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知らないことを知ること


 食事が終わると部屋を変えて、これからの話をすることになった。


子供たちは風呂と勉強だ。


「あ、あの、ギードさん」


双子が使用人と共に風呂場へと出て行った後、レリガスは思い切ってギードに声をかけた。


「なんでしょう」


なるべく声を小さくしたつもりだったが、祖父母や両親もこちらを見ている。


「さっき、部屋を決めて、あの、寝台と机を、僕の部屋からユイリくんが」


しどろもどろになりながら、何とか部屋にあった寝台と机を移動したという話をした。




「ああ、家具が消えた、と」「はい」


ギードは溜め息を吐き、レリガスに微笑みを向けた。


「それも含め、双子についてお話をしましょう」


ギードは義両親と義兄夫婦、そして甥っ子に向かって話始めた。


「ふたりが魔法を使えることは既にご存じだと思います」


なるべく目立たずに、最小限の使用に抑えるように言い聞かせてはいるが、まだ六歳である。確約は難しい。


 王都の町中でも普通に魔術師は存在するし、最近はエルフの姿も増えている。


しかし、その魔法を目にする機会は身内でなければあまりないのだ。




 それに、魔法が使えてもそれで身を守れるかは別問題だ。


「今回、双子を王都に出すため、護衛をつけました」


そう言うと、ギードは精霊を呼んだ。


「リリン、コエン」


十二歳のレリガスと六歳の双子の中間くらいの年齢のエルフの子供が姿を現す。


皆が驚いているが、ギードは何くわぬ顔で話続ける。




「双子に付けた守護精霊で、女の子が風のリリン、男の子が炎のコエンです」


精霊が黙って会釈する。この子たちは精霊であって、エルフの姿はしているが、本当の姿ではないことを強調しておく。


「この子たちは双子の影の中に住んでいます。そのため、多少の荷物も影の中に保存しているのです」


祖母の方は商国で人族以外を見慣れているので頷いている。その他の者たちは精霊に対する驚きと少しの恐れが見える。


「先ほどの消えた家具も、この子たちの仕業しわざです。魔法ではなく、影の中に入れただけですよ」


わざと何でもないことのようににっこり笑う。




 これはギードの悪影響だった。


普段から荷物はすべて眷属たちに影の中に収容してもらっているギードの真似をしたのだ。


 先日、最上位精霊の分身を守護につけてもらった双子は、彼らにさっそく影の収納が使えるのかと聞いていた。


「あ、はい。でもあるじであるギードさまの許可が必要になりますよ」


分身であってもギードの眷属であることに違いはなく、それを親子でも他者が使うとなるとギードの許可が必要になる。


「えー、少しくらいならいいでしょ。ギドちゃあん」


ミキリアがギードに甘えた声を出す。


「大切なものを入れておきたいんだ。王都は危ないからー」


ユイリまでがギードの服を引っ張ってねだる。


「いやいや、少しは不便っていうものをだなー」


甘やかさないようにとがんばるギードの声をタミリアが遮る。


「いいじゃない。少しくらいなら」


その時、少量なら許可なしでいいと決定してしまったのである。




 その頃、風呂場でも事件は起こっていた。


王都でもお湯を張った浴槽に浸かる習慣はあまりなく、水をかぶり、汗を流す程度である。


「ユイリさま、ミキリアさま。お着替えをお持ちしました」


双子はすでに水をかぶり、布で身体を拭いていた。


そこへ双子の担当である女性の使用人が入り、そのまま固まった。


 茫然としている使用人の女性の手からさっさと替えの服を奪い、着替えた双子は父親のいる部屋へと移動する。


「お祖父さま、お祖母さま」「着替えをありがとうございます」


就寝用の着替えは祖父母が用意してくれたものだった。さすが服飾の老舗らしい、上品な肌触りで双子も気に入った。


お礼を言っていると、先ほどの使用人が駆けこんで来た。




「ご主人さま、奥様、こ、この子たちは偽物ですうぅ」


きっと魔物です、危ないです、と騒ぎ出し、まだ残っていた使用人が何事かとやって来る。


双子を指差すその女性は、わなわなと震えている。


訳がわからず双子はギードの後ろに隠れた。


「ああ、その女性は双子を見るのは初めてですか」


ギードの言葉に祖父が頷く。


「うむ。今までは別の店にいたのだが、この春から双子たちのために家のほうに入ってもらったのだ」


ギードは頷くと、その女性に落ち着く魔法をかける。




 まだ、はぁはぁと息を切らしてはいるが、その場で座り込み、少しは落ち着いたようだ。


「驚かせて申し訳ありません。先ほどと子供たちの姿が違うとおっしゃりたいのでしょう?」


ギードの質問に使用人の女性がこくこくと頷く。


「は、はいっ。こ、こんな美しい姿ではありませんでした」


だから魔物に違いないと言うが、以前から双子の姿を知っているものは首を傾げている。


「いや、元からこの子たちは美しい姿をしているのだが」


伯父は困惑気味に女性の使用人を見る。




「ええ、その方の言う通りです。今回、初めて双子の姿を見る方には違う姿に見える魔道具を使わせていただきました」


そう言うとギードは双子が荷物の中に入れた、認識阻害の帽子を取り出す。


「外出時は必ず着用するようにさせていますが、お風呂で脱いでしまったせいですね」


そしてゆっくりと使用人の女性に見せる。


「これは魔道具です。この子たちは見かけが派手なので、地味に見えるように錯覚させていたのですよ」


大人たちは今日何度目かの驚きで少し呆れていたが、レリガスは興味津々でその魔道具を見ていた。


ようやく使用人が納得して下がる。




「ギドちゃん、おやすみなさい」「おやすみー」


「うん、おやすみ。よい夢を」


軽く頬に口付けをして、双子は何度も振り返りながら部屋へ引き揚げて行った。


レリガスも慌てて勉強のため二階へ上がって行った。


「さて、お騒がせしてすいませんでした」


「いやいや、これも王都で暮らす為の知恵だろう。わかってしまえば特に問題はなさそうだ」


ギードは鷹揚おうような義父に感謝する。


そしてようやっと本題に入るのである。




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