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34 幕間 砂木対強矢

「すべてわかりました」

 砂木の一言は、その場にいた三人を釘付けにした。筑紫野署の第一取調室。いるのは強矢と沢口と綿貫である。砂木のほうから、極秘の話がありますということで、その場所が選ばれていた。

 強矢たちはパイプ椅子に座り、砂木は、鉄格子のはまった窓を背景に、取り調べ用の机の上に腰かけている。

「わかったって、犯人がですか」

 綿貫の声はどこかうわずっていた。

「ええ。といっても、証拠はないんですけどね。あるのは推理による仮説だけです」

「よし。証拠のことはいまは気にせんでいいから、とにかくおまえの説を聞かせてみろ」

 目には警戒の色があるものの、強矢が満面の笑みで言った。

「お話しする前に、お願いがあります」

「駄目だ」

 強矢がきっぱりと首を横に振った。強く振ったので、巨体までが横に揺れる。

「わかりました。それではいまの話はなかったことにしてください」

 強矢は砂木を睨みつけたが、埴輪顔の砂木には暖簾に腕押しで、けっきょく強矢が折れた。

「そのお願いとやらを、聞くだけ聞こうじゃないか」

「容疑者たちを一堂に集めて、仮説をぶつけてみようと思うんです」

「証拠もなしにか」

「そうです。そうやって、犯人をみなの前で追い込むのが狙いです」

「なに寝ぼけたこと言っているんだ。おまえが仮説を出して、それにもとづいて証拠をかため、逮捕状を請求するのが筋だということぐらい、おまえにはわからんのか」

「証拠なんてそう簡単に見つかりませんよ。犯人は、かなり狡知に長けてますからね。それに自分が疑われていることを悟られたりしたら、なおのことやっかいなことになってしまいます。それよりいまの段階で追いつめ、犯人の不意をついたほうが、いい結果を生むはずです」

「駄目だ。そんなことは許されん。おまえの探偵ごっこに耳を貸す気はない」

「じゃ、僕のほうもなかったということで」

 砂木は机から飛び降りた。

 強矢の首から上が、みるみる赤く染まった。

「おまえは上司にたてつこうというのか。それがどういうことになるか、わかってやっているんだろうな」

「キャリアの落ちこぼれの僕に怖いもんなんてありません。出世に興味のない人間は強いですよ。それに、ミステリ好きが高じ、名探偵に憧れて警察官になった僕は、日本で唯一の諮問しもん警察官を自称しているなら、南瓜の栽培か、蜜蜂を育てる養蜂家が将来の夢ですし」

 強矢は憤懣やるかたない様子で、鼻の穴から息を吐き出した。両腕を胸の前で組み目蓋を閉じる。

「沢口警部、君はどう思うかね」

「砂木警部補の仮説を聞いてみないとわかりませんが、思いの外いい方法かもしれません。重要参考人として引っ張れたら、だいぶ違います」

「綿貫部長刑事は?」

「刑事官と警部に判断はお任せします。それより私は、警部補の話を聞きたくてうずうずしています」

 それは強矢としても同じ気持ちだった。目を開いて、わざとやさしい声色を作る。

「わかった。それじゃ、おまえの話を聞いてみて、それから考えるというのでどうだ?」

「いやですね」

 砂木は素っ気なく答えた。

捜査の章が終わりました。つぎの章から事件の解明になります。残すとこあと二章で完結しますが、解明の興を削ぐことなきよう、次章は一気に投稿の予定です。つきましては、長文ということもあり、チェックに時間を要しますので、しばらくお待ちのほどをお願いします……作者より。


月見うどんです。誰かって? 知らなくて問題ありません。

物語のこの段階で、たぶんに、大かたの方は、すでに犯人が誰であるかを看破されていることと思います。で、そうでなく、いまだに目星のついていない、そこのあなた。あなたに一言――

犯人は狐のように狡猾な奴ですが、それ以上にズルイのは作者であることをご注進申し上げておきます。くれぐれもペテンに引っかかりませんよう、ご用心のほどを。

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