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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

自殺なんてのは、バカがやることだ

作者: 佐々雪

「自殺なんてのは、バカがやることだ」


 茉莉は缶チューハイを飲んで機嫌が良くなると、たびたびそんな話をした。そう言ってしまえば、身もふたもない話ではあった。


 でも茉莉のそんな話を聞くと、いつも気持ちが少しだけ晴れた。何の勝機もないくせに生き続ける自分が、まるですこし偉いように錯覚できたから。


「世界にはさ、百万通りもの逃げ道が用意されている。もし人が死にたいと思ったのならね、自分の美的感覚に照らし合わせて、一番好きな逃げ道を選べばいい。それだけのことなんだよ」


 茉莉の意見に反対はなかった。けれども僕は茉莉の話をもっと聞きたくて、あえてこんな質問してみたことがある。


「美的感覚がなくなってしまったときには、人はどうすればいい?」


 茉莉は聡明な眉の下に満足そうな笑みを浮かべ、缶チューハイを飲み干す。


「そういうときはさ、何もしないんだよ。自分が必要だと思うことを、すべてやめてしまえばいい」


 茉莉の言葉に、僕は何度救われたことだろう。


**************************


 土曜日の昼下がり。

 僕は公園のベンチに座っている。小動物のように聡明な茉莉の横顔を思い出しながら。


 ここは今日のデートの待ち合わせ場所のはずだった。


 スマホの時計を見る。お昼の12時。

 約束の時間を一時間も過ぎてる。


「茉莉さんはこっなっいー!もうこっなっいー!」


 そんな歌を歌うと、鳩が逃げていく。

 鳩だって、不審者は不審なのだ。


 カバンの中には、茉莉さんと公園で食べようと思ったスナック菓子と、2本のペットボトルのジュースがある。


 試しにスナック菓子の入った袋をゆらしてみる。ガサガサと音がする。まだちゃんと入っている。あたりまえか。でもジュースに触ると、もうぬるくなってしまっている。


「かっとばせー、まっつっり!まっつっり!まっつっり!」


 と叫んでみて、はぁ、とため息が自然にでる。僕はなにをやっているんだろうって。


 だって、こうして待っていても、茉莉は絶対に来るはずがないのだった。


 というのも、実のところ、さっき連絡があったのだ。

 『今、家で寝ているから早く来い』って。でも僕は、彼女の家に向かう気にはなれなかった。


 まず僕は今日のデートをとても楽しみにしていたし、茉莉がきたらサンモールでお好み焼きを食べて、それから路面電車で宮島に行って、宮島の旅館に一緒にとまって、おいしいあなご飯食べるつもりだった。


「さっみっしっいっなー!」


 楽しそうにふくらんだスナック菓子と、不安そうにしている2本のペットボトル。彼らに何と説明すればいいのか分からなかった。


 それに、突然家に来いって言われても困る。

 僕は茉莉の両親と話すのは初めてだった。だから電話もすごい緊張して声がふるえた。

 向こうは泣いていたけど、突然のことすぎて、涙すらでなかった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 正直にいうと、まだ実感が持てない。


「僕は茉莉に助けてもらってばっかりだったなー。僕が頼ってばっかりだったから、きっと茉莉は僕に頼れなかったんだよね。百万あった逃げ道を、僕が全部潰してしまったのかなあ」

 

 僕は茉莉の家にいくべきなのだろう。でも謝る言葉が見つからなかった。茉莉の目を見て(彼女は僕の目を見てくれるだろうか)、きちんと謝れる自信もなかった。


 空高く浮かぶ太陽が、じりじりと僕の肌を焼きつけている。太陽は、まるで静かに僕に怒っているみたいだった。


 空には一本の飛行機雲が太陽に向かって伸びていて、他には何も見えなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自殺に対しての考えが自分と似ていました。 わたしも、自殺するくらいなら別の道を進めばいいと思っています。 [気になる点] 『サンモールでお好み焼きを食べて、宮島の旅館に泊まって美味しいあな…
2017/06/05 14:11 退会済み
管理
[一言] 「自殺が馬鹿なこと」 たぶん、この言葉の意味を一番わかっているのは自殺する人なんでしょうね。 そして、そんな友に相談をしてもらえなかった主人公の無念さ。 どちらの気持ちもわかるようなわからな…
[良い点] 面白かったです。 自殺について語る人は、きっとその事について誰よりもたくさん考えて、そして死なない理由を探しているのかな。 …もっと色々と面白かったことを伝えたいのに、なんか言葉が出て来ま…
感想一覧
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