十六話 蘇る死獣たち
書いてみて初めて、週一投稿でも難しいと気付いた今日この頃。
毎日投稿とかしてる作者さんは本当に尊敬します。
死した魔物達が再び動き出す。通常ではあり得ないその状況に、冒険者達は混乱の極みにあった。
「終わったんじゃなかったのかよぉぉ」
「ひぃっ、こっちにくるんじゃねえ!」
あちらこちらで悲鳴が上がる。もはや戦意を失っているようだ。しかし無理もない話である、つい先ほど倒したばかりの魔物達が致命傷を物ともせずに起き上がって襲ってくるのだ。頭に剣が突き刺さったままの個体や腹から臓物をこぼしながら走っている個体もいる。間違いなく殺したはずの魔物が平然とこちらに向かってくる光景の恐ろしさは想像を絶するものだろう。
「タマモ、どうなってんの?」
「詳しいことは分かりませんが、ギルドの資料室の情報を頼りにしますと、おそらくはリビングデッドかと。」
「察するに、死体を生き返らせる魔術か何かってとこか。」
アデリーナは目の前の魔物の顎を大剣で切り飛ばしながらタマモに質問する。タマモは魔物の前脚を爪で切断しながら答えた。
「生き返っているわけではないのでしょう。現に、私の生体感知レーダーにも反応はありません。何者かが術をかけ、操っているのかと。」
「そんならその操ってる何者かをヤれれば、こいつらもあのでかいのも止まるってことね。」
アデリーナは前線に目を遣る。そこには、Bランク冒険者達に囲まれながらも全く意に介せずに暴れる黒い魔物の姿があった。
「あれは竜か?この腐った臭い、あいつが発信源だったのかね。そして魔物達が逃げ出さなかったのはあの竜に追いかけられてたからってことかな。」
「図鑑で見た限りですが、大きさや色からしてブラックドラゴンというやつでしょう。本来のブラックドラゴンは闇系の魔術を巧みに使う、とても頭の良い強力な竜であるらしいのですが…」
「魔術を使っている様子はないか。まぁ、死んでんだから当たり前っちゃ当たり前か。でも、他の魔物もそうだが、身体能力は変わらない、もしくは上がってるかもな。脳のリミッターが外れてるからか?しかも既に死んでるから死なないし、厄介な。」
「術者を見つけるまで、頭をなくしたり足を切ったりして時間を稼いだほうが良さそうですね。」
「だが、そうも言ってられないようだ。」
アデリーナはセラやパッチーのほうをちらりと見る。リビングデッド達に有効なのか、セラは光属性の魔術を使って応戦している。実際、魔術が当たった相手は動かなくなっている。しかし、セラ自身の魔力はそこまで多くないので、既に苦しそうだ。
「天上に居られます我らの主よ、今眼前に迫りし悪意に、御力による聖なる鉄槌を下したまえ!《ホーリー》!」
セラの目の前に大きな光の柱ができる。そこそこの範囲の敵を無力化したようだが、魔力が尽きたらしく、セラはその場にへたり込む。それを見たパッチーはすぐにセラのそばに来て護衛する。アデリーナも周囲の魔物を蹴散らしつつセラに近寄った。
「セラ、頑張ってるじゃん。死んだ魔物が蘇るなんて、ちょっと予想外の展開だね、これは。」
「アデリーナさん、大丈夫ですか、」
「これでもセラよりは強いからね。まぁでも、このままじゃ街は危ないかな?」
そう言ってアデリーナは辺りを見渡す。未だ減る気配のないリビングデッドの魔物達に逃げ惑う低ランクの冒険者達。Bランク冒険者達は黒竜を止めるのに精一杯で、雑魚の相手までしている余裕はない。一部冒険者達はタマモのように魔物の動きを止めることに専念しているが、数が足りなすぎるのだ。
「この様子だとそのうち冒険者は全滅して戦線は決壊、魔物達は街になだれ込むだろう。そしてその全滅の中には当然セラも含まれている、つまりセラはこのままだと死ぬ。ただし、また昨日の繰り返しになるようだが、今ならまだ逃げられるよ?幸いというか、魔物達の目的は街のようだ。」
「昨日の繰り返しになりますが、私は逃げませんよ。」
アデリーナの質問に、今度はノータイムで返すセラ。その表情は、僅かに笑っているように見える。
「…ふぅん、良い返事だね!セラがそんなに言うのなら仕方ない、私もちょっと本気出しちゃおうかな?」
「え″っ、今まで本気出してなかったんですか…」
「あったりまえじゃん!冒険者はそうそう力を見せることはしないよ、多分。」
アデリーナはセラから顔を逸らしつつ言う。後ろからセラがジト目で見ているのを感じながら、アデリーナはパッチーを手招きで呼ぶ。
「さて、今は何より手数がいる。パッチーの出番はここで一旦終わりだな、手数ならあの子のほうが良い。それに、いくら魂核持ちとはいえ3体以上の同時維持は魔力の支出が回復を上回ってしまう。」
ボソッと言いながらアデリーナはパッチーをグラちゃんの中にしまう。代わりに、グラちゃんに向かって大きな声で呼びかける。
「おーい起きろ!出番だぞ、コッペリア!!」
するとすぐにアデリーナの隣に屈んだ人影が現れた。それは重装備の鎧に身を包んでいて、ゆっくりと立ち上がった。大柄で、左手に盾を持ち、腰には剣を佩いている。顔はフルフェイスのヘルムに覆われていて見えない。鎧はアデリーナのほうに向きなおった。
「主殿、ここはどこだ?私は確かに仲間達と最上級神に挑み、そこで力尽きて休眠状態に入ったと記憶しているのだが。」
鎧の中から疑問の声が聞こえてくる。少し低めだが、女性の声だ。どうやら中身は女性らしい。
「あー、その辺の説明は後でするわ。とりあえず、今は人形召喚、魔水晶の魔力1個分使って良いよ。200は余裕だろう?コッペリア。」
「釈然としないのだが…まぁ良い、人形の召喚だな。全く、私は召喚に特化しているんだぞ?200を召喚するのに魔水晶1個分の魔力などいらんよ、せいぜい使って7割だ。それで、その後は?」
「召喚したらそのまま人形達を指揮して、あのゲテモノ達の足止め。連中、どうやら死なないらしい。だが、牙や爪をとってやれば攻撃はできないだろう、そんな感じで頼むよ。私は今から探知魔術でこの元凶を探して、そのまま殺しに行くとするよ。あ、そこにいる子守っておいてね。」
アデリーナはマジックポーションを一息で飲み干すと、そのまま詠唱し始めた。その横で、目を点にしたセラがコッペリアに話しかける。
「あの…コッペリアさんも、自動人形なんですか?」
「む?そうだ。さて、主殿に言われたことはやらねばな。あなたのことも守らねばならん。そうだ、名前はなんというのだ?」
「あ、セラです。よろしくお願いします。」
「セラ殿か、こちらこそよろしく頼むよ。さぁ、仕事をしようか。《人形召喚》!」
コッペリアが叫ぶと、周囲に軽鎧を身につけた人形が次々と召喚される。詠唱もなく召喚しており、特化型というのは本当のようだ。
「ーーーその魂を浮かび上がらせよ。《魂魄察知》」
アデリーナも魔術が完成したようで、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませている。
「そこか」
アデリーナは顔を上げると、黒竜を見据える。
「見つけたのですか?」
「ああ。あの中だな、間違いない。死んだ者に魂はないからな。」
それは死んでいる黒竜にはあるはずのないモノ。しかしその体には確かに魂が存在していた。タマモには分からないが、アデリーナの魔術から逃れることは叶わなかったようだ。
「つまりあの竜の中に元凶が隠れていると。」
「まぁ確かに頭良いよね。強いヤツの中にいれば安全ってね。そんじゃ、私は行ってくる。セラ!一息ついたらポーション飲んで周りの冒険者回復してあげなよ!」
「は、はい!」
そこまで言うと、アデリーナは黒竜に向かって駆け出した。周りの雑魚は眼中にない。ただ、死竜の中に潜む黒幕を殺すためだけに。
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