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8 事情聴取 一郎

 島名一郎は不服そうな表情で部屋に入ってきた。事態を好ましく思っていないのは歴然としていた。演技かもしれないと刑事たちに思わせるほど、それはあからさまだった。

「なにを聞きたいんです。あっちのほうでもさんざん聞かれたし、もう話すことなんてなにもありゃしませんよ。時間の無駄もいいとこだ」

「ま、そうおっしゃらずにご協力をお願いします」

 綿貫がやんわりと出た。

 名前と年齢、仕事のことなどといった一通りのことを聞いてから、今日の話となった。

「午前中は会社にいて、昼食をすませてからスポーツジムにいきました。入ったのが一時半ごろで、二時間ばかり汗をかいて、一度家に戻ったから、ジムを出たのが三時半ごろで、自宅に着いたのが四時ごろになるかな。それから服を着替えたりして、家を出たのが五時少し前で、こっちに着いたのが五時二十分になる前だったね。先にめぐみがきていて、リビングで少しばかり話をしました。そのうち退屈したのかめぐみが庭に出て、こっちも相手していて退屈していたので助かったんだけど、することがなくなって……」

 一郎は唇をなめて、刑事たちをうかがった。

 ジムに定期的に通っているのか、筋肉質な体つきをしているのが洋服の上からも現れていた。背も弟の二郎より高く、眉と大きめな目の間隔の詰まった男っぽい顔をしている。

「そのままリビングにおられたのですか」

 綿貫がそう言うと、一郎は大きくうなずいた。

「そうです。リビングにいました」

「しかしそれではおかしなことになります」綿貫は一郎の顔を見つめた。「亜紀代さんが、リビングにいった時、あなたの姿はなかったと言われているのですが」

 一郎はうつむき、すぐに顔を上げると、いま思い出したように言った。

「あっ、そうでした。二郎たちが帰ってくる少し前に二階の図書室に上がったんですよ。そのことを忘れていた。そしてクラクションの音が聞こえたので、窓から見ると二郎の車が見えたから、リビングに戻ったんでした」

「図書室にはなにをしにいかれたのですか」

「なにをって。暇だったから本でも読もうかと。時間にしてわずかだったから、本なんて読めませんでしたけどね。選んでいるうちに、二郎たちが戻ってきましたから」

「あなたがリビングに戻った時、そこにはどなたがいましたか」

「刑事さんがいま言われたように亜紀代さんがいましたよ。美也さんと優子さんが入ってくるのと同時くらいに、めぐみが庭から走って戻ってきましたね」

 腹立たしそうに一郎は言った。

「あなたが二階からおりてくる時、フミさんは階段の下にいましたか」

 一郎は刑事たちを順に見ると、観念したように口を開いた。

「ええ、フミが出迎えのために玄関にいました。こっちを見たので、フミも知っているはずです」

 続けて一郎は、美也が死亡するまでの経緯を述べたが、それは他の者となんら変わることのない内容だった。

「そうです。食べなかったのは、僕と亜紀代さんの二人です。そうするのが当然じゃないですか。誰がおいたのかわからないうえに、『毒入り』だというカードが添えてあるんですよ。それをわざわざ食べて、人にも勧めるなんて、いったいどういう神経をしているんだと言いたくなる」

「榊欣治さんをご存じですか」

「榊? 誰ですそれ」

「美也さんの知り合いで、今夜招待されていたひとりなのですが」

「ああ、パーティにきていた男か。なんか馴れ馴れしくていやな奴でしたよ。あの男がどうかしたんですか。僕は、つき合いなんてまるでありませんけど」

 会員になっているジムのことを聞いて、一郎は解放された。

「金持ちづらというのか、人を見下す男だね」沢口が言った。

「しかし警部、意外とああいう男が女にはもてるんですよ。金持ちの自信家タイプというのがですね。それより、図書室にいたとか言っていますけど、ほんとうのことだと思いますか。いまのところ、被害者が帰ってくる前に、二階にいたことが明らかなのは一郎だけです。こちらから言わなかったら、その事実も隠そうとしましたし」

「わからないですね。怪しいといえば怪しいし。確か指紋を取られるのも嫌がっていました。そこになにかあるのかもしれません。ま、ほうっておいても、なにかあったらそのうち出てきますよ。ああいう男の場合は」

 沢口は一郎をそう評価してから、砂木に言った。

「砂木、おまえからなにか言うことはないのか。いかにも怪しい人物は犯人でないのが決まりだとか」

 うつむかせていた顔を上げて、砂木が言った。

「それを言うべきかどうか、いま悩んでいたところです」

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