十七話 戦う主従
今回はルビとか試してみました
「では主殿も出撃したのだ、我々もやるぞ。…水晶に秘められし魔力の輝きよ、その力を以て我が人形達に祝福を。人形達よ、我が号令に従い地を駆けろ!《号令・人形劇剣舞》」
コッペリアの唱えた魔術により人形達に赤いオーラのようなものがかかる。人形達は、それがかかると一斉に魔物に向かって突撃しだした。
「あの、今のは?」
「号令魔術だ、見たことはないか?人形にかけられることはあまりないかもしれんが、戦場で指揮官がよく使うものだと思うのだが…」
「コッペリア、そこまでです。それ以上の情報の開示はアデリーナ様の指示を仰がなければなりません。あなたは今出てきたばかりでまだ状況を把握してないでしょう?喋るのはその辺にして、今は仕事をして下さい。」
「お、おお。分かったよ。」
コッペリアはタマモの剣幕に困惑した様子だったが、すぐに前を向いて人形達の指示に集中し始めた。
「申し訳ありませんセラ様。これ以上は機密事項なのです。」
「いえ、そんな、秘密を聞こうとしてたわけじゃないので…」
「そう言っていただけると幸いです。」
セラには今の会話のどこが機密事項に触れるのか全くわからなかったが、変に詮索してアデリーナとパーティーを組めなくなるのは嫌なので何も聞かないことにした。
コッペリアは人形達を戦場に広く分散させている。2体を1組として運用しているようで、人形達は手際よくリビングデッド達を無力化していた。セラはマジックポーションを飲みつつ冒険者達の治療をし、タマモはそこに近寄る魔物がいないか見張っている。
「コッペリア、どうですか?そろそろ魔術が切れると思いますが。」
「ああ、雑魚は一掃出来そうだ。だが、あそこにいるデカい犬と虎は間に合いそうにないな。」
コッペリアが前を見ると、高ランクの冒険者達が相手をしている大型魔物がまだ健在であることが分かった。すでに一部の人形達を向かわせている。一瞬敵と勘違いされたが、ケルベロスなどに攻撃を加えているのを見て冒険者たちは仲間だと判断したようだ。
「あれと戦ううちに強化は無くなってしまうだろうな。しかしまぁ、問題ない。戦争とは数だ。いかに強いものでも、数に集られてしまえば身動きも取れず、やがて落ちてしまう。当然それを覆すほどの例外もいるが、それができる敵はこの場ではあの黒竜か、その中身だけだろう。」
コッペリアの言葉通りというべきか、実際に大型魔物は集まってくる人形を捌ききれずにいる。あの様子なら、たとえ強化がなくなっても崩れるのは時間の問題だろう。
「ではあとはアデリーナ様の所だけとなりますが…心配はご無用でしょう。むしろあの方が負けるのでしたら、この街どころかこの国が滅びるのを覚悟した方がいいですね。」
「全くもってその通りだな。はっはっは」
タマモとコッペリアは雑談しながら、倒れていく魔物達を眺めるのだった。
「起動!」
アデリーナは手袋をはめ、そこに書いてある魔方陣を起動する。その瞬間身体強化の魔術が発動、アデリーナは片手で大剣を振り回し雑魚を弾き飛ばしながら走る。
コッペリアに雑魚共を任せ、あとはそこにいる黒竜と中身を倒せば終わりである。若干この戦闘自体に飽きてきたアデリーナは、さっさと終わらせるために猛スピードで走り、竜の前にたどり着いた。
「!おいお嬢ちゃん、危ねえぞ!下がってろ!」
見知らぬ冒険者がアデリーナに声をかける。神界大戦ではいつも隊長として隊の先頭に立って戦っていたので、下がれと言われるのは新鮮である。
「ご忠告どーも!でも心配は要らないよ、むしろオニーサンたちの方が若干邪魔かも?」
「なにっ…?」
黒竜の攻撃を防ぎつつも、忠告を無碍にされて少しイラッときている冒険者。しかし何か文句を言っている間に黒竜に殺されてしまうので、言い返せないようだ。アデリーナはその反応に苦笑しつつ考える。
「リビングデッド、つまり死体か。奴らが一般的に神聖なものだったからなぁ。聖なる術はあんまり知らないんだよ。雷でもいいか?」
結論が出たアデリーナは早速魔術の詠唱を始める。
「我が身に宿りし魔力、その一端を用い、雷を以て我が敵を討ち滅ぼさん。吹き荒れる嵐はあらゆるものを呑み込み、輝く雷光はあらゆるものを滅す。《雷鳴響く豪嵐よ》!」
魔力節約のため、詠唱の省略はしなかったようだ。いつもより長い詠唱を終え、アデリーナは頭上に掲げた両手の中に、バチバチと音のする球体のナニカを溜めている。
「おーい、オニーサンたち!死にたくなかったら避けな!」
一瞬だけアデリーナの方を気にした冒険者達は、一斉に黒竜から離れた。さすがに高ランクの冒険者なだけあり、動きが機敏である。
アデリーナが練り上げた魔術により風が吹き始め、地面に生えた草が揺れる。異変に気付いた竜がアデリーナを見るが、既に遅かった。
「さあ…中身ごと吹きとびな!」
光が漏れる球体からついに魔術が放たれた。球体から出る暴風と雷の塊は黒竜をあっという間に呑み込み、破壊を撒き散らしながら突き進む。光は、黒竜のだいぶ後ろにある森の一部を巻き込んでようやくおさまった。魔術の通った後には黒竜どころか、草一本残っていなかった。
「「うおおおおおおお!!!」」
冒険者達はその光景を見て歓喜に沸き立つ。周囲が喜び叫ぶ中、アデリーナは舌打ちを1つしてマジックポーションを飲み干す。
「黒竜を盾にして生き延びたのか…しぶといヤツめ。けど、さすがに無傷じゃいられなかっただろう?」
アデリーナが前半は小さく、後半は大きめの声で言う。少女の高い声は男共が叫ぶ中でもよく通り、冒険者達は何のことかと訝しげにアデリーナを見る。そしてそれからアデリーナの向いている方向を見た。アデリーナは冒険者がアデリーナの魔術の跡がある方を見たのを確認してからソレに呼びかける。
「なぁそうだろ?黒幕さん。」
アデリーナが魔術を放ち、草一本なくなったはずのそこには、いつの間にか黒いボロ切れを纏った骸骨の姿があった。
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