3 事情聴取 川口親子
つぎに話を聞く相手を女中の川口妙子と早智に決め、二人を野田が呼びにいった。
その際に、浦島に連絡先を尋ね、榊の所在を調べるのを、捜査員のひとりに頼んできたことを野田は報告した。
妙子と早智はおずおずと、刑事たちの前に腰をおろした。
妙子は四十七歳の、丸々と太った人のよさそうな感じの女だった。早智は母親と違い、痩せた体形で二十四歳だった。額を出し、耳のラインでポニーテールをしている。
妙子が華輪家に雇われて五年、早智は一年だということを二人は話した。
「以前もうひとりいた娘が故郷に帰ることになり、ちょうどこれが遊んでいましたので、フミさんを通じて旦那様に頼んだのです」
妙子が言い、その横で早智はうつむいていた。
「一応勤務時間は、娘が八時から三時まで、わたしが十二時から七時までとなっています。今日みたいに、お客様がある時は勤務時間も変わりますけど、休みのほうも日祝日いただけて、うちから近いこともあって勤めさせてもらっています。ええ、仕事のほうは満足していますよ。お邸が広くて掃除は大変ですが、ご家族は四人ですから、普段の食事などは手数がかかりませんし、みなさんよい方ばかりですので」
妙子は働き場所としての華輪家がいかに快適かを力説した。
「それでは、お二人の今日一日のことを教えてもらえますか」
早智が八時から十二時までと五時から八時まで、妙子が十二時から八時までの勤務時間になっていた。午後の七時から客を迎えるため、客室の掃除や料理の用意のし通しだったと妙子は話した。四時半ごろにフミと一緒に美也の部屋を見てまわり、爆弾とやらを探したがそれらしきものが見当たらなかったこと、その時チョコレートの箱などどこにもなかったことを妙子は話し、フミの言ったことを裏づけた。それ以後は事件がおこるまで、ずっと厨房にいたと妙子は言った。早智のほうも、五時に入り妙子と一緒だったと言う。
「ですから刑事さん、わたしたち親子はなにも知らないのですよ。お役に立てなくてすみませんが、その通りなのですから仕方ありませんわ」
「今日一日、怪しいことや不審なことはなにもなかったと言うわけですね」
「ええ、いま話しましたように爆弾などもありゃしませんでしたし、それに、亜紀代様とフミさんも邸に一日中おられて、わたしたちと同様なにもご存じないはずです。このことは、はっきりと言っておかないとですね。間違いなく、お二人はわたしどもと一緒でした」
妙子がやけに強く言うのに、綿貫は気づいた。
早智のほうを見ると、早智は視線を避けるように目を伏せた。
「いま話されたことに間違いはありませんね」綿貫が念を押した。
「申し上げた通りです」妙子がふくよかな胸を張って答えた。
いまのところこれ以上聞くこともないということで二人を解放した。そして二人がドアから出ていこうとした時、それまでほとんどなにも言わなかった早智が、意を決したように振り返った。
「刑事さん、あのう……」
「どうしました」
床に向けられていた早智の若々しい目が、綿貫へと上がった。
「聞いていいものかどうかわからないんですけど、わたしがリビングにいって、美也さんが床に倒れているのを見た時にですね。そのう……テーブルの上に美也さんの写っている写真みたいなものがあったような気がしたんですけど、あれって、チョコレートと一緒においてあったというのはほんとうのことなんですか」
「そうだけど。なにか知っているのかい」
「いいえ、そういうのじゃなくて……」
早智はポニーテールの頭を振った。
「早智なにをしているの?」
妙子の急かす声がドアの向こうからした。
「あ、すぐいくわ、お母さん。刑事さん、なんでもないんです。ちょっと気になったもんで聞いてみただけなんです。だから、そのう……ほんとうになんでもないんです」
早智は慌てて部屋の外へ出ていった。
「なんでしょうね」綿貫が沢口に言った。「聞く材料がこちらになかったのであのままにしておきましたが、気になりますね」
「あの若いほうはなにか知っているんじゃないですか。それがなにか見当がつけばいいんですけど。女中というのは、驚くほど内情に通じているところがありますからね」
「以前にどこかで、あの状態のグラビアを見たことがあるとか?」
「もしそうだったら、いずれもう一度彼女にそのことを聞くことになりますよ」
沢口はそう言った。