目がエサを見るそれなんだもん、食われるのも襲われるのもどっちも最悪なことに変わりはない。食われるのは嫌だから魔力が半分近くになったと気づいた時には既に戦うんじゃなく逃げるようになっていたけど、戦わなくちゃ道を戻れない場所も多かったから結局ドンドンと魔力は減っていく。

 かなりギリギリな状態で岩に身を隠したり、そうっと歩いて足音を消したりしながら最後の大部屋にやって来た。私を迎え撃つのは見慣れた姿でこちらを見つめている十匹のゴブリンだ。ここさえ越えればあとちょっとで転移水晶の所へ行ける、そしたらすぐに迷宮を出れる。一人で来るのは無謀だとわかったこの場所からオサラバ出来る。だから私は頑張った、尽きかけている魔力をギリギリと振り絞りながら頑張った。

 だけどあと一歩及ばず、最後の最後で魔力が切れた。残るゴブリンは三匹、私は大した怪我こそしていないものの完全に魔力切れで魔力欠乏症の症状が出始めてる。

 分はかなり悪いが、そこで諦めてしまうようなやつは孤児として生きてくことは出来ない。右腕に怪我を負ってはいるが、こいつらを道連れにしてやることくらいは出来るだろうと歯を食いしばりナイフに手をかける。生き残るために最後の力をひり出そうとしたその時、私は思わず体の動きを止めてしまっていた。

 自分とゴブリン目掛けて真っ赤な人間が走ってくる。赤い鱗鎧を着け、左手にはその鎧よりも更に派手なごてごてとした緑色の盾。そして一番大事であるはずの右手で持つ剣は所々の欠けているぼろっぼろで錆びっ錆びの茶色。地味な部分と派手な部分が混じっていて統一性の欠片もない装備をした男は、空気を切るかのようにスルスルっとゴブリンの体を絶ち切ってしまった。盾を当てるだけでゴブリンを殺せてしまうその剛力、そしていくら最下級の魔物であるとはいえゴブリンの体をいともたやすく切り裂いてしまうその剣技。

 そんなどっからどうみてもおっかないやつが戦闘の最中もずっと私から目を離さないってんだから怖いことこの上ない。

 戦闘が終わるとそいつは何を言うでもなくいきなり聞きたいことがあるなんぞと言いやがる。最初はなんの断りもいれずに戦闘に参戦したことについてかとも思ったがどうも違う、今の戦いなんぞそいつはなんにも気にしてはおらず、ただ強いだの弱いだのと意味のわからない言葉を話し出す。しかもその声はどこか耳障りで、まるで蛇の喉から出ているみたいな不思議な音をしていた。

 怪しい、怪しすぎる。ガチガチに全身装備を固めてゴブリンをオーバーキルし続ける謎の男。初心者しか狩り場にしない第二階層にこんなのがいるのが不可解だし明らかにワケありだ。なんの根拠も無いが私は既に目の前の鎧男が依頼人が求めている何か変わったことそのものであることを確信していた。私は相手の魔力を推し測ることは出来ないけれど男が私よりずっと強いってことは装備を見ただけでわかる。

 固有名の付いている鎧と盾なんてお貴族様が家宝にするようなクラスの代物だ、そんなのを普通に着けてる点から考えると強いし、しかもお金持ちだ。

 私が十歳の頃から四年間だけお世話になった孤児院の院長先生は言っていた。お金持ちとの縁があったらまずはなんとしてでも射止めようとしてみたほうが良いって。でも調査依頼が出されてるってことはなんらかの事情があって、それってつまりなにかしら良くないことに関わってるってことでもあって……と考えながら適当にまくしたてているうちに第三階層への階段に着いていた。自分一人じゃ出来なかったってのにあいつはいとも簡単に私を連れてきてしまった。そのことが悔しかった、誰かにおんぶに抱っこな状態が心地よいって感じるならきっとそいつはどこかがおかしい。全部自分でやるのが正しくて、誰かに頼るのなんか間違ってる。今まで何度も騙されたり身売りされかけたりしてきた私にはそのことが痛いほどわかっていた。

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