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異世界英雄は帰りたい  作者: テト
一章:叛逆の英雄、異世界に飛ぶ
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十八話 死神に私刑を








戦いが終わったはずの場に、再び殺気が吹き出る。それも先程までいた死竜の、ハリボテの殺気とは違う重苦しい本物の重圧だ。冒険者達は顔を引きつらせてプレッシャーに耐えつつ、その根源を見た。


ところどころ破けている古ぼけた黒い布。それを適当に身に纏った骨だけのソレは、しかし普通のスケルトン種とはまるで違うということを威圧で示している。ヒビの入った手に持っているのは、真っ黒な水晶のついた大きな杖。水晶からは絶えず瘴気のようなものが流れ出している。


冒険者達が固まって動けない中、骸骨はようやく口を開いた。


『…小娘、やってくれたな』


地の底から響いてくるような、不気味な声で骸骨は喋り出す。初めて話したのはアデリーナへの恨み言だった。


「なにそれ、このリビングデッド軍団による街への侵攻を止めたこと?別に私だけがやったわけじゃないし、そもそも本当に成功すると思ってたの?」

『少なくとも貴様がいなければ、この場にいる生者どもは皆殺しにできただろうよ…確かに今回は様子見のつもりだったが、まさか黒竜を失うとは思ってもいなかった。この死骸を手に入れるのにどれほど苦労したことか…』


骸骨はその苦労を思い出すかのように遠くを見る。今この瞬間も骸骨からはプレッシャーが叩きつけられていて、周りの冒険者達はアデリーナが平気そうに喋っていることに驚愕している。


「あっそ。どうでもいいけど、その言い方だと今回はもう退くのかな?そんなら、また街に来られても困るし、ここで潰しとくね。」

『計画を知られた以上、我も貴様らを生かしておくわけにはいかんのでな。ここで皆殺しにさせてもらう。小娘、貴様さえ殺してしまえば、あとは烏合よ。今もこの程度の威圧で動けなくなっている。』


骸骨の何もない真っ黒な眼窩が冒険者達の方を見た気がした。それだけで冒険者達は自分の意思とは無関係に、表情すら動かなくなってしまう。


「まぁあの出来損ない黒竜に攻めあぐねてたんじゃ、あんたは荷が重いかな。それより私を殺すって?…やってみなよ、たかだか魔物風情が思い上がったもんだ。」

『我こそは、忌々しき生者どもを絶望に叩き落とすために生まれた者。生者は我の事を、リッチと呼ぶ。死神と呼ばれたこともあるな。その名の通り、貴様を殺す神となろうではないか。そしてその後、貴様も我が配下にしてやろう!』


そう言い、骸骨、リッチは魔力を高め始める。それを聞いたアデリーナは、


「オマエみたいなのが、神?はっ、オマエなんて強さで言えばせいぜい上級天使将くらいだろ。そんなのが神を自称するなんて、神も随分格落ちしたもんだよ。」


と言い放った。リッチにはその意味は分からなかったが、馬鹿にされていることは分かったようだ。


『紙くずのように潰してやろう!《黒の重力球グラビティ・コア》!』


リッチの魔術が発動し、アデリーナのすぐそばに小さな黒い球体が浮き出る。すぐには何も変化がなかったが、アデリーナはとりあえず離れようとする。


『逃すと思うか?《黒の連弾ブラック・バレッジ》』


しかしリッチはすぐさま多数の黒弾をアデリーナに放って足を止めようとする。先ほどの魔術が発動するまで時間を稼ごうという考えだ。黒い球もアデリーナの方に近づいて行く。その速度は速くはないが、どうやら誘導性があるようだ。


「起動」


アデリーナは身体強化の魔術を発動し、小刻みに動いて弾を避ける。さらに、避けながら前進してリッチの方へ走っていく。


『ちょこまかと…《黒の炎ブラックファイア》《追従する闇の剣ダークチェイサー》」

「我が身の魔、散る雷を以て障害を排除せん。撒き散らせ、《散開する雷光ラピッド・サンダー》。こんなもん?まだまだいけるっしょ!」


リッチは後ろに下がりながらさらなる魔術を発動してアデリーナを近づけまいとするが、アデリーナは複数の魔術を1つの魔術で相殺、消しきれなかったものは高速機動によって避け、リッチにどんどん近づいていく。結局アデリーナを遠ざけることはできず、離れていくアデリーナに近付くことが出来なかった黒い球の魔術は離れた所で発動する。


「お、おい、なんだありゃあ!」


リッチがアデリーナと戦い始めて、こちらに向く圧力が弱まった冒険者達は、固唾を飲んでその戦いを見ていたが、発動した黒球の魔術に驚きを隠せない。


魔術は一瞬広がったかと思うと、すぐに縮まって中心に小さな塊を残す。音もしないので一見何も起こってないかのようだったが、よく見ると球が広がった範囲の草、地面がごっそりと削れてなくなっている。そしてその中心に残った小さな塊は、茶色と緑が混ざった色をしていた。


「まさか、あの範囲の空間を圧縮したのか?」


魔術師の男が信じられない、といった風の顔をする。そんな魔術は聞いたことがなく、さらにその魔術が現在進行形で放たれまくっているのを見れば驚愕も頷ける。


「《輝く雷よサンダーボルト》!」

『ぐぉ…!《黒鎌ブラックサイス》!』

「当たらんわそんなの!振りが遅いんだよ、止まって見える!」


何より信じられないのは、そんな恐るべき魔術をいくつも同時に出してくる魔物を相手にして、終始押しているのはアデリーナのほうであることだろう。





リッチは息をつく暇もなく次々と魔術を放つが、アデリーナはそれを意に介さない。繰り出される魔術をひょいひょいと避け、避けにくいものは魔術で相殺する。そんなことをしておいて、さらに雷の剣でダメージを与えているのだから、冒険者達はもはやぽかんとしている。


『クソ、ありえん、こんな小娘に…!』

「勝負を仕掛ける相手を間違えたね、自称死神さん。あそこの冒険者ならともかく、本物の神殺しじゃアンタを相手するのには役不足だったようだ。」

『何…?』

「意味なんて分かんなくていいよ、どうせここで死ぬんだし。我が身の魔、拘束の才を発現し、彼の者を縛れ。《雷光の鎖ライトニングチェーン》」


困惑するリッチをアデリーナの魔術が縛る。すかさずマジックポーションを飲んだアデリーナは、次の詠唱を始めた。


「我が身に宿りし魔力よ、叛逆の才を発現し、我が道を塞ぐ者を力を以て排除せん。我が意思、我が憎悪、我が盟約に従い、人を嘲笑う至高の存在達の傲慢をその罪とし、刑に処する。《私刑執行ギロチンカッター》」


縛られたリッチの頭上に巨大な片刃の物体が出現する。リッチは抵抗するが、光の鎖は動くことを許さない。


「じゃ、バイバイ」


アデリーナの場違いなほど明るい声を合図に、死刃は確実にリッチを打ち砕いた。

そろそろ一章が終わりそうです(デジャブ感)

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