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異世界英雄は帰りたい  作者: テト
一章:叛逆の英雄、異世界に飛ぶ
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十五話 そう簡単には終わらない

遅れて本当にすみません

 







 翌朝、アデリーナ達を含むEランク以上の戦闘できる冒険者達は森に向けて行軍していた。非戦闘用員の冒険者や戦闘に自信のない冒険者は後方で待機し、緊急時に街の人々を退避させることになっている。


 緊急依頼といういつもとは違う状況下で、冒険者達の間には緊張感が漂う。出発前には多くの魔物を打ち倒してやると息巻いていた新人達も、ベテラン冒険者達から伝わってくる雰囲気に飲まれ、しばらくする頃には静かになっていた。


 しかし、そんな中でもアデリーナは平常運転であった。いつも通り口元を緩めていて、微塵も緊張している様子はない。アデリーナがそんな調子なので当然タマモもまるで緊張しておらず、アデリーナにお菓子を差し出し始めている。緊張感ゼロの主従を見ているセラは微妙な顔をして水筒の中身のお茶を飲む。


「あの、お二人はその、このピリピリした雰囲気、気にならないんですか?」

「別に?魔力を持つといっても所詮は獣。特別頭が良かったりするわけでもなし、警戒する必要はないっしょ。」


 今朝、ギルドは魔獣の森から街に向かって来ているのは、大型魔物であるケルベロスとブラッドタイガー、そしてその取り巻きの中型魔物オルトロスや多数の獣型魔物で編成された集団であると発表した。主な魔物たちについてはギルドから弱点や攻撃方法が告知され、アデリーナ達は独自にタマモが資料室で集めた情報でその精度を高めた。


「だって、ケルベロスは3つの首から火を吐いてくるそうですよ?ブラッドタイガーだって強力な風魔術に鋭い爪による攻撃にも気をつけるようにって…」

「そんな強そうな魔物は前の方にいる高ランクの冒険者達がどうにかするでしょ。私達の仕事は周りの雑魚どもを間引くこと。そんでもって相手が撤退し始めたらこっちも深追いせず引く。難しいことをしろって言ってないでしょう?」


 実際アデリーナの言うとおりで、主要な大型魔物は高ランクの冒険者達が対応することになっている。アデリーナのいるところにまで来るのは、前の方の冒険者達が倒しきれなかった弱い魔物だけだと予想できた。それに獣型の魔物は大群で現れたとき、群れの多くが倒されると撤退する習性がある。


 イージアほどの大きな街になると緊急依頼の出し方が普通の町とは違い、街全体ではなく一部からの選出となる。今回は街の、魔獣の森を主な活動拠点にしていたり、森側に拠点を置いていたりする冒険者に依頼が呼びかけられ、あとは有志での参加だった。それでも参加する冒険者は多くいて、今回の緊張依頼の参加者は300人近い。イージアのギルドの最高ランクはAランクで、Bランク冒険者も多数の所属している。今回はAランク冒険者こそ別の依頼でいないが、Bランク冒険者らはそこまで欠けていなかった。そのこともあり、アデリーナは自分達で倒す魔物はそこまで多くないだろうと予想していた。


「こんなにたくさん冒険者がいるんだよ?キツくなったら周りの手を借りればいいしね。」

「…そうですね、ちょっと力が入りすぎていたかもしれません。」

「そそ。もっと気楽にいこーよ。」


(でも、この肉の腐ったような臭いはなんだ?獣臭いとはまた違う…他の獣人達も少し顔を顰めている奴がいる。まぁ、相当な大群らしいし、そいつらが食い散らかした肉が腐ったんだろう。)


 アデリーナは獣型魔物よりも、森から微かに漂ってくる臭いが気になっていた。それは街から森に近付くほどに強くなっている。ただ、アデリーナのような獣人達にしか分からないようなものだったので、結局は無視することにした。









「接敵するぞー!!!」


 前方から伝わってきた怒号に、冒険者達はそれぞれ構えをとる。森の前の平原で休息を取っていた冒険者達は、しばらく前に帰ってきたギルドの斥候と合流し、各々準備をしていた。


 アデリーナはだいぶ前から魔物達を感知していて、その数に1人驚いていた。


(これは、一体何匹いるんだ?まるで総数が分からないんだが…少なくとも冒険者達の倍以上はいるな。セラにはああいったが、これは意外と戦う機会があるかもしれんね。)


「セラ、なんか結構いるっぽいね。さっきの言葉訂正するわ。」

「ええっ!そんな、今更言われても…」

「まぁやることは変わんないし、私もそばに付いてる。危ないことはあんまりないと思うよ。」


 接敵前の予想よりもだいぶ多いらしく、前線の困惑した雰囲気が伝わってくる。そして、アデリーナの予測よりも早く後方まで来るようだ。


「セラ、戦闘用意!」

「は、はい!」








「えいっ!」


 セラの飛ばす針が魔狼の目を貫き、魔力を通した糸が自在に動いてその首を切断する。セラは急いで針と糸を回収するが、次の攻撃に移る前に次の敵が来る。ほかにも魔物がこちらに来ており、どうやら囲み込もうとしているようだ。


「拘束の才を発現し、闇を以って汝を縛らん。《束縛する闇牢ブラックプリズン》」


 しかし、その前にアデリーナの魔術が起動して迫り来る魔物の1匹を暗黒の檻に閉じ込める。閉じ込めた魔物は放置し、周りの魔物に牽制の風弾を撃つ。囲まれないようにしつつ、隙のできた一点を目掛けてアデリーナは走り出す。


「それぇっ!」


 アデリーナはポーチの中から自分の身長ほどもありそうな大剣を取り出すと、目の前の魔物に切りかかった。突然現れた剣に不意を突かれた魔物はなす術なく斬り伏せられてしまう。そうして時間を稼いでいると、周囲の魔物の掃討をしていたタマモやパッチーが帰ってくる。


「遅くなりました、申し訳ございません。」

「いや、いーよ。魔力を抑えて戦うってのも結構勉強になるしね。それで、どんな感じ?なんか強そうな魔物はどっちもやったっぽいよね。」

「はい。どうやら大勢は決したようです。残るは中型や小型の編成の群れですが…」

「どうにもおかしいね。群れのリーダーがやられた、そうでなくても多くの魔物達が倒れたというのに、なぜこいつらは一向に撤退しない?」

「そろそろ冒険者達にも疲れが出てくる頃ですね。ですが、多くの高ランク達が今こちらに向かって来ています。敵の全滅も時間の問題でしょう。」


 そう言うとタマモはまわりを見渡す。確かに、前線から高ランク冒険者達が向かって来ており、雑魚の数は凄い勢いで減っていっている。しかし、どうにも戦場の雰囲気がおかしい。それは、アデリーナが神界大戦で敵に罠に嵌められたときのものによく似ていると思った。そして、アデリーナは戦闘前に感じた臭いが徐々に強まっていることに気づいていた。


「ようやく終わりですかね…?」

「いや、何かおかしい。どうやらまだみたいだよ。」

「へ?」








 セラが呆けたような声を出し、前を向いたとき、その光景は目に入った。どうやら冒険者の1人が戦闘が終わったことに喜びを表しているところのようだった。冒険者は剣を落とし、両手を上にあげて叫んでいる。


「いよっしゃーーーーー!!!終わっ」


 しかしその言葉が最後まで続くことはなかった。何故ならその冒険者は、数瞬前に切り殺したはずの魔物に喉笛を噛み砕かれていたからだ。


「ひっ…」


 セラがそれをみて引きつった声を出すと、それに悦びを覚えたかのように、周囲に散らばっていた死んだはずの獣達が起き上がり、一斉に咆哮を上げた。そして咆哮に呼応して森の中から巨大な黒い影が這いでる。ソレは真っ赤な瞳を光らせ、冒険者達をひとしきり睨みつけた。




「グオオォォォォォォ!!!!!!!」


 そして獣達の一斉の咆哮に負けないほど大きな咆哮を発したその魔物は、こちらに向かって猛然と走り出した。


近々一章が終わりです。

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